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髑髏屋敷にようこそ③


 運ばれたお肉たちは見事にみなさんのお腹の中へと消えていきました。

 正直なところ、かなり量が多かったので全部は食べきれないと思っていたのですよね。モルトさんとローランドさんはもちろんのこと、コレットさんやリタさんまでものすごく食べていたのがビックリでした。


 冒険者の食べる量をなめるんじゃないよ、と言っていたゾイの言葉通りです。冒険者になるには、たくさん食べられないといけないのですねぇ。初めて知りました。


 それにしても……。


「あのっ、皆さんが片付けをする必要はないのですよ!?」


 食事を終えるや否や、冒険者の皆さんはテキパキと片付けを始めてしまいました。お客様にそんなことさせられませんよーっ!


 慌てて止めに入りますが、ローランドさんにスッと手を前に出されて止められてしまいました。

 無言のまま強い目力でこちらを見るその迫力に、私の足も言葉も止まってしまいます。普段無口だからか余計に圧を強く感じますね……。


「いーや、ここだけは譲れませんから! あんな高級肉を腹いっぱい食わせてもらって、食べ散らかしたままってわけにはいかないんで!」

「そうですよ、ハナ様っ! お願いですから片付けは私たちにやらせてくださいっ!」

「あ、もちろんハナ様は手出し無用ですからね」


 しかも、モルトさん、コレットさん、リタさんにも立て続けにそんなことを言われてしまっては、もう何も手出しできません。

 なんなら、ゾイをはじめとしたギャレック邸の使用人の皆さんからも「ハナ様はダメです」と言われちゃいました。


 でも庶民としての性質が沁みついている私としては、皆さんが忙しく動き回っている場でただ一人ぼーっとしているというのは苦痛でしかありません。

 ぐぬぬ、次期辺境伯夫人というのも大変ですね。


 よし、ここで一人モダモダしていたって仕方ありません。せめて片付けが終わった後にゆっくり休めるように、お茶だけは淹れさせてもらいましょう。ゾイもそのくらいならと許してくれましたし。


 あっ、やれやれといった目で見ないでください。仕方ないでしょう、まだ庶民歴の方が長いのですから!

 

「みなさん、あちらで食後のお茶はいかがですか?」


 だいぶ片付けも終わり、後は庭を元通りにするだけとなった頃、冒険者のみなさんを呼びました。これ以上は屋敷を良く知る者の仕事ですからね。

 それがわかっているのでしょう、皆さんもすぐに呼びかけに応じてくれました。さぁさぁ、座って! お茶と甘いものでも!


 ただ、お腹いっぱい食べたのでお菓子が食べられるかはわかりませんけれど。え? 別腹? まぁわかりますが、限度って知ってます?


「はー、幸せ。こんな日が過ごせるなんて思ってもみませんでしたよぉ。ハナ様、ほんっとーにありがとうございます!」

「いえいえ。楽しんでもらえたのならよかったです」


 正直なところ、私も準備はほとんどしていないのですけれど。提案をして必要なものをリストアップしただけですし。

 庭のセッティングも横から口出ししただけで、全く動いていないので、お礼を言われるのは気が引けます。


 でも、このおもてなしは私が主催。絶対に謙遜せずにお礼を受け取るようにとゾイから厳命されているので笑顔でこう答えることしかできません。


 ああ、冒険者のみなさんが帰った後、改めて準備をしてくださった方々にお礼参りしないと! それさえもしなくていい、と言われそうですが私はやりますからね!


「あの、皆さんに少しお願いがあるのですが」


 それはさておき。


 私は改まって背筋を伸ばし、皆さんに向き直ります。私の雰囲気を察知して、モルトさんたちも背筋を伸ばして座り直してくれました。


 あっ、あまり緊張はしないでください。別に無茶なことを頼むつもりはないので!

 ただ、この前コレットさんやリタさんに見られた手前、きちんと伝えておきたくて。それと、ちょっとしたお願いを……。それだけなのですから。


「エドウィン様のことです。コレットさんやリタさんはもうお姿を見たからわかると思うのですが……その、エドウィン様は外見に少し、コンプレックスを抱えておりまして」


 私は必死で言葉を選びながら説明をします。さすがに、赤裸々に明かすわけにはいきませんからね。

 辺境伯としての威厳があまりない容姿なのを気にしている、ということだけお伝えしました。


 それだけで、エドウィン様のお姿を見た二人は納得したように頷いてくれました。


「確かに威厳のある容姿ではないかもしれませんが、補って余りある美しさがあるかと思うのですが……」

「そうなんですよ! わかってくれますか、リタさんっ!」

「わっ、は、ハナ様、落ち着いてくださいっ」


 本当に、あの美しさだけで十分辺境伯として説得力があるのですけれどっ!

 でも、それはエドウィン様の求める物とは違うのですよね。彼は威厳や男らしさを求めていらっしゃいますので。


「こほん。それは置いておいて。今は、国中でエドウィン様のイメージが固定されているでしょう? そのギャップがすごすぎるのですよ」

「それはわかるかも。だって、説明されなかったら今もあたしたち、誤解したままだった気がしますし!」


 あの時、魔圧を感じなければ信じることも難しかったかもしれない、とコレットさんは言います。

 そうですよねぇ。私は最初からお姿を見させてもらっていたので驚くだけですみましたが、他の人からすれば信じられないでしょう。


「だから、今更お顔を公表するというのもなかなか勇気がいることだと思うのですよ。外見にコンプレックスを抱いていますので、なおさらです」


 私がそこまでお話しすると、全員が腕を組んで難しい顔を浮かべました。

 モルトさんとローランドさんも、あの美しい容姿を見たわけではなくとも話には聞いていたからか、一緒になって悩んでくれているご様子。


 エドウィン様の悩みを理解してくださったようです。

 それが何よりも嬉しく、この方たちを頼って正解だと改めて思います。


 彼らなら、きっと協力してくれる。

 そんな確信を抱きながら、私はさらに続きを口にしました。


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