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髑髏領主の仮面の下にはとってもかわいいお顔があります!〜魔力なし庶民派令嬢は溺愛し、溺愛される〜  作者: 阿井りいあ


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ギャレック領ではよくあること ⑤


 地上に出ると、町の被害がかなり酷いことがよくわかりました。


 飛び散る血、崩れた建物、地割れした地面。

 これでも被害は少ないほうだと聞いて思わず怯えてしまいましたが、エドウィン様の話を聞いて少し落ち着けました。


 なんでも、飛び散っている血はほぼ魔物のものだそうです。

 一度は追い返した小型の魔物を隣国の兵たちが領内に戻るよう仕組んだそうで……。信じられません。えげつないです、やることが!

 今日だけで私、隣国のことがだーい嫌いになっちゃいましたよ。もうっ!!


 小型の魔物を倒すのに苦労はないものの、数が多いと手間なのだとか。

 それはそうでしょうね。魔力によって増える植物といい、本気で嫌がらせ目的なんだなと思います。

 こんなことをする隣国の王様の顔が見てみたいものです!


 ……あ、いや怖いのでやっぱりいいです。金輪際関わってほしくないです。


「ギャレック領の民はみな逞しいからな。小型の魔物くらいなら一般人でも倒せる。逃げ遅れた者のための時間稼ぎくらいはできただろう」

「実際、人的被害はゼロだって聞いてるよ。冒険者は多少の怪我はしてるかもしれないが、全部軽傷さ」


 話を聞いておろおろする私に、エドウィン様とゾイがフォローを入れてくれます。少しでも安心させようとしてくださっているのが伝わって、心が温かくなりました。

 弱気になっている場合ではありませんね。領民の皆さんを見習って、私も強くならないと!


 それでも……やはり私にとってこれは凄惨な光景というやつです。まず血を見る機会がありませんでしたから。

 平和な世界で生きてきた私には刺激が強いですが、怯んでなんていられません。


「ハナ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

「無理はしないでくれ。頼むから」

「本当に大丈夫です! それに、今くらい無理はさせてください!」


 それに数秒に一度、エドウィン様が心配そうに顔を覗き込んできますからね。

 ふぅ、どうか私の体質が通用しますように。


 広場だった場所に到着すると、エドウィン様はようやく私を下ろしてくれました。

 それでも腰を抱き寄せて密着していますが……っと、照れている場合ではありませんよ!

 私たちは今デートに来ているわけではないのですから。緊張感をもたないと!


「この辺りは開けているからいざという時にすぐ離れられる。植物は増え続けて互いに絡み合っているから、全てが繋がっていると考えていいと思う」

「繋がっていれば、私が触れる回数も少なくてすみますね!」


 できれば一回で済ませたいところではありますが。

 そもそも、ちゃんと植物の魔力が全て消えてくれるかどうか……いえ、信じましょう。


「今からハナには防御の魔法をかけ続ける。かけたそばから消えてしまうから効果はあまりないかもしれないが……」

「いえ、ありがとうございます。それでも心強いです!」


 エドウィン様がギュッと私の腰を抱く手に力を込めました。

 もちろん不安ですが、きっとできると勇気をもらえた気がします。


 私にはなんの力もないと思ってこれまで生きてきましたから……いざ力を使おうと意識するのはなんだか不思議な感じがしますね。


 まぁ、力を使う感覚はないのですけど。

 でも……願ってみてもいいかな?


 どうか、私の力が通用しますように。

 町に広がる厄介な植物の魔力を、全部消したいのです。


 みなさんの力になりたい。ギャレック領を守りたい……!


 強く念じながら手を伸ばし、私は素手で植物の葉に触れました。

 ピリッとした痛みを感じた気がした瞬間、ぐんっとよくわからない力で地面に引き寄せられるような感覚が私を襲いました。


「ハナっ!」


 軽いめまい、でしょうか。大したことはありませんが、こんなことは初めてだったので少しだけビックリしましたよ。

 腰を抱いてくれていたエドウィン様が焦ったように私の名を呼んだので、すぐに平気だと笑顔を見せました。


 エドウィン様はホッとしたようなお顔を見せると、すぐに周囲の変化に気づいて目を丸くしました。


「……これは、すごいな」

「わぁ……」


 私も驚いて間抜けな声を出してしまいましたが、ゾイも周囲の髑髏師団の人たちも口をぽかんと開けて立ち尽くしているので似たようなものです。


 見事に植物が全て萎れていました。私が触れた場所からあっという間に、そして波紋が広がるかのように一気に萎れていきます。


 呆然としながらその光景を眺めていると、めまいが収まるのを感じました。

 なんとなく、繋がっている植物はすべて枯れたのだと感覚でわかって、私はゆっくりと手を離します。


 指先がほんのり赤くなっていて、ちょっとだけヒリヒリしますね。少し酸に触れてしまったのかもしれません。


「ハナ! 指先が赤くなっているじゃないか!」

「このくらい平気ですよ、エドウィン様。放っておいてもすぐ……」

「ダメだ。ゾイ、至急手当を」


 エドウィン様だけでなく、ゾイも大慌てなのがなんだか申し訳ないですね……? 治療魔法が効きさえすればこの程度、一瞬で治るのでしょうけど。

 私の場合、塗り薬を使わないといけないのが二人にはもどかしいのかもしれません。私としてはこっちのほうが慣れているのですが。


「ひゃー、すげぇもん見たっすー! もしかしてこれって、ハナ様のおかげっすかー?」


 そんな時、間延びした声が聞こえてきて振り返ると、いつぞやだったか街のおすすめスポットを教えてくれた髑髏師団のニールが立っていました。


「植物が枯れてるのもすげぇっすけど……俺はそれ以上にエドウィン様にビックリっすねー。さっきまでの恐ろしい姿の死神天使と同一人物とは思えないっすよー」

「し、死神天使……」

「あは、あちこちで言われてるっすよー? 今の領主様はとても髑髏領主とは呼べないって。死神天使って言い得て妙っすよねー!」


 ゾイから聞いてはいましたが、本当にそんな呼び名になってしまったのですね?

 死神は余計だと思いますよ! こんなにかわいくてかっこいいのに! エドウィン様は天使です。大天使です。


「ニール、と言ったか?」

「ひぇ」


 私が一人憤慨していると、耳元で低い声が聞こえてきました。

 あ、怒ってらっしゃる? そりゃあそうですよね、自分が死神天使だなんて呼ばれていたら。


 ニールはだらっとしていた姿勢を瞬時に正し、機敏な動きで敬礼をしました。


「っ、じっ、自分はもう植物が残ってないか偵察に行ってくるっす! 偵察小隊所属っすからね!!」


 声も大きいです。だらしない姿しか見たことがなかったので、新鮮ですねぇ。

 さすがは髑髏師団の一員、やる時はやるのでしょう。かっこいいですよ、ニール。

 シャツがきちんとしまってあったらもっとかっこよかったかもしれません。


 そのまま駆け出して行くニールの背に向かって、私は声をかけました。


「気をつけてくださいね、ニール!」

「っす!!」


 振り返ることなく、それでいて元気な声で返事をするニールに思わず笑みがこぼれます。


 その後、ニール含む髑髏師団の皆さんが町中を見回って、植物が全て枯れていることが確認されました。

 増殖するのは勘弁願いたいですが、そのおかげで全てが繋がっていて私が触れるのも一度で済んだのは不幸中の幸いというやつでしょうか。


 被害はそれなりにあるので復旧に時間はかかるかもしれませんが……とにもかくにも、突然訪れたギャレック領の危機は、こうして無事に乗り越えることができたのでした!


 ちなみに、エドウィン様が精鋭部隊を率いて隣国に強めの警告をしたそうですよ。

 それによって、当分の間はギャレック領に攻め入ることはないだろうとゾイが言っていましたが……なんだかその笑みが不穏でしたね。


 一体、どのような警告をしたのか少し気になりますが、世の中には知らなくていいこともあると言われてしまいました。


 うーん? エドウィン様は交渉の腕も素晴らしい、ということでしょうかね?

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