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街への期待②


 慣れない作業をしたことで、情けないことに疲れてしまった私。身体はピンピンしてるのですけどね、精神的に疲れてしまいました。庶民の感覚が抜けませんねぇ。ふぅ。

 午後は特に用事もないようですので、屋敷のお庭を散歩しながらのんびり過ごすことにしましょう。


 すでに案内してもらった場所ですが、ゾイも一緒について来てくれましたよ。専属メイド兼護衛だからと主張していますが、屋敷の中でまで? と首を傾げるとゾイには当然だと言われてしまいました。


「いつまた変態が来るとも限らないから当然さね。ハナ様はよくわからない場所に無理やり連れてかれてもいいのかい?」

「そ、それは困りますぅ」


 もしかしなくてもミシュアルのことですよね……? それを考えると確かに側にいてもらいたいですね。

 悪い人ではないのはわかりますが、まだ私一人で対応するのは難しそうですので。あっさりと話術に乗って研究に協力することになっている気がします。私はチョロいのです。


「ハナ様もやることがないと暇だろうから、街を散策出来ればいいんだがねぇ。まだこちらに来たばかりだから心配だとかで、エドウィン様からの許可が下りないんだよ」

「エドウィン様が私を心配して!? な、なんてお優しい……」

「そこは早く行きたいと駄々をこねるところじゃ……ああ、アンタはそういう子だったね」


 そりゃあそうですよ。お屋敷でもこんなに良くしていただいているのに文句なんかなにもありません。

 もちろん、街に行けるのなら行きたいという気持ちはありますよ? でも、この先ずーっと行けないわけではないでしょうし、行けるようになるまで待てますよ、私。子どもじゃないのですから。


「せっかくなのでゾイ、この街がどんな街なのか話を聞かせてくれませんか?」

「ふむ。それじゃあ、いつか街に行った時のためにおすすめの場所でもいくつか話してあげようかねぇ」

「ぜひ!」


 ゾイから聞かされた街の話はとても心躍るものでした。


 ただ、ちょぉーっとばかり偏りがありましたけどね。どういう偏りかと言いますと。


「空部隊の飛行小隊の訓練なんかは見応えあるよ。周囲に遮るもののないだだっ広い丘の上でやるんだけどね、自由自在に飛び回る様子は見ていて気持ちがいい。海部隊の海兵小隊はダメだね。すぐ潜っちまうから何やってんのかサッパリだ。だが、日によっては漁もするから、運が良ければ獲れたての魚の魔物を食える。あれは本当にうまいから、いつかハナ様にも食べてもらいたいねぇ」


 と、このように髑髏師団関係の場所ばかりを勧めてくるのですよね……!

 もちろん、興味はあります。訓練の様子なんて王都にいた頃なんか見る機会もありませんでしたし。


「あ、魔法部隊の訓練は見るなら遠くからにするんだよ。たまに暴発したのが飛んでくるから……って、ハナ様なら問題ないか。でも驚くだろうし、あまり魔法が当たるってのは気分的にも良くない。やっぱり遠くからだね、うん」


 ゾイったら、師団の話をすると饒舌になるんですねぇ。とても楽しそうなので止める気もないですが、こう、一般的な見どころなんかも知りたいなぁ、なんて。

 いえいえ、贅沢を言ってはいけませんよね!


「ああ、そうだ。あたしが一緒の時は陸部には行かないよ。口うるさくなっちまうからね! あいつ等だって昔の上司が来たらやりにくいだろうし!」


 あっはっは、というゾイの朗らかな笑い声が庭に響きます。こちらまで気持ちが明るくなる笑い声が、実はとても好きです。ゾイにはいつも笑顔でいてもらいたいですね!


「ちょっとちょっとゾイさーん。街のおすすめスポットを一つも紹介してないじゃないすかー」


 二人でのんびり歩きながら話をしていると、屋敷の渡り廊下の方から若い青年の声が聞こえてきました。

 振り返ると、にこやかに笑いながらこちらを見ている軍服を着た金髪の青年が立っています。声の通り、まだ若そうです。

 といっても、エドウィン様と同じくらいなので私より十ほど年は離れていそうですけれど。あ、ズボンからシャツが出ていますね……。


「ニールじゃないか。アンタ相変わらずだらしないねぇ。また隊長に怒鳴られるよ」

「おっとー、それは面倒臭いっすねー」

「そう思うなら今すぐシャツをしまうんだよ、ったく」


 なんというか、どこかゆるい雰囲気の方ですね? チラッとゾイに目を向けると、すぐに察して彼のことを紹介してくれました。


「こいつは陸部隊所属のニールだ」

「ということは、ゾイの部下ですか?」

「正確には違うね。同じ陸部隊でもこいつは偵察戦闘小隊の隊員だから」


 なるほど。確かゾイは歩兵連隊って言っていましたっけ。正直、何がどう違うのかいまいち理解していませんが、直属の部下ってわけではないことはわかりましたよ!


「そうは言ってもー、ゾイさんは自分たちの小隊にも容赦なく指示を飛ばしまくってたっすけどねー」

「文句あったのかい」

「そんなそんなー。とってもありがたいと思ってるっすよー」


 ニールがにこやかに話に入ってくれます。ゾイに注意されてシャツをしまっていたようですが、まだ少しはみ出していますね……。


 ちなみに、こんなにのほほんとしているけれど、実力はトップクラスなのだとか。やはり髑髏師団の方々は皆さん優秀なのですね。入隊するのも実は大変なのかもしれません。


「エドウィン様の婚約者の方っすよね? 初めましてー。自分ニールっていうっす。時々、屋敷の警護を担当することもあるんで、よろしく頼むっすよ!」

「そうなのですね! 申し遅れました。私はハナ・ウォルターズです。どうぞよろしくお願いしますね」

「うわー、丁寧な人っすね! それにかわいいっす。正直タイプっす」

「……アンタ、エドウィン様に殺されるよ、ニール」


 サラッと褒めるのがお上手ですねぇ。うっかり調子にのっちゃいますよぉ! ふふっ、とても人柄も良さそうでホッとしました。


 屋敷の警護にはニールのように、色んな部隊の方が順番で当たってくれているそうです。日替わりで担当部隊が変わり、主に若い隊員が担当するとのこと。


「ま、中堅隊員でもいいんだけどね。この屋敷、引退したジジイやババアばっかりだから、若者でも入れとかないと枯れた空間になっちまうだろ?」

「あははっ、そっすねー! って痛っ! なんで殴るんっすかー!?」

「人から言われると腹が立つんだよ」

「理不尽ー」


 ゾイのゲンコツの音がここまで聞こえましたけど、大丈夫でしょうか? なんとなく、いつものことのような雰囲気はありますけれど。


 あ、痛そうですが笑っていますね。やはり師団の方々は鍛え方が違うのでしょうか。

 まぁ、あまり深く考えるのはやめましょう。だって、なんだかんだといって関係は良好に見えますからね!


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