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髑髏領主の本気②


 翌朝、俺はすれ違う人たちの驚愕の眼差しを浴びながら過ごすこととなった。

 仮面を燃やし、顔を隠さなくなったから当然こうなることはわかっていたが……ここまで注目されると恥ずかしいというより煩わしい気持ちが強く、うっかり魔圧も多めに放出してしまうことが度々あった。


「なんだ」

「ひっ、い、いえっ、あの……りょ、領主様で……?」

「そうだが。何か問題でもあるのか?」

「な、なななな何でもありません……!」


 呆然としながらこちらを見てくる者たちには、普段は知らぬふりをするが今日は目線を合わせ、こちらに話しかけてくる勇気あるものには答えてやる。

 それだけで皆すぐに俺が誰かわかったようで、驚きながらも頭を下げてきた。


 なんだか仮面をつけていた時よりも怖がっていないか? 自分で言うのもなんだが、この顔に迫力なんてものはないだろうに。

 ふむ……この調子なら慣れればなんとかなりそうだ。それまではみんなに迷惑をかけてしまうかもしれないが、あとでマイルズに屋敷の者と髑髏師団への周知徹底を頼むとしよう。


 仮面をつけずに外へ出る最初の一歩はさすがに緊張した。だがいざ思い切って素顔を見せてみれば思っていた以上に怖くはなかった。拍子抜けしたともいう。

 ずっと素顔を隠していたから、無駄に不安ばかりが大きくなっていたのかもしれないな。


 あとはなにより、事前にハナと素顔で街歩きをしたのが大きい。

 あの冒険者二人に見られたという想定外のアクシデントもある意味よかった。それもこれも全てハナのおかげだ。


 つい彼女の笑顔を思い出して頬が緩みそうになるのをグッと耐える。


 と、とにかく! 今日は通常業務に加え、仕事仲間や髑髏師団の者たちにこの顔を周知してもらう必要があるな。いちいち驚かれるだろうが、それもこれも全てハナの望みのため。

 結婚式の日には身内だけでも戸惑わないように、今からこの顔に慣れてもらわなければ。


 だが、領民や外部の者の前に出るのはまだ先だ。混乱は避けられないだろうし、そのせいで仕事の手間が増えてはハナとの時間がますます取れなくなる。


 焦らず、それでも進める時は大胆な一歩を。なんだ、普段やってることとさして変わらない。


 俺の中の恐怖は、思っていた以上にあっさりと消えていった。


「……ハナがいなければ、こんなことしようとも思わなかったな」


 あらゆる意味で俺の人生を変えてくれた。もちろん、いい方向に。

 今日こそは早く帰って、仮面を捨てたことを伝えたい。そして、彼女の笑顔溢れる食卓で食事を共に摂りたいものだ。


 ◇


 しかし結局この日も、仕事は夜遅くまでかかった。二日続けてハナに会えないのはつらかったが、彼女との時間を取るためにも調整する必要があったのはたしか。


 仕方ないので今日は予定通り真っ直ぐミシュアルの下へ向かう。深夜だがヤツはまだ起きている時間だ。

 俺は執務室に戻らず、そのままミシュアルの研究室へと向かった。


「お、いらしたね、エドウィンさ、ま……」


 ずっと研究室に引きこもっていたミシュアルは、俺が仮面を外したという噂を知らなかったと見える。

 いや、聞いてはいたのだろうがこいつは一度集中すると目に映るものも耳に入るものも全て頭に入ってこないからな。俺の顔を見て口をぽかんと開けたまま動きが停止している。


 数秒後、ミシュアルはようやく口を開いた。


「どちらさまで?」

「……これでもわからないというか」

「っ、わ、わわわわかりました、わかりましたよう! ちょっと現実逃避しただけじゃないか! すぐにその魔圧おさめてぇ……」


 入室する前から魔力で俺だということはわかっていただろうに、顔を見て理解の範疇を超えたというところか。


 そんなに、か? いや、そんなにか。わかってはいても普段からよく接する相手にこんな反応をされると……俺の自業自得ではあるが少し腹立たしい。

 まぁ、ミシュアルだけではなかったけどな。ずっとともに仕事をしてきた仲間でも、俺の素顔を知る者はほとんどいない。今日は概ね似たような反応ばかり見た。


「いやぁ、驚きましたねぇ。どういう心境の変化……って言うまでもないかぁ。愛、愛だねぇ!!」

「うるさいな……」

「おっ、照れてます? んっふふふふ、うっへへへへ」

「気持ち悪い笑い方をするな」


 ミシュアルは優秀だが、時々こうして変態性が増すのがよくない。ハナも引いていたとゾイから聞いているし、度が過ぎるようなら一度叩きのめしておく必要がありそうだ。

 ただ、そうしたところでこれは変わらない気もする。時間と労力の無駄、だな。引き続きゾイには警戒しておいてもらおう。無論、俺も目を光らせておく。


「嬉しいんですよぉ、エドウィン様が良いお相手を見つけてくださって。それにようやく仕上がりましたしねー、例のものが!」

「見せてくれ」

「お任せを!」


 目を細めながら告げると、ミシュアルは意気揚々と研究机に向かった。

 やっぱりダメだな、睨んだくらいでは一切怯まない。ミシュアルの性格は諦めたほうがいいな。


 それに、本当にこいつは優秀なんだ。ハナのためにと頼んでおいたものをこんなにも早く完成させてくれたのだから。


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