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ギャレック領ではよくあること①


 その日の夜は、ずっとあちらこちらで大きな音が響いていました。

 髑髏師団の皆さんや冒険者の方々が休む間もなく戦ってくれているのかと思うと、安全な場所で一人眠る気にはなれません。


 そうは言っても、他にやれることなどないのですけれど。

 祈ることはできますが、それが何になるという感じですし……もどかしいですが、無力な私は待つことしか出来ません。


「ハナ様はもう寝ちまいな! 朝になればすべてが終わっているさね」

「それはわかっているのですが……」

「心配なのかい?」

「はい。いらぬ心配だということもわかっています。エドウィン様も皆さんも、とてもお強いということ……でも」


 私がうじうじと呟いていると、ゾイがぽんぽんと優しく背中を撫でてくれました。

 隣に座ってもいいかという質問にすぐさま頷くと、ゾイはベッド脇に腰を下ろしました。


「それでいい。いや、ハナ様にはそのままでいてほしい、だね。あたしたちはね、勝って当然だと思われているから心配されることなんて滅多にないのさ。実際、隣国の攻撃も魔物の襲撃も脅威に思っちゃいないし、負ける気もしない」


 断言するゾイの様子を見ていると、本当に心配なんていらないんだなと思わされます。

 エドウィン様や髑髏師団への絶対的な信頼がうかがえます。元団長さんですし、自ら鍛えた者たちがいるというのもあるかもしれませんね。


 なんだかますます、私などが心配するのはおこがましいというか、余計なお世話な気がしてきました……!

 でも、戦いに慣れていない私としてはどうしても心配になってしまうんですよ!


 これも時間が解決するのでしょうか。エドウィン様の妻としてまだまだですね、私……。


 ちょっぴり落ち込みかけた私に気づき、ゾイが軽く私の背中を叩きました。

 い、痛いっ! ゾイはかなり手加減したのでしょうが、貧弱な私にはなかなかのダメージ!


「そんな顔をしなさんな! それでも心配して祈ってくれる存在がいるとわかると嬉しいもんさ。それに、力が湧いてくる。ハナ様に応援された今のエドウィン様は、過去最高に強いさね」


 えっ、ただでさえ強いエドウィン様がさらに!?

 私にそんな力があるとは思えませんが……いえ。


 好きな人に応援されたら、いつも以上に力が湧くのはわかります。エドウィン様もそうなら、私もとても嬉しいです。


 私がギュッと拳を作っていると、ゾイはふっと笑って両手を後ろにつきました。

 勢いでベッドが揺れ、うっかり後ろにころんと転がりそうになりましたが耐えました。ふぅ。


「眠りたくないというのなら、あたしが朝まで話し相手になるよ。だが朝になって寝不足で、エドウィン様との時間が取れないなんてことになったら……そっちのほうが後悔するんじゃないかい?」

「そっ、それは嫌ですね! でも帰ってきたらエドウィン様もお休みになられるのでは」

「あっはっは! あの人は三日三晩平気で魔法をぶっ放せるお人さ! むしろハナ様と話せないほうが落ち込むだろうよ」

「ええっ、ダメですよ! 睡眠は大事ですよ? いくら大丈夫とはいえ、あとでお身体に響きます」

「なら、ハナ様がそう注意しておくれ。あたしらの言うことなんざ聞きやしないんだから」


 ゾイはまるでエドウィン様の親のようなことを言います。ゾイにとっては息子みたいな存在なのでしょう。

 はー、なんだかようやく肩の力が抜けた気がします。ゾイのおかげですね!


「よぉし。それなら私はもう休みます。祈りながら眠ります。朝になったらたくさんエドウィン様のお世話をしたいです!」

「お世話ときたか。じゃあ、使用人たちに伝えておこうかねぇ」

「あっ、お仕事を取っちゃう形になっちゃいますかね?」

「構わないさ。エドウィン様の奥方になるハナ様は、好きなように動いたらいい。誰も文句なんか言いやしないよ」


 ゾイは目尻にシワを寄せながら笑うとベッドから立ち上がり、私を寝かせて布団をかけてくれました。

 ふふっ、なんだかお母様みたいです。


「ゆっくり休みな。ハナ様」

「はい、おやすみなさい。ありがとう、ゾイ」


 明かりを消してゾイが部屋を出ていくと、あれだけ眠れそうになかったというのに私はあっさりと睡魔に襲われました。

 これなら明日は、万全の状態でエドウィン様をお迎えできそうですね!


 ——けれど。

 ほんの数時間後に私はけたたましい警報の音で飛び起きることとなりました。


「っ、な、なに? 何ごと!?」


 ガバッと上半身を起こすと同時に、室内にゾイが飛び込んできました。


「ハナ様、緊急事態さね! 避難するよっ!!」

「へ、あ、わぁっ!?」


 寝起きで頭が働いていない私はすぐに反応を返せません。ですがゾイはそれすら待っている暇はないとばかりに私を毛布ごと抱き上げるとものすごいスピードで走りだしました。


 な、な、なにが起きたんです……!?

 怖いとか不安とか、それ以前に今もなお鳴り響く警報に、私の心臓はずっとバクバクと激しく鳴るのでした。

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