魔力を持たない私④
なんだかんだと時間を取られたからか、中庭で昼食の準備が整う頃にはちょうどいい感じにお腹が空いてきました。ギャレック領のお料理にワクワクです。
確か、この辺りでは良質な魔物料理が食べられるのですよね。王都にいた時ももちろん食べられはしましたが、そこそこ値が張るのですよ。
ええ、高級食材ってやつなのです。調理するにも免許が必要だと聞いたことがあるので、さらに料理の価値は上がります。
それに魔物は、その種類によっては薬や魔道具などの素材として使われますからね。
そういった素材が持ち込まれること自体は多いのですが、王都の周辺は人も多いので純粋に食材として卸されるものが意外と少なかったりするのです。鮮度も落ちますしね。
ですが! ギャレック領周辺には、それはもうたくさんの魔物がいますからね!
素材はもちろん新鮮なうちに食材として卸されますから、魔物料理が名物となっているのだとか。
危険な地ではありますが、こうした恩恵を受けられるといった利点もあるのです。
なんだか、私がすごく食いしん坊みたいになってますが……実際に食いしん坊なので仕方ないですね! あ、お腹が鳴りました。
「さ、準備が整ったよ、ハナ様。ギャレック領で初めて召し上がる料理だって聞いて、コックが張り切って用意したメニューだ! もちろん、夕食も期待していいとさ」
「うわぁ! それはすごく楽しみですね! ふふっ、まだ昼食もこれからだっていうのに」
サロンのテーブル席でのんびり待っていると、カラカラとワゴンを押しながらゾイが食事を運んで来てくれました。
途中までは他の使用人が運んできてくれたようですね。年配の方々だというのが遠目から見てもわかったので、おそらく髑髏師団を引退された方たちなのでしょう。
きっとあの方たちも凄腕なのでしょうねぇ。もう驚きませんよ!
「ドラゴンのテールステーキにコカトリスハムと玉子のサラダだよ。どれも絶品さ!」
「ほわぁぁぁぁ!!」
並べられた料理に思わず歓声を上げてしまいます。それを聞いてゾイにはクックッと笑われてしまいましたが仕方ないでしょう?
だって、ドラゴンもコカトリスも高級食材ですよ!? 魔物料理の中でもさらに希少なのです! 少なくとも、ちょっとしたランチで出すようなものではありません! ひぇぇ。
王都価格だとまず手が出せない食材です。ギャレック領なら少しはお値打ちで仕入れられるのかもしれませんが、それでも高級であることに変わりはないはず……。
た、食べるのが躊躇われますね。すごく美味しそうですが、ナイフとフォークを持つ手が震えてしまいます。
ごめんなさいね、庶民派なんですよ。私は。
「ほ、本当に食べてもいいのですか……?」
そうは言いつつもお腹はグーグー鳴りますし、涎が出そうな状態の私。
きっとかなりおかしな顔になっていたのでしょう、ゾイが耐え切れないといった様子で吹き出して笑います。
「あっはっは! まぁ気持ちはわかるけどね。さっき言ったろう? これはハナ様のためにとコックが用意したんだ。安心しな、毎回こんな高級食材を使うってわけでもない。今日は特別だと思ってしっかり食べな!」
そっ、それを聞いて少し安心しましたぁ! これが毎日続くなどと言われていたら卒倒していたかもしれません。セーフですね、セーフ。
貴族とはいっても名ばかりなので、贅沢には震えてしまう小心者なのですよ。
少し安心したはずなのに、まだちょっぴり食べるのを戸惑うくらいに!
「それに、ここで使われる魔物食材は基本的に全てエドウィン様が狩ってきたものだから。気にする必要なんて本当にないんだよ」
「ええっ!? エドウィン様が!?」
「ああ。しかもお一人で、仕事の合間の気晴らしにってさ。くくっ、規格外な方だろう?」
え、それって……ドラゴンもお一人で倒してしまうんですか!? 片手間で!?
唖然としていると、ゾイはニヤッと不敵に笑って言葉を続けました。
「それほど、ハナ様の旦那になる人は強い力を持っているのさ。外見や魔力圧によって恐れられているけどね、エドウィン様の本当の恐ろしさはとんでもなく膨大な魔力を使いこなす実力にある。国内じゃそれを知る者は少ないだろうが、攻めてきた諸外国には恐怖の大王として知れ渡っているだろう。それでも定期的に攻めてくる辺り、敵連中も根性はあるがね」
……噂では知っていましたよ、もちろん。その強さがあるからこそ、ギャレック領の平和が保たれているのですから。
でも、やはり前線に立っていたことのある人の話を聞くと実感しますね。ここは本当に敵も多い場所なのだと。そして、エドウィン様のお力の凄さを。
「怖くなったかい?」
「え?」
俯いて考え込んでいると、ゾイが少しだけ心配そうな顔で私に問いかけました。
怖いというのはエドウィン様のことを、でしょうか。思わずキョトン、としてしまいます。
今までも、何度か同じような質問をされたことがあるのですよね。ほら、私は魔法が使えない体質ですので。
どう説明するべきか少し考えてから、私は顔を上げてゾイを見つめました。