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ギャレック領ではよくあること ②


 わけもわからずゾイに抱えられ、移動したのはほんの数分ほど。

 どうやらゾイは屋敷の地下に避難したみたいです。


 どこかのドアだか壁だかを通り抜け、暗い階段をひたすら下りていましたからね。

 成す術もなくものすごいスピードで移動したものですから、今の私は軽く目を回しております。き、気持ち悪い……!


「ふぅ、ここまで来れば安全さね。ハナ様、だいじょ、ハナ様!?」

「だ、だいじょぶぅ……」

「……目を回したのかい。悪かったね。非常事態だったもんでね」

「わかってます、気にしないでくださ、うっ」


 ゾイは私の安全を第一に考えて必死で動いてくれたことくらいわかります。ただ、状況把握の前に少しばかり休憩は必要ですね。ふぅ、ふぅ。


 少しずつ落ち着いてきたので、ようやく周囲を見回す余裕が出てきました。

 ここは地下、ですよね。薄暗いながらも明かりの魔道具がたくさんあるのでそこまで気になりません。


 広い部屋にもみえますが、壁は岩肌が見えていたりするので坑道のような印象です。

 本物の坑道には行ったことがないので本の知識しかありませんが。


「ここは地下シェルターだ。道がいくつも別れていて、迷路みたいになってんのさ。追っ手がいても撒けるし、隣町まで逃げることもできる」

「ふわぁ、すごいのですね、ギャレック領……」

「争いの多い領だからね。ただこの場所はギャレック家専用の地下シェルターだ。他の領民の避難場所からは隠し通路を通らなきゃ来られない場所さ」


 つまり、ギャレック家専用の避難場所ってことですね。さすがは辺境伯、守りが徹底していますね……。

 今、私がその守られる側というのが不思議な感じがしますが。


「いざという時の備えは世界一さね。領民も避難訓練は受けているし、髑髏師団が誘導してるだろうから心配はいらないよ」

「それならよかったです」


 領民のみなさんが無事だというのならなによりです。それが一番大事なことですからね!


 まず戦う術のない人たちを避難させることで、髑髏師団も冒険者たちも全力で戦うことができるのだと言います。

 なるほど……そう考えると迅速な避難はなによりも大切なのだとわかりますね。


 では次に、今何が起きているかを聞いておきましょう。


 ゾイはなにから説明すれば私を含む避難した人たちが安心するかをわかっているのでしょう。それが余計に頼もしいです。


「魔物のスタンピードに乗じて隣国が攻め入ってきたのさ。あいつら本当に懲りないやつらでね……その根性と執念だけは認めてやる」


 なんてこと! 災害で苦しんでいる人たちに追い打ちをかけるような真似をするなんて、隣国の方は人の心がないのでしょうか。憤りを感じます……!


 つまり、今は動ける人たちが対応に追われているのですね? やっぱり心配です。


「エドウィン様や髑髏師団、町は大丈夫なのでしょうか……」

「すでに最大の弱点であるハナ様の避難がすんでる。だからもう勝ったも同然さね。町は多少壊れたとしても作り直せるが、ハナ様が取られてしまったら一気に形勢逆転しかねないから」

「あ……」

「気にするかい?」


 私が、最大の弱点。

 そりゃあ無敵のギャレック領を攻めようと思った時、弱い部分をつくのは正しい戦略なのでしょう。

 わかってはいましたが、責任を感じますね……。でも!


「気にならないと言えば嘘になりますが……足手纏い以上に、私はエドウィン様のお力になれると思っていますから!」

「いいね。それでこそハナ様だ!」


 ウジウジなんてしていられません。今後は私も積極的に避難訓練に参加しようと思いますよ!

 できることを一つずつ増やしていけばいいのです。

 私にはゾイのように、心強い味方がたくさんいますからね!


「しかし、奴らも今回のことで懲りるだろうよ。当分はしかけてこないさ」

「え、どうしてですか?」


 私が訊ねると、ゾイはニヤッと悪い笑みを浮かべました。に、似合いますね、その笑い方……! 迫力があります。


「エドウィン様を本気で怒らせたからさ。ハナ様とのデートを邪魔され、遠回しに狙われたとあって今のエドウィン様は味方でさえ近づくのが恐ろしいことになってるよ」

「えっ」


 ゾイも直接見たわけではないらしいのですが、前線で戦っているにもかかわらず領内を埋め尽くすほどの魔圧が広がっているのだそうです。

 戦場がエドウィン様の魔圧で埋め尽くされることはよくあるそうなのですが、領内にまで影響が出るのは初めてとのこと。


 それほどエドウィン様のお怒りは凄まじく、髑髏の仮面をかぶっていた時以上の恐ろしさだろうとゾイは語りました。


「今日のエドウィン様を一目でも見た者たちはトラウマになるだろうね。暴虐天使とか死神天使って単語を耳に挟んだよ」

「ええ……まぁ天使には違いありませんけれど」

「安定のハナ様だねぇ」


 髑髏領主よりも恐怖の大王感が増した気がしますね……!

 ただ、エドウィン様は素顔を晒すことで威厳が損なわれるのではと危惧していらっしゃいましたので、今回の件で問題は解決したのでは? 状況が状況だけに手放しで喜べませんが。


「とまぁ、おかげで領民の避難は迅速だったよ。なんせ魔圧のおかげで警報がなるよりもずっと前に全員が完全に目覚めていたからね」

「領民の皆さんはすごいですね! 私なんてなにも気づかずぐっすり眠っていましたよ!」

「そっちのほうが規格外なんだよ、ったく」


 あ、そうか。でもみんながささっと動いている時に一人ぐーすか寝ているのって間抜けすぎません?

 すごいと言われても喜べませんね……。


 くっ、辺境伯夫人は寝坊助なんて言われたらどうしましょう!


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― 新着の感想 ―
死神と天使が合わさり最強に見える……ってやつかな? いや実際最強なんだろうけど。
ハナが平和にのほほんと暮らしていけてるのが、なによりも皆(特にエドウィン)の願いだと思うの なので、寝坊助と言われても『えへへ』でいい(´-ω-)ウム
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