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素顔の婚約者様④


 ほっこりとした雰囲気の中、先ほどの責任者さんが戻ってきました。

 手には深い藍色の小さな箱。エドウィン様が受け取って中を確認すると、嬉しそうに目を細めました。


「いい出来だ。感謝する」

「もったいないお言葉です」

「感謝ついでに、奥の部屋を借りてもいいだろうか」

「もちろん、ご案内いたします」


 責任者さんは終始ニコニコしており、先ほどの緊張は一切見られません。魔圧の衝撃などなかったかのよう。

 しばらく後を引くほどだと聞いていましたが、胆力があるのですねぇ。それを言うと、店員さんも立ち直りが早いような気がします。高級店で働いている方々は違いますね……!


 あ、もしかすると、ギャレック領に昔から住んでいらっしゃる方々は多少の耐性があったりするのかもしれません。

 つまり、ギャレック領民がタフなのでしょう。強さの秘訣を垣間見た気がしますね……!


 私がそんなことを考えている間に、エドウィン様とともに案内された部屋へと辿りつきました。

 責任者さんがごゆっくりどうぞとだけ告げて退室すると、部屋にはエドウィン様と二人きりになります。


 静まり返った密室空間って妙に緊張しますね……! ところで、この部屋でなにかするのでしょうか? 手を引かれるままついてきましたけれども。


 首を傾げながらもエドウィン様とともにソファに座ります。手を繋いだままなので距離も近く、心臓がうるさくなってきました。


「ハナ、これを」

「え?」


 ドキドキした状態でエドウィン様に声をかけられ、パッと顔を上げると……彼の手には先ほど受け取っていた青い小さな箱が。


 ……あ、れ? もしかして、もしかします?


「あの、これ」

「開けてみてくれ」

「は、はい」


 箱を開けると淡い水色の綺麗な宝石のついた指輪が光っていました。


 ああ、やっぱりこれは……! 世の女性たちの憧れでは? まさか私にこんな日が来るなんて!


「婚約指輪として受け取ってほしい。色々と順番がめちゃくちゃになってしまったが……この指輪はハナのための特別仕様なんだ」

「特別仕様、ですか?」

「ああ」


 なんでも、この淡い水色の宝石は魔石なのだそうです。それもエドウィン様が自ら調達してきてくださった、最高級品なのだとか。ひぇ。


 けれど私が最も感激したのは、この指輪があれば私でも魔道具を使えるということ。ミシュアルが手伝ってくれてこの魔石を完成させてくれたんですって。


 もう、こんなの嬉しすぎます。


 目の奥が熱くなって、つい涙がぽろぽろと溢れてきてしまいました。


「は、ハナ?」

「うぅ、ありがとうございます、エドウィン様……じ、実は私、ずっと強がっていましたが、本当は……っ、本当は、みんなと同じように魔法や魔道具を使ってみたかったのです」


 できないことを言えば、周りの人を困らせるってわかっていました。それだけは絶対にしたくなかったのです。

 でも、心の奥では幼い頃の夢がずっと残っていて。


 憧れていて。ずっとずっと羨ましかった。


「エドウィン様は、私の夢をたくさん叶えてくださいました。だから、う、嬉しくて……」

「ハナ……」


 子どものように泣きじゃくってしまう私を、エドウィン様は優しく抱きしめてくれました。

 温かな腕の中、私もつい甘えて寄りかかってしまいます。


「他にも叶えたい夢があったらなんでも言ってくれ。ハナの望みならなんでも叶えてやりたいんだ」

「ふふっ、それは甘やかしすぎですよぅ」

「ハナを甘やかすのは、俺の特権だろう?」


 思わずクスクス笑っていると、涙も引っ込んでしまいます。

 この調子で甘やかされていたら、どろどろに溶けちゃいますね。そうならないように、私が気を引き締めませんと!


 エドウィン様が紳士的に差し出してくださったハンカチで目元をそっと拭えば、もう元通り。いつもの元気が取り柄の私に戻りましたよ!


「加えてこれには俺の魔法も込められている。俺が近くにいない時でもハナを守れるように……」

「エドウィン様の……! では、これはお守りでもありますね」

「ああ、そうだな」


 エドウィン様は、そう話しながら指輪を私の指にはめてくれました。

 ああ、憧れのシチュエーションです。またしても夢が叶っちゃいましたよ。


「ハナ? どうした? 気に入らなかったか?」

「そんなわけありません! 本当に、本当に嬉しくて……! エドウィン様、ありがとうございます!」


 せっかく引っ込んだ涙がまたしても溢れてしまいそうだったので、私は誤魔化すようにお礼を告げて、今度は私から抱きつきました。


 ちょっと大胆だったかな、とも思いましたが……エドウィン様が笑って受け止めてくれたのがとても嬉しいです。


「喜んでもらえてよかった。ハナ、君を一生守ると約束する」

「っ、……ぃ、はい、私も、エドウィン様を一生お守りしますぅ!」

「ははっ、誰かに守ってもらえるのは初めてだ」


 ああ、やっぱりダメですね。また泣いてしまいました。

 でもこれは嬉し涙ですから。


 人生で最高に幸せな涙くらい、思い切り流してしまおうと思います!


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