髑髏領主の本気⑤
あれから俺はハナをベッドに寝かせると、逃げるように自室へと戻った。
普段からあまり眠れないが昨晩は一睡もできず、翌日ハナになんと言おうかと頭を悩ませることとなった。
少しでも安眠を、と思ってハナの下へ向かったというのに俺は何をやっているんだ。
だがそうしてあれこれ考えたおかげで気持ちも落ち着き、昨晩のことは素直に謝りつつもこの調子でハナを口説き落としていこうと心に決めた。
それに……なんとなくだがハナは昨晩のことを夢だと思っていそうで。遠慮などしていたらいつまでたっても俺の気持ちは伝わらないからな。
「あれ? エドウィン様!?」
「ああ、おはようハナ」
「おっ、おはようございます! ……え、と。あれ? お仕事は……」
「少し遅れて行くことにしたんだ」
こういうのは後回しにすべきではない。
そう考えた俺はゾイに伝言を頼むのではなく、朝一で直接ハナの下へと向かった。
向かう途中、ちょうど身支度を終えて部屋から出てきたばかりのハナと遭遇したので彼女の様子を見ながら口を開く。
「ハナ。朝食の後、少し時間をくれないか?」
「そ、それは、はい。もちろん」
ハナはどことなく照れた様子を見せていたが、昨晩のことをしっかり覚えていたらきっともっと慌てるはずだ。
夢だと思っていそうだという俺の予想は当たっているのだろう。
やはり朝の内に時間を取っておいてよかったと思いながら、朝食後に執務室に来てくれるよう声をかけた。
ここのところ通い詰めとなっている、北を守備する塔に関する必要書類をまとめていると、ハナが執務室へとやってきた。
どことなく居心地悪そうにしながらも、俺を見て頬を染める彼女を見ていたら、この後も北の塔に向かうのが嫌になってくる。
だが、夕食もハナと一緒に過ごすためにも絶対に行かねばならないからな。
今はハナに大事なことだけを告げて仕事に向かい、さっさと終わらせて帰ってくることにしよう。
俺は書類を収納魔法でしまうと、執務室にあるソファーに座るようハナに声をかけてから自分も彼女の隣に向かった。
「あ、あの。時間をとのことでしたが……」
「ああ、仕事に行く前にどうしても言っておきたいことがあって」
「言っておきたいこと、ですか?」
きょとんとした顔でこちらを見上げるハナがとてもかわいい。
思わず昨日の出来事を思い出し、抱きしめたくなる気持ちをグッと堪えながらハナを見つめた。
「ハナ、昨日のことは夢ではないぞ」
「うぇっ!? き、ききき昨日のことって……」
直球で伝えてやると、ハナはわかりやすく動揺を見せた。そんな姿さえも愛らしい。
だが俺はこれから彼女に謝るつもりでいるのだ。ここで笑ってはいけない。
「あれは現実だ。俺は昨晩、ハナの部屋に行き、バルコニーで君と会って話をした」
「あれが、げ、現実……こ、このやり取りにも薄っすら覚えがありますっ」
「たしかに昨日もしたな、このやり取り」
みるみるうちに顔を赤く染めていくハナは、何かを思い出したようにさらにボッと耳まで真っ赤になってしまった。
そんなハナを見て、俺は一度彼女に向き直るように座り直してから頭を下げる。
「すまなかった」
「えっ」
「昨晩は、その……ハナの同意も得ずに、口づけてしまっただろう」
「あ……」
それ以降、何も言わなくなったハナの前で頭を上げ、彼女のことを真っ直ぐ見つめる。
相変わらず顔が赤く、その手は口元に当てられていた。
「怖い思いをさせてしまった。どうしても謝りたかったんだ。本当に、ごめん。反省している」
「ま、待ってくださいっ! その、謝られるということは、お気持ちまで嘘という……?」
「それは違う!」
反省はしているが、キスしてしまったことを後悔はしていない。
いや、ハナに嫌な思いをさせていたなら後悔をするところなのだろうが……俺は、どうしてもハナを手に入れたかったから。
「俺の気持ちは本当だ。ハナ、俺は君のことを愛している」
目を思い切り見開き、ハナは驚いたように口をぽかんと開けている。
心臓がバクバクと大きな音を立てながら鳴っている。俺の心臓もこんなに速く動くことがあるのだと初めて知った。
「ゆ、夢、じゃない?」
「……ふ、このやり取りを何度するつもりだ? これは、現実だ」
「だ、だって、あまりにも私に都合がよすぎます。エドウィン様が私なんかを好いてくださるなんて、そんな」
「都合がよい? それはつまり、ハナも俺を好いてくれていると勘違いしてもいいということだろうか」
「いえ、違います! あっ、いや違わない? えーっと、えっと、か、勘違いなどではないです。私は初めてお会いした時からずっとエドウィン様のことが大好きでしたから! ずっとかわいい人だ、って! ……あ」
やはりここで来る言葉は「かわいい」なのか、と思うとやや不満に思う。
だが俺の「かわいい」顔がきっかけで好きになってくれたというのならそれでもいいか、という諦めにも似た感情もあって複雑だ。
ただどうしても、不満そうに目を細めてしまう。
ハナはそんな俺を見て再び違うんです、と言いながら言葉を続けた。
「実はあの、私は仮面をしていた最初の時からすでにエドウィン様をかわいいと思っていました」
「……は?」
「不器用なところとか、それでも誠実であろうとしているところとか。ずっと胸がきゅんとし続けていて。私は、そういうエドウィン様の内面にまず一目惚れして、その後お顔を見て再び一目惚れをしたのです」
仮面をつけた俺は、人から恐れられる髑髏領主だぞ? それを見て、かわいいと思った……?
つくづく、ハナは人とは違う感性を持っているようだ。
結局のところかわいいと思われているのだが、呆気に取られすぎて言葉がすぐには出てこなかった。
「顔がかわいいから好きになったんじゃありません。その……愛おしい、と。貴方に、寂しい思いをさせたくないって、そう思ったんです」
「寂しい思い……?」
「はい。だって誰もお側にいられないなんて……寂しいなって。ああああ、これも私の勝手な押し付けで、お節介ですよね! わかってるんです、鬱陶しいですよね、ごめんなさい」
寂しい、か。ああ、そうか。
俺は、寂しかったのか。
ずっと人から恐れられていたから、それが当たり前になっていた。
せめて、必要以上に撒き散らしてしまわないように常に気を張るのが当たり前で。
俺は、ギュッとハナを抱き寄せた。
「エドウィン、様……?」
「寂しいと言っても、いいのか」
「え?」
「お節介でいい。そのくらいでないと、俺は気づかなかった」
ずっと年下の、まだ純粋で清らかな少女に俺は情けなくもすがりついている。
「ずっと側にいてくれ。俺を、一人にしないで」
弱音を吐く俺に驚いたようにハナはしばらく動きを止めていたが、数秒後には優しくぎゅっと抱き締め返してくれた。
そのまま俺の背を撫でながら、ずっとお側にいますと言ったハナの柔らかな声に、ぎゅっと胸が締め付けられる思いがした。




