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素顔の婚約者様①


 エドウィン様があっという間に転移で執務室を去った後、私はしばらくソファーに座ったままぼんやりと天井を見上げていました。


 今起きたことが、あまりにも現実味がなくて……。


 いえ、でもさすがにもうこれは夢だったんだとは思いません。

 昨晩からずっと、夢よりも夢のような出来事ばかりで……き、キキキキスまでされてしまいましたし。


 ぼっと顔が熱くなってしまったので、思わず両手で頬を押さえます。

 幸せで、夢見心地で、嬉しくて……そして、とても切ない気持ちで胸がいっぱいです。


 そう、切ないのです。

 エドウィン様はずっとお一人で大変な思いをしてきたのだろうと予想はしていましたが……そこに自覚がないほどだったなんて思いもよらなくて。


 こうしてやっと私に頼って弱音を吐いてくれたことがとても嬉しいとともに、これまでのエドウィン様のことを思うとなぜか涙が溢れてきました。


 これまでの彼を救うことは出来ないかもしれませんが、これからの彼に寂しい思いは絶対にさせたくありません。


「愛していると言ってくださいました……」


 この言葉と想いの重さを、私はきちんと受け止められるでしょうか。

 もちろん私だってエドウィン様が大好きですし、その、キスだって……嫌じゃなかったです。むしろ嬉しいくらいで。


 だけど、彼の想いをちゃんと受け止めて支えていけるほど人間ができているとは思えないのですよね。

 同時に、そんな言い訳をしてる場合でもないってわかってます。


 だって、せっかくエドウィン様が勇気を出して大きな一歩を踏み出してくださったのですから。この思いを受け止めないという選択肢はありません。


 なんとしてでも、エドウィン様を支えられる妻にならなくては……!


 で、でも、これまで私が張り切った結果、支えるどころか迷惑しかかけてないのですよね。

 どうしてこんなに空回りする私を好きになってくださったのかわかりません。奇跡です。


「私にできることは、お側にいるって毎日お伝えすること。そして、近くにいる間は常にエドウィン様に触れていること、くらいでしょうか」


 ああっ、できることが少ない自分が恨めしいっ!


 でも、私には魔力を消すという体質があります。普通の人であれば疲れさせてしまう呪いのような体質ですが、エドウィン様にとっては唯一気が抜ける瞬間になるのですよね?


 正直なところ、私の体質は不便でしかありませんでした。魔法はおろか魔道具まで使えず、コンプレックスだったのです。

 気にしないように、そして両親を悲しませないためにも前向きに生きてきましたが、やっぱり落ち込む日もありました。


 それが、大好きな人の力になれるとわかった今、嬉しくて仕方ありません。ようやく私の役目をもらえたような、そんな気がして。


 きっとこれは運命ですよ。私はエドウィン様に会うためにこの体質で生まれてきたのだと自惚れたくもなります。


 よし、私の目指す先は癒し系! これです!


 今日は早く帰ってきてくださるとのことですし、あんな話をした後なのでとっても恥ずかしいですが……ここ最近お忙しいエドウィン様を癒すためにもどーんと構えていようと思います。


 ふふっ、夕食の時間が待ち遠しいです! 


 ◇


 ……と、思っていましたよ。いえ、待ち遠しい気持ちに嘘はないのですけれど。


「うちの食事は口に合うか?」

「は、はい! とっても!」

「よかった。たくさん食べてくれ」


 食事中、エドウィン様がずっとニコニコしながら私を見つめてくるのが、もう、もう、恥ずかしすぎるのですがっ!?


 あんなに恥ずかしがり屋で、目が合うだけですぐに顔を赤くするほど初心だったエドウィン様が、まるで別人かと思うほど甘い視線と声をかけてくるのですよ?


 どういうこと? どういうことです?


 今や私のほうが慌ててしまって、エドウィン様の視線から逃れるように美味しい料理を見つめてしまっています。


 本当は私もじっくりお顔を拝見したいっ! でも彼の微笑みや甘い視線の威力が高すぎて心臓発作を起こしそうで無理っ!


 立場が逆転してしまったというか、急に大人の余裕を見せられて困惑しています。もともと、私よりずっと大人なのは知っていましたが、今初めて実感していると言いますか……。


 もぐもぐとメインデッシュのお肉を頬張りながらちらっと視線を向けると、ずっと私を見つめていたらしいエドウィン様と目が合ってしまいました。はわ……!


「可愛い」

「んぐっ」


 直球すぎるお言葉と天使のような笑顔にそろそろ呼吸が止まります!

 危うく喉に詰まらせるところでした……。エドウィン様の笑顔はもはや凶器ですね。


「……エドウィン様。あまり見つめすぎるとハナ様が落ち着いて召し上がれませんよ」

「そんなに見つめていたか?」

「無自覚かい……初恋を拗らせてるね、こりゃ」


 ゾイに言われてきょとんとした後、気まずそうに頬を人差し指で掻くエドウィン様もまたかわいすぎますぅ……。


 確か食事の後は二人で話したいと言われているのでしたっけ。わ、私の心臓は無事でいられるのでしょうか?


 まさかここまでエドウィン様が甘くなるなんて予想外ですよぉ!?


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― 新着の感想 ―
まだこれから以上に、だと思う
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