ギャレック領ではよくあること ④
しばし放心状態なゾイでしたが、すぐに念話でエドウィン様に連絡を取ってくれました。
「エドウィン様が迎えに来るそうだよ」
「えっ、直々にですかっ」
「少しも危険にさらしたくないんだろうよ。言葉に甘えて守られな」
えっ、そんなことを言われてしまったらときめいてしまうではないですか! それどころではないのに、きゃー!
両頬に手を当てて照れていると、ゾイに呆れたような目を向けられてしまいましたが、これは仕方のないことなのです。許してください!
「ハナ!」
「エドウィン様!」
そうこうしている間に、エドウィン様が本当に駆けつけてくださいました。
最後に見たのはデート服でしたので、鎧を身に纏ったエドウィン様を見てうっかり鼻血が出そうになってしまいます。
ああ、素敵……どうして私の婚約者様はいつも素晴らしいお姿を見せてくださるのでしょう!
と、見惚れている場合でも倒れるわけにもいきません。
真剣なお顔を見るに、私のことをとても心配してくださっているのがよくわかりますから。
エドウィン様は私の前まで来ると、眉尻を下げながら口を開きます。
「ゾイから聞いたが……本気でやるつもりか?」
「はい。私が触れた程度でその植物をどうにかできるかはわかりませんが……可能性があるならやってみるべきだと思うのです! 少しでも早く植物を除去したいのですよね?」
「それは、そうだが……」
どうしたのでしょう? 試す価値はあると思うのですが、なぜかエドウィン様は渋い顔をなさっています。
もしかして乗り気ではないのでしょうか。たしかに私は足手纏いになってしまうかもしれませんが……。
「植物には近づくのも危険だ。あちらこちらから酸が飛んでくる。触れた瞬間に手を怪我するかもしれない」
あ……これは、違いますね。
エドウィン様は私を足手纏いだとか邪魔だとか思っているのではなくて。
「それに、ハナの力を使うのだとしても直接触れなければならない。素手で植物に触れるなんて危険すぎる」
心配してくださっているのですね。ああ、胸がギューッと締め付けられます。キュンキュンします。
いえ、ときめいている場合ではないので私も主張しましょう。
「たとえそうだとしても、少しくらいは平気です。怪我はいずれ治りますし」
「だがハナには治療魔法をかけることができないだろう!」
実際、もし私が怪我をするようなことがあれば、人よりも治るのに時間がかかるのはたしかです。
他のみなさんは治療魔法で一瞬ですもんね。でもその分、体力を消耗すると聞いたことがあります。
つまり、どっちもどっちなのでそれは言い訳にできませんよ。
「早く対処できればその分危険な目に遭う人も減りますし、復興も早いですよね? 被害を最小限に食い止めるためにも、私は挑戦したいです」
危険な思いをしながら対応にあたってくれているのは髑髏騎士団や冒険者のみなさんも同じではないですか。訓練しているとはいえ、リスクは同じです。
「私にもできることがあるのなら、やりたいんです! お願いします、エドウィン様。私にやらせてください!」
私が触れたところでなにも変わらないかもしれません。行くだけ無駄かもしれませんし、怪我をするだけでなんの成果もないかもしれない。
それでも挑戦せずに後悔するよりやって後悔したいですよ、私は!
エドウィン様の手を両手で握りしめながら、真っ直ぐ彼の瞳を見つめました。
今だけは見惚れたりしません。遊び半分で言っているわけじゃないってこと、わかってもらいたいですから。
「ああ、まいったな。ハナ、それはずるいよ」
「えっ」
「俺はハナにお願いされると断れない」
エドウィン様は困ったように微笑んで、私の手を優しく握り返してくれました。
どうやら意志は伝わったようです。それじゃあ……!
「絶対に俺の側を離れないこと。約束してくれるか?」
「もちろんです!」
「ハナには利きが悪いかもしれないが、防護の魔法を常にかけ続ける。植物に触れる瞬間だけは解除するが……危険だと判断したらすぐにその場を離れる。それでもいいか?」
「はい!」
その他、私のことはエドウィン様が抱きかかえて移動するとか、すぐに治療ができるように薬をたくさん持っていくとか、色んな注意点を言われる度、私は良い返事を繰り返しました。
側で見ているゾイがだんだん呆れたように目を細めていましたが、こちらは真剣ですので!!
「……それなら、行こう。植物に触れる時以外は、俺が絶対に守るから」
「は、はい」
我慢していましたがやっぱり限界です! かっこよすぎの罪ですよ、エドウィン様っ!
守ると言われてときめかない乙女はいませんよ、はぁ、素敵すぎます……。
「そんじゃあ、あたしはハナ様を抱えるエドウィン様の周囲の警戒をしようかね」
「ああ、頼む」
これは頼もしいですよ! 大量の薬もゾイが大きなカバンに入れて持ち運んでくれるみたいです。
すごい。私ならあのカバン、持ち上がらない自信があります。それをあんなに軽々と。
やはり私も少しは力をつけるべきかもしれません。事態が落ち着いたら検討しましょう、絶対に。
「ハナ、抱き上げるぞ」
「っ、はい! お、お願いします」
私が返事をすると、エドウィン様はすぐにひょいっと私を横抱きにしました。はわ、相変わらずの力持ちです。
両手が塞がるので心配しましたが、基本的には魔法で対処するので問題ないとのこと。本当にすごい人だと何度でも思います。
「よし、行くぞ。ゾイ、しっかりついてこいよ」
「は、誰に物を言ってるんだい。あたしゃまだ老いぼれちゃいないよ」
ゾイの軽口がなんだかおかしくてクスッと笑ってしまいます。
それを見てエドウィン様も僅かに口角を上げた気がしました。もしかしたら、緊張を解してくれたのかもしれませんね。
よぉし。少しだけ不安ですが、私もがんばりますよ! どうか、私の力が通用しますように。