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髑髏領主の本気③


 戻ってきたミシュアルは、小さな小箱を持って俺に差し出した。

 中を確認すると、淡い水色の魔法石が埋め込まれた指輪が光っている。


「これ、僕の仕事はこの魔法石の部分であって、リング部分は適当に間に合わせで作っただけなんで。エドウィン様のお好きなように高品質のリングに埋め込んでもらうといいですよー」

「十分綺麗だがこれじゃダメなのか……?」

「いいんですか? 僕が一から十まで作り上げたものをハナ様に差し上げても」

「すぐに宝飾店に頼むことにする」

「返事が早いなぁ」


 宝飾品店に一から全てを頼むのに抵抗はないが、ミシュアルは嫌だ。

 魔法石は俺が調達したものの、作り上げたのは確かにこいつだと思うとモヤモヤする。


 ムッとしているとミシュアルはそんな俺を気にした風もなくニコニコしながら話題を変えた。


「さ、使い方を説明しますね。こちらは最上級の魔法石ではありますが、当然ながらエドウィン様の魔力を全力で込めたら割れます。ま、加減を間違えることなんてないでしょうが念のため」

「ああ、わかっている」

「複合魔法を込められますが、重ねるなら三つまでにしてくださいねぇ。それ以上だと強度の面で心配になるんで。ただ、どれほど強い魔法を込めてもハナ様が身につけると直接魔法石に触れてなくとも威力は少し下がります」


 それがハナの体質だからな。

 聞くところによると、魔道具もハナが触れるとその性能が落ちてしまうとか。魔法石に直接触れさえしなければ完全に魔力が消えるわけではないが、どうしても影響は受けるという。


 逆に言えば、魔法石に触れさえしなければ多少の魔力は残る。指輪にして身につけていれば、魔道具に魔法石をかざすだけでハナも使えるようになるだろう。


 性能が落ちるとはいえ、せっかくだ。いざという時のために彼女を最低限守れるような魔法を込めておこうと思う。そうだな……危険があれば俺に知らせる魔法となくしてもハナのもとに戻る魔法、それから防御魔法あたりか。


 そう考えながら早速石に魔法を込めていくと、ミシュアルが感心したような声を上げた。


「さすがですねぇ。なんという手際の良さ。込める魔力の質も量も完璧だ!」

「そんなに難しくもないだろう」

「エドウィン様だけですよ、そう言えるの。全国の魔石加工職人が泣いちゃいますねぇ」


 大げさだな。俺を持ち上げてるのか? ……いや、ミシュアルはそういうタイプじゃない。

 つまり、本当にこれが難しい技術ってことか。俺はもう少し、一般的なレベルというものも知っておいたほうがいいのかもしれない。感覚が麻痺している可能性があるからな。


 じっと手の上に乗る指輪を見る。ドレスや身の回りのものを贈ってはいるが、これは俺の手から直接渡す初めてのプレゼントになる。

 ……ハナは喜んでくれるだろうか。彼女の笑顔を思い出し、わずかに顔が熱くなった。


「いやー、しかし今回はとてもいい体験をさせてもらいましたよぉ。最高級魔法石の加工なんて一生できないと思ってましたからね! ハナ様のような珍しい体質のデータも取れましたし……ぐふふ」

「……事前の報告なしにハナのことを勝手に調べるなよ。たとえ本人の同意があってもだ」

「わ、わかってますよぅ、ちゃんと事前に相談しますぅ……だから魔圧は控えてくださぁい……」


 しっかり釘を刺しておかないとこいつはすぐに暴走するからな。ハナにも何かあれば言うように伝えておかないと。


「だが、いいものを作ってくれた。ミシュアル、礼を言う」

「は! ありがたきお言葉ーっ!」


 だからいちいち大げさなんだよ。胡散臭く見えるぞ。

 愉快になって思わずクスッと笑うと、ミシュアルがぽかんとした顔でこちらを見上げてきた。


「……エドウィン様、ようやく素顔を見せてくださいましたねぇ。やはり表情がわかるというのはいいものですよ」

「それ、は。威厳のある容姿とは言い難いからな」

「そんなに威厳のあるオーラを撒き散らしておいて何をおっしゃいますか。我らがギャレック領主様は素顔をお見せしたくらいじゃもう揺らぎませんよぉ」


 思えばミシュアルは仮面をしていないことに驚きはしていたが、俺の顔を見てもそこまでの反応は見せなかったな。人の外見に興味がないのだろうと思っていたからこそ、今の言葉は意外だった。


「全て、エドウィン様が築き上げたものでしょ。お姿をお披露目するのに結婚式はちょうど良い機会だったってことじゃないですかね」

「ああ、そうだな」


 変なヤツだが、いいことを言う。

 他の貴族たちや外部の声は煩わしくなるだろうが、素顔など見せずともそういう者たちはずっと煩わしいものだ。


 そうだよな、これまでとやることはなにも変わらない。

 仮面がなかろうが、俺が俺であることが変わらないのと同じで。


 こんな簡単なことに気づかず、俺は何をずっと恐れていたんだろうな。くだらない意地だったのかもしれない。

 全て実力で黙らせればいい。

 ずっとそうやって生きてきたし、これからはハナがいる。


「ミシュアル、夜も遅い。あまり睡眠時間を削るなよ」

「はいはーい。ですがその言葉、そのままお返ししますからねぇ」


 俺を前にして軽口を叩ける仲間は本当に貴重だ。ゾイやジャック、ボルトなどの元を含めた髑髏師団の隊長クラス、そして俺に次ぐ実力を持つマイルズ。

 改めて人の縁に恵まれていると思う。そんな彼らを率いていける領主として、弱気になどなっている暇はないな。


 ミシュアルの研究室を出てチラッと廊下の窓の外を見ると、すでに闇が最も深い時間帯になっていた。


「……もう寝ている、よな」


 寝ている女性の部屋に立ち寄るなんて、たとえ婚約者といえど良くないことだ。

 それなのに以前はそのベッド脇で眠りこけるという失態をやらかしてしまったが、あ、あの時は体調も心配だったから……!


「少しだけ……」


 良くないこととわかっている。だから寝姿を見ようなどとは思っていない。

 ただほんの少し、窓の外からハナの気配を感じたいだけ。


 己の欲に勝てず、俺は心の中でそんな言い訳をしながら窓を開けると夜の空へと飛び立った。

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