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手繋ぎ初デート①


 あとは二人でしっかりとお話しください、とだけ告げ、マイルズさんは硬直した私たち二人をその場に残して給仕のお仕事へ向かってしまいました。無慈悲っ!

 下手したらマイルズさんがお料理を運びに来た時も、まだこの状態かもしれません。ど、どうしたら……?


 おかしいですね……私、初対面の相手でもお喋りが盛り上がるくらいには社交的なはずですのに。

 お相手がエドウィン様だというだけで、今まで出来ていたことも出来なくなるなんて思ってもみませんでした。


 恋の力、恐るべし……!


 気まずい空気が流れる中、ようやく立ったままだったエドウィン様がご自分の席へと向かいました。歩き方がどこかぎこちないです。

 それを見ていたら、なんだかちょっと癒されました。戸惑っていたのは私だけではないとわかりましたから、安心したとも言えます。


 エドウィン様が席に着くと、ちょうど私と向かい合う形になります。

 テーブルの端と端なので距離が少し空いているのが救いかもしれませんが……このご尊顔を見ながら食事だなんて贅沢すぎますね。ちゃんと食事が喉を通るか心配です。

 いえ、食いしん坊なのでたぶん大丈夫でしょうけれど。


「……先ほどの、話しだが」

「ひゃ、ひゃいっ」


 静かな空間では、小声での呟きもはっきりと聞こえてきます。急にお声を聞いたので、私はおかしな声を上げてしまいましたが。

 でも、そのおかげでエドウィン様のどこか硬くなっていたお顔が緩んだ気がするのでオッケーです。

 そのかわいすぎる笑顔を見られるのなら、いくらでも笑い者になりますよ、私は!


「街の散策に、付き合ってもらえないだろうか。ただ、マイルズも言ったように、その、常に手を繋ぐことに、なるのだが……」


 少しだけ顔を逸らしたエドウィン様でしたが、一度言葉を切ると目だけをこちらに向けました。

 彼の緊張がこちらにまで伝わってきます。お顔が赤い……私も負けていないと思いますけれど。


「本音を言うなら、俺は行きたい。一度でいいから、街をこの足で歩き、この目で……近くで見たいんだ」


 相変わらず緊張した様子ではありますが、その青い瞳からは強い決意が見て取れました。きっと、すごく勇気を出してくださっているのでしょう。


 それはそうですよね。ずっと人の目を避けてきたんですもの。周囲の人たちを傷つけたくないから、と。

 もしも自分が出歩いたことで誰かに恐怖を植え付けることになったら、と怖くなるのも無理はありません。エドウィン様はお優しい方ですからね。


「だ、だが、ハナが嫌だと言うのなら無理強いは……」

「行きましょう!」


 ならば、婚約者として協力するしかありません!

 私はエドウィン様の言葉を遮り、食い気味に告げました。彼の丸くなった目を見つめます。


 そうでなくとも二人で手を繋いでのデートなんて、私にとってはご褒美でしかありませんからね。そもそも断る理由がないのですよ!


「嫌なわけないではありませんか。その、緊張はしてしまいますが。あっ! エドウィン様が私と手を繋ぐのが嫌であれば……」

「嫌なわけがないっ……!」


 さ、先ほどとは立場が逆転してしまいましたね。今度はエドウィン様が私の言葉を遮ってそう言ってくださいました。


 こっ、これは、あの、その。結構、照れるものですね……?


「す、すまない。大きな声を出してしまった」

「い、いえ……」


 再び、私たちは頰を赤く染めて俯き、黙ってしまいます。ほんと、何やってんでしょうか、私たち。

 とはいえ、また同じことを繰り返すわけにはいきません。勇気を出して話を続けなくては!

 恥ずかしさを堪え、私はパッと顔を上げるとその勢いのまま提案をしました。


「あの、それなら。一度だけなんて言わずに、たくさん行きましょう?」

「え」


 これがたった一度のことだなんて、寂しすぎますから。それに、エドウィン様が素顔のまま外を歩く練習は絶対に必要です。

 私の家族や領民にもエドウィン様のかわいさを知ってもらうという壮大な野望のためにも!


 練習、となると一度じゃ慣れませんよね? 繰り返し、つまり反復練習をせねばならないと思うのです。


「私は、エドウィン様の妻になるのですよ? これからもずーっと一緒なのです。いくらでも、何度でもお付き合いします。ね? これからもたくさん、一緒に街へ行きましょう」

「ハナ……」


 いつかの野望が叶った日を思うと、ついつい頰も緩んでしまいます。ウォルターズ家のみんなにも、早くエドウィン様の素敵なところをたくさん知ってもらいたいです! 心から祝福してもらいたいのです!


「……ありがとう、ハナ」

「こちらこそですよ、エドウィン様!」


 柔らかく微笑むエドウィン様のなんと愛らしいことかっ! 尊すぎて鼻血が出そうですが、ギリギリ耐えました。


 街歩きの日は二日後に、と決まったところでタイミングよくマイルズさんが料理を運んできてくれました。どことなく嬉しそうに口角を上げているのを見るに、こちらの話を聞いていたのでしょうね。

 あ、マイルズさんにウィンクされてしまいました。よくやった、と褒められたみたいでちょっと嬉しいです。


 それからは、二人で街についての話をしながら楽しく食事をしました。

 ただ、昼食の時以上に高級食材を使ったメニューに私は驚きっぱなしですよ! あまりにも私が良い反応をするからか、エドウィン様には笑われてしまいましたが。


 田舎者ですみません! でもとっても美味しいです、ありがとうございます!


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