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乙女の涙④


 うぅ、私ったら冷静にと心掛けたのについ悲鳴を上げてしまいました。

 だ、大丈夫です。落ち着いて。別のことを考えましょう。


 そうですね、例えばローランドさんの声を今初めて聞いたこととか? 思っていた以上に声が低くて驚きました!


「リタ! ハナ様を連れて少し離れるんだ!」

「わかった! 申し訳ありません、ハナ様! 少し走れますか!?」


 と、現実逃避をしている場合ではありません。

 私は言われるがまま、そして手を引かれるがまま立ち上がります。その時、思いも寄らぬ光景が目に飛び込んできました。私が乗っていた馬車がなんと、燃えているではありませんか……!


 その原因は探すまでもありませんでした。今まさに数メートル先で唸り声を上げているウルフ型の魔物がやったのでしょう。

 首周りに炎を纏ったあの姿……本で見たことがあります。あの魔物は火の玉を飛ばして攻撃をするのですよね? それも群れで!


「さ、こちらですっ! ああっ、ハナ様っ!!」


 悠長に考えている場合ではないです。でも、こんなことでも考えていないと怖くて仕方ないのですよ!

 ううう、ちゃんと動いて、私の足。脳内で何度もシミュレーションをしたというのに、いざとなるとこんなにも動けないものなのですね。


 そうです。私、盛大に転んでしまいました。リタさんに手を引かれて一生懸命走ったのですけれど、震える足が思うように動いてくれなくて……そのため、リタさんとも手が離れてしまいました。私、走るのは得意な方なのに……!


 地面に倒れた私はすぐに起き上がることも出来ませんでした。だって、笑ってしまうくらい手も足も震えているんですから。本当に、情けないことです。


 魔物が迫ってきているのが見えました。魔物は大きく口を開けており、鋭い牙がギラリと光っています。


 私、このまま食べられてしまうのでしょうか。


 為す術なく呆然と魔物を見つめていると、魔物の口の奥に赤い炎が見えました。

 あーなるほど、このままあの馬車のように私を焼こうとしているのですね?


「ハナ様ぁっ!!」

「いやぁっ!!」


 リタさんとコレットさんの悲鳴が聞こえてきました。と同時にこちらに向かって赤い炎が放たれます。


 そしてそれは、私の目の前までくるとフッと消えてなくなりました。


 大丈夫、私は無傷です。

 ただその現象を見て冒険者の皆さんはもちろん、魔物たちもが驚いて一瞬だけその動きを止めているようでした。

 あれ? ちゃんと皆さんには説明したと思うのですが……。


「その。お話しした通り、私は生まれつき魔法が効かない体質なので……物理攻撃は無理ですが、魔法攻撃なら当たりません」

「そ、そうでしたぁっ! 事前に聞いてたんでしたぁ! うわぁん、でもびっくりしましたよぉ!!」


 コレットさんが私に駆け寄りながら涙目で叫びました。リタさんも、そういえばそうでした、と胸を押さえて安堵のため息を吐いています。ご心配おかけしました……!


 ただ、わかっていたとはいえ魔法攻撃を放たれたのは初めてのことなので……私もすっごく怖かったです。震えが止まりません。出来れば二度と経験したくはないですね!

 でも魔法攻撃で本当によかった……。ガブリとされていたら今頃、私は見るも無残なことになっていたでしょう。うっ、考えたらダメ!


「二人ともまだ油断するな! 魔物がいなくなったわけじゃないんだぞ!」

「わかってるっ!」


 モルトさんの声が響き、コレットさんが気合いの入った声で返事をしました。

 そう、ですよね。ピンチを一度回避しただけで、まだ魔物は群れでいるのですから。


 モルトさんが前線で戦い、ローランドさんが後ろからたくさんの矢を放っています。

 魔物たちの間を縫うように駆け抜けながらコレットさんがナイフで攻撃をし、リタさんが私の前に立って私を守りつつ、魔法で援護をしていました。

 連携が素晴らしいです。惚れ惚れしてしまいますね!


 ただこれまでよりも数が多いらしく、皆さん苦戦をしているようです。この魔物は後から仲間を呼ぶこともあるそうなので、出来るだけ早めに討伐したいとのこと。

 つまり、これ以上増えられたらまずいってことですね。さすがにそのくらいは私にもわかります。


 かといって私に出来ることなんてありません。ただ祈るように手を組んで彼らの戦いを見守っていた、その時でした。


「っ、こ、これは……!!」

「やばい! みんな、魔物から距離を取れ!」


 急に魔物たちの様子がおかしくなったかと思うと、ローランドさんとモルトさんが焦ったような声を上げました。


 魔物たちも、彼らも……怯えている?


 首を傾げた次の瞬間、目も開けていられないような光とお腹に響くほどの轟音、そして衝撃が同時にやってきました。


 あまりのことに全く反応が出来なかった私は、ただただ驚いて硬直してしまいました。

 リタさんが庇うように抱きしめてくれたその温もりだけが、どうにか頭を冷静に保たせてくれたように思います。人の温もりってすごい効果です。


「ハナ!」


 そんな間抜けな感想を抱いていると、次に耳に入ってきたのは涼やかで少し低い私を呼ぶ声でした。


 え、この声って、まさか……!


「えっ。ええっ!? エドウィン様!?」


 声のしたほうに目を向けると、私たちの頭上で浮いている髑髏の仮面を被ったエドウィン様が!

 よく見ると、先ほどまで敵意剥き出しで襲ってきていた魔物たちが一掃されています。


 ま、まさかこれ、エドウィン様が? さっきのすごい光と音で?

 え? ええっ!? 何が起こったというのでしょう!?

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