素顔の婚約者様③
改めてプロポーズをしていただいてから数日後、二回目のエドウィン様とのお忍び町デートの日がやってきました!
私は町娘風にみつあみをし、動きやすくもかわいいワンピースに身を包んでおります。
ポイントはエドウィン様の髪と同じ色をしたリボンです。ふふふっ。
準備を終えてゾイとともに玄関ホールまで向かうと、すでにエドウィン様が待っていらっしゃいました。
以前もそうでしたが、町の青年風エドウィン様もとっても素敵ですぅ! かわいくてかっこいい!
私の婚約者様……いえ、想いが通じあった今、私たちの関係はこ、こここ恋人ですよね! え、えへへ。んふふ。
「ほら、にやけてないでエドウィン様の手を取りな」
「はわ、顔に出ていましたか?」
「ハナ様はすぐに顔に出るからねぇ」
「は、恥ずかしいです……!」
ゾイに言われて両頬を押さえながら照れていると、エドウィン様がクスッと笑いました。うっ、その笑顔も今の私には刺激が強いです……!
とまぁいつまでもこんなことをしている場合ではないのでゾイに背を押されて私はエドウィン様の手を取りました。
私の手が触れるとエドウィン様はどこかホッとしたような顔を浮かべてくれます。だから私も、彼のお力になれているのだと自信が持てました。
ちなみに本日のデートは、エドウィン様がいれば基本的に護衛は必要ないとはいえゾイも一定の距離をあけて私たちについてきてくれるそうです。
念には念を、ということで影で動く部隊の何人かも潜ませるのだとか。
手厚い……。つくづく、未来の辺境伯夫人という立場を理解させられます。
早速、私たちは屋敷を出て町へ向かいました。
すごい……一歩外へ出た瞬間から、側にいたゾイや護衛の方々の姿が消えました。エドウィン様は気配を感じるのでしょうけれど、一般人の私にはさっぱりわかりません。プロですね……!
せっかく二人きりにしてくださったのですから、デートを楽しもうと思います。
初デートで手を繋いだから、今日はいくらか余裕があります。ずっとドキドキはしてますけどね!
「今日、向かう場所は決まっているのですか?」
「ああ。行きたい店があるんだ。付き合ってくれるか?」
「もちろんです! なんのお店なのですか?」
「それは行ってからのお楽しみだ」
にっと笑ってこちらを見たエドウィン様は、まるで少年みたいに見えました。ずっと年上だというのに失礼かもしれませんが、そんなエドウィン様も素敵です!
そうしてやってきたのは高級感溢れる宝飾店でした。はわ……エドウィン様の婚約者にならなければ一生縁がなかったであろうお店です。
緊張して入り口で立ち止まってしまう私の手を優しく引き、エドウィン様は堂々とした足取りで店内へと入っていきます。
「注文していたものを取りに来た」
「いらっしゃいませ。それでは、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「エドウィン・ギャレックだ」
「……い、今、なんと?」
あっ、店員さんのお顔が引きつりましたね……! 本名を名乗っちゃいましたしね。
その後、店員さんは慌てたように店の奥へ向かうと、数秒後にはおそらくお店の責任者さんを連れて戻ってきました。
「お待たせして申し訳ありません。失礼かとは思いますが……エドウィン・ギャレック様と証明できるものはございますでしょうか」
責任者の方は緊張した面持ちでそう告げます。
素顔を知らないのなら仕方のないことですね。それでも、虚言だと追い返すことなく丁寧に対応するその姿勢には好感度が持てました。
「では……少しだけ、気をしっかり保っていてくれ」
「え、は」
エドウィン様はそれだけを言うと、数秒間だけ私の手を離しました。
離した瞬間、責任者さんと店員さんは揃って顔を引きつらせます。店員さんにいたっては膝をついてしまいました。ああ、やはり魔圧というのはすさまじいのですね……!
心配になってしまった私は慌ててエドウィン様の手を掴みました。
そんな私の様子を見てエドウィン様がフッと微笑んでいます。ああ、素敵……じゃなくて、お二人とも大丈夫でしょうか?
「すまないな。これで証明になっただろうか」
「は、はいっ! 直ちにご注文の品をお持ちしますので、暫しお待ちを……!」
「心を落ち着けてからで構わない。急に店に来た俺がよくなかった」
「とんでもございませんっ! 我がギャレック領の領主様が直々にいらしてくださったこと、大変光栄でございますのでっ!」
責任者さんは手を軽く震わせながらもそのお顔には喜びが溢れているように見えました。
きっと本当に光栄だと思ってくださっているのでしょう。
ちなみに店員さんは驚愕の表情を浮かべており、事態を理解するのにもう少しだけ時間がかかりそうですね。ちょっとだけ申し訳ない気もします。
「……お披露目の時は、こういう者たちが続出するのだろうか」
「半分以上は魔圧の影響じゃないでしょうか?」
「ああ、そうかもしれないな。だが……驚かせてしまうことには変わらない」
そう言いながら目を伏せるエドウィン様は、どこか諦めたようなようにも見えました。
いいえ、違います。違いますよ、エドウィン様! 私はギュッと手を握っていた力を強めました。
「驚きはすると思いますが、先ほどの方はエドウィン様だと知ってとても喜んでいらっしゃいました。嬉しい驚きになると思いますよ」
「そう、だろうか?」
「はい! エドウィン様はもう少し、領民から尊敬されていることを自覚したほうがいいです!」
手を繋いでいない左手で人差し指を立てながらそう宣言すると、背後から援護の声が聞こえてきます。
いつの間にか立ち上がっていた店員さんでした。
「そ、その通りでございます! ご事情は存じ上げませんが……我々ギャレック領に住む者たちは皆、エドウィン様を尊敬し、敬愛しておりますよ!」
「店員さん……!」
「その、お見苦しいところを大変失礼いたしました。改めまして……ようこそおいでくださいました。足を運んでくださり、とても嬉しく思います」
まだ緊張した様子ながらはっきりと断言してくださいました。なんて良い人!
呆気に取られたように目を丸くしていたエドウィン様でしたが、私が「ね?」と声をかけると恥ずかしそうに微笑んでくれました。
そんなお顔もとってもかわいいですっ! そう思いませんか、店員さん!




