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髑髏領主の本気④


 眠っている他の者たちや護衛の者たちを起こしてしまわないよう気をつけながらハナの部屋へと向かう。


 俺の部屋が近いから不思議には思われない程度に気配を調整しておかないとな。ゾイは優秀すぎる護衛だから、あまり近くに気配があるとバレかねない。

 まぁ、万が一バレても俺の気配だとわかるだろうから後で叱られるか、からかわれるかくらいだろうが。


 外からなのであっという間にハナの部屋のバルコニーまで辿りついた。

 ……今更ながら、自分の行動がまるで夜這いにでもきたかのようで申し訳ない気持ちになる。


 ち、違うぞ、そんな邪な考えがあるわけじゃない! ただ、少しだけハナの気配を感じたいだけだ!


 彼女を特別だと自覚してから、気持ちの制御が効かない。どうしても会いたくなってしまうのだから仕方ないだろうと自分に言い訳しつつ、視線を閉じられている窓に向けた。

 室内にかかっているレースのカーテンは、室内の様子がわからないようしっかり目隠しの役目をはたしてくれている。それが今はどうしようもなくもどかしかったが、姿を見たいというのはさすがに欲張りすぎるな。


 明日こそはなにがなんでも早く帰る。そして必ずハナとの時間を作って色んな話をしたい。だから今日は我慢だ、


 そう思っていた時だった。


 急にレースのカーテンがサッと開けられ、窓の向こう側に立つハナと目が合った。


 っ、ね、寝ていたんじゃないのか!?

 てっきり寝てると思ってハナの気配をしっかり確認していなかったからものすごく驚いた。


 いや、驚いたのはハナのほうだろう。まさかこんな夜更けに俺がバルコニーに立っているとは思わないよな? ただの不審者じゃないか、俺は。


 慌てふためく俺に対し、ハナは一瞬だけ驚いたように目を丸くした後すぐにパァッと花開くように笑った。


「エドウィン様!」


 そのまま窓を思い切り開けると、まっすぐこちらに駆け寄ってきて、その勢いのまま俺に抱きついてきた。


 えっ、だ、抱きつい……!? カッと一瞬で顔が真っ赤になったのが自分でわかった。


「はぁ……これはとても良い夢なのですよ。エドウィン様が私の部屋のバルコニーに立っているなんてぇ」


 しかし、至近距離でむにゃむにゃと告げるハナの言葉にハッと我に返る。


 ……これは、もしかしなくても寝ぼけているのか?


 よく見ると、ハナは俺に抱きついたままとても幸せそうに目を閉じていた。

 か、かわいい……が、そうじゃない。完全に寝ているよな?


 起こすのは申し訳ないがこれを夢だと思われるのも嫌だ。せっかく会えたのに。


 俺はそっとハナの両肩に手を乗せて彼女を少し離すと、顔を覗き込みながら告げた。


「……とても言いにくいんだが、ハナ。これは夢じゃない」

「ふぇ……?」

「現実だ」


 俺はハナの手を取って自分の頬に当てた。その手に擦り寄りながら笑うと、ハナのとろんとした目が少しずつ覚醒していくのが見て取れる。……とんでもなくかわいい。


「うぇっ!? は、わぁ……! 本当に、本物のエドウィン様ですか!」

「本当に本物の俺だ」

「ひゃぁっ、ご、ごごごごごごめんなさいっ! 私ったら、てっきり会いたすぎて都合の良い夢を見ているのかと!」


 大慌てになり離れようとするハナだったが、俺はその手をギュッと握ってそれを阻止する。

 顔を真っ赤にするハナはとても愛らしく、今は離したくなかった。


 聞き捨てならない一言を聞いてしまっては、余計に。


「会いたすぎて?」

「うっ、その、変ですよね。ほんの二日ほどお姿を見ていないだけでこんな……」

「いや、そんなことはない」


 愛おしい。愛おしくてたまらない。


 俺は照れて離れていこうとするハナをさらに引き寄せ、強く抱きしめた。

 腕の中で硬直するハナには気付いていたが、伝えずにはいられなくて。


「俺も、ハナに会いたかった」

「っ!?」

「気配だけでも感じたくて、ついここまで来てしまったんだ。その、夜分に申し訳ないとは思ったんだが」


 腕の中でそっと俺を見上げてくるハナに気づき、俺も視線を向けた。


 少しだけ俺のほうが高いが身長がそこまで変わらないこともあり、目の前にハナの顔がある。

 鼻先同士が僅かに触れ、無性に恥ずかしくなった俺は慌てて言い訳じみた言葉を連ねた。


「す、すぐに自室に戻るつもりだったんだぞ? 本当に!」


 だがハナはそんな俺の言葉を聞いているのかいないのか、そっと手を伸ばして俺の頬に触れた。


「仮面を、していらっしゃいませんね?」


 ハナの目には驚きと、それから確かな喜びが見て取れた。


 そうだ、ハナはずっと俺の素顔が見たいと言い続けていたな。

 コンプレックスでしかなかった顔だが、今はそれがハナの好みに合うというのならこの顔で良かったと思えてしまう。


 全てはハナのため。彼女に会い、結ばれるためにこの容姿で生まれたのだと都合よく解釈してしまうのも悪くない気がした。


「ああ。仮面は燃やした。もう顔を隠すのはやめたんだ」

「え」

「ハナは、どう思う?」

「とっ、とても! とても素敵だと思いますっ! でも、大丈夫ですか? それ以上に、私はエドウィン様が無理をされるほうが辛いです」


 案の定喜んでくれたハナだが、それでも俺の心を守ろうとしてくれるんだな。

 ハナの髪を撫で、優しく耳にかけてやるとハナの頬が再びポッと赤く色づいた。


「……ありがとう。だが本当に大丈夫だ。ハナがついていてくれるからな」

「は、ぇ」

「ハナ、俺は君のことを心から想っている。成り行きのような形で婚約することになってしまった出会いだったが、君を知れば知るほど惹かれるんだ」

「惹かれ……惹かれる!?」

「そう。俺はハナが好きなんだ」


 額に額をくっつけ、じっと至近距離でハナを見つめる。

 ハナもまた俺の目を真っ直ぐ見つめてくれているが、これはどちらかというと目が離せないといった様子だろうか。


 俺の言動に戸惑い、琥珀の瞳が潤んで揺れている。

 上気した頬や小さな唇から目が離せず、気づけば俺はハナに口づけをしていた。


 柔らかく温かい唇の感触、甘い香り。

 多幸感に包まれ、いつも頭を悩ませる膨大な魔力から解放されるのを感じた。


 こんなにも心が軽くなったのは初めてだ。

 こんなにも穏やかな気持ちになれるのも。


 名残惜しむように唇を離すと、俺は再びハナを抱きしめる。

 彼女の肩に顔を埋め、懇願するように言葉が漏れた。


「君が嫌がっても、俺を好きになれなくても……ごめん。もう手離してやれない。ハナを、誰にも渡したくないんだ」

「エド、ウィン、様……」


 俺の名を読んだ後、しばらく身動ぎ一つしないハナが心配になって彼女の顔を見る。


 ぼぅっとした真っ赤な顔で俺の目を見つめたハナは、わずかに唇を震わせた後……急に全身の力が抜けたかのように崩れ落ちた。


「は、ハナ!?」

「は、わぁ……」


 そのまま俺の腕の中で気を失ってしまったハナを見て、俺はやってしまったとようやく気付いた。


 想いが溢れすぎたせいで、つい同意を得ずに口づけてしまった、ということを。


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