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世界一かわいくてかっこいい婚約者様①


 ギャレック領で起きた、魔物と隣国の襲撃から数ヶ月が経ちました。

 被害はそこまで大きくなかったとはいえ、壊れた建物や抉れた道などはまだ残っています。

 けれどギャレック家の他、周辺の貴族家からも支援が届いたおかげで復興も早く、だいぶ日常が戻ってきた気がします。


 家がまだない領民たちも、近所の人たちと協力して共同生活を送れているそうです。

 助け合って乗り越えていく姿が本当にたくましいですね!


 もちろん、私も微力ながらお手伝いに精を出していますよ!

 枯れた植物の除去作業も、掃除も、道の整備も、魔法の使えない私ではなんの力にもなれませんが……!


「領主様の婚約者様が自ら作ってくださった料理を食べられるなんて! 俺たちは幸せだなぁ!」

「それにとっても美味い! 料理のできる貴族様だなんて珍しいですな! いやぁ、驚きました」

「えへへ、お口に合ったようでよかったです!」


 こうして私は、作業を続けてくださる方々に料理を振舞っております!

 少しでもお礼がしたかったのと、領民の方々のお顔を直接見るためでもあるのですよ。


 疲弊しきっていないか、表情は暗くないか。

 困っていることはないか、病気や怪我の人はいないか、などなど。


 エドウィン様や屋敷に直接言いに来る、というのは難しいでしょうから、私のほうから歩み寄ろうと思って。

 おかげでちょっとした困りごとなんかをすぐに聞けるので、素早く対応することができます。


 エドウィン様にも褒められたんですよ? えへへ。


 領民のみなさんからは、最初はすごく驚かれましたけどね。恐縮されちゃいましたし。

 でもほら、私って庶民派令嬢なので! お話している内に皆さんが受け入れてくださったのです。


「特にこの具だくさんのシチューは格別ですよ!」

「本当ですか!? 実はそのシチュー、エドウィン様にも気に入っていただけたのです!」

「へぇ、あの領主様が……! いまだに信じられねぇが、本当にハナ様は領主様と仲が良いのですねぇ」

「それはもう! 世界で一番かわいくてかっこいい婚約者様ですから」


 それに、心配するのが烏滸がましいくらいみなさん逞しくて私のほうが元気をもらっています。

 こうしてすぐ惚気てしまう私の話も毎回聞いてくれますし。


 ちょっと恥ずかしいですが、エドウィン様のイメージ改善のためにもどんどん広めていこうと思うのです。


 あの一件以降、エドウィン様が愛らしいお姿をしていらっしゃる、という話は領内でかなり噂されているみたいですからね。

 そこに加えて私は、誰よりもギャレック領に住む人たちのことを考えているとか、恥ずかしがりやな一面もあるとか、かわいい面を多めにアピールしました。


 だって、頼もしくてかっこいいのはすでに周知の事実ですから。


 最初はなかなか信じてくれませんでしたが、私がしつこいくらいに毎回話していたのでようやく認識が変わってきたかな、といったところ。


 婚約者として、恋人として! エドウィン様のことは嘘偽りなく素晴らしい人だということをわかってもらいたいですし、今後も地道にがんばりますよ!


「それにしても、なんだか以前よりも立派な造りになった気がしますねぇ」

「そりゃあそうさ。せっかく造りかえるんだ、職人なら前よりも良い物をって考えるだろ!」

「ふふっ、とても素敵ですね!」


 本当にみなさん、頼もしすぎますね!

 おかげで完全に以前のような生活を送れるのも、あと少しでしょう。魔法の力もあって驚異的スピードで復旧していますし。


「町が完全に元通りになったら、いよいよですねぇ? ハナ様!」


 職人さんたちがにこにこしながら私に注目してきます。


 え、えへへ。えへへへへぇ。そうなんですよぉ!

 嬉しさが隠しきれず両頬に手を当てていると、職人さんたちだけで話が盛り上がり始めました。


「ついにギャレック領の髑髏領主様がご結婚だもんなぁ。いや、今は髑髏領主様じゃないか」

「そうそう、死神天使様、だっけ? でも俺ら領民にとっちゃ、最強天使様だよなぁ!」

「違いねぇ!」

「きっと豪華な式になるんでしょうねぇ。ぜひ、町中をパレードしてくださいね、ハナ様!」


 そう、結婚式です!

 きゃーっ! エドウィン様の晴れ姿が見られる一大イベントですよぉ!


 あ、私ですか? そりゃあウェディングドレスは嬉しいですが、エドウィン様の隣に立って恥ずかしくない程度に着飾らせていただければそれでいいのです。


 それに……エドウィン様なら、どんな私でも褒めてくださいます。花嫁姿の私のことも、きっとたくさん褒めてくださるでしょう。お優しい方ですからね!


「まだ少しだけ気がはやいですよ! でも、決まったらすぐに町中に知らされるかと思いますから」

「へぇ! 楽しみにお待ちしてます」


 照れつつも当たり障りなく答え、笑顔の職人さんたちに見送られながら私はその場を去りました。

 そろそろお屋敷に戻る時間ですし、考えなくてはならないこともありますからね。


 結婚式、とても楽しみではあるのです。そこは間違いないのですが……私には一つ、懸念事項がありました。

 これが解決しないと、きっと心から幸せに浸ることはできないんじゃないかと思うほど、重要なことが。


「……お父様やお母様、それからパメラにアルバート。ウォルターズ家のみんなに、エドウィン様が怖くないってわかってもらわないと」


 遠く離れた王都に住む家族は、ギャレック領の現状を知りません。今後、じわじわと噂は広がっていくかもしれませんが、すぐにとはいかないでしょう。

 だからこそ、私は手紙などで必死にエドウィン様やギャレック領の素晴らしさを書き連ねているのですが、返ってくる手紙はいつだって私を心配する言葉ばかり。ちっとも伝わっていない気がするのですよね。


 招待状を送るので、家族もギャレック領には来てくれるはず。……たぶん。

 来てくれる前提で考えた時、こちらに来てから結婚式当日までに、みんなにはわかってもらう必要があるということです。


 今のエドウィン様に会えばきっとすぐだとは思うのですが……うぅぅ、ずっと反対され続けていただけに、ちゃんと説得できるのか不安で仕方ありません!


 ですが、ぜーったいにわかってもらうんですから。そして、家族にも心から結婚を祝ってもらうんですからね!

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