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乙女の涙③


 旅を続けて数日。今日もカタカタと馬車が心地好く揺れます。


 移動中はリタさんと他愛のない話をしたり、外の景色を眺めたり、少し仮眠したりとゆったり過ごすことが出来ました。

 リタさんから聞く冒険者の話はとても興味深くて、飽きることがありません。つくづく自分は世界を知らないなぁと思い知らされました。


 それに、仲間と一緒に旅をしたり行動するのは楽しそうです。ちょっぴり羨ましいですね!


 ちなみに旅は順調そのもの。盗賊や手強い魔物が出てくることもなかったようで、道中は平和です。

 それでも、小型の魔物は出てくるとのことでしたから、冒険者を雇って本当に良かったと思いますね。たとえ小型でも、私や家の者だけだったら大騒ぎしていたでしょうから。


 この先は大型魔物も出てくる可能性が高くなっていくそうです。ギャレック領とはそういうところですからね。

 囲まれるほどたくさん出てこない限りは対処出来ると言いますし、そんなことは滅多にないそうなので大丈夫だと信じています。


 そ、それでもやっぱり、絶対にないとはいえないことですからドキドキはしますが。慣れていないので余計に緊張します。

 けれど、これはエドウィン様のお時間を確保するために私が決めて強行したことですから。怖気付いていてはいけません。いざという時の対策や対応もしっかり勉強してきましたし!


 ……でもこの後、私の考えは本当にまだまだ甘いものだったのだということを、身をもって知ることになったのです。


「ハナ様、お疲れではないですかー?」

「あと一日もあれば着きますから。それにしてもハナ様は、馬車での移動も寝泊まりもお嬢様にはキツかっただろうに、文句や泣き言なんか一度も言わなかったっすね。びっくりしましたよ」


 旅も終盤に差し掛かり、長めの休憩を取っているとコレットさんが気遣う言葉をかけてくれました。モルトさんは感心したように私を誉めてくれます。

 そりゃあ本音を言えばかなり疲れています。慣れない馬車での移動や野宿は思っていた以上にキツかったので。


 最初は新鮮な体験で楽しい気持ちばかりでしたけれど、数日も経験すればベッドが恋しくなり……。

 所詮、私は家から出たことのない甘ったれの貧乏貴族だったのだな、と実感するばかりです。


 けれどこれも良い経験! 冒険者の皆さんはそれに加えて護衛任務も考えなきゃいけないし、戦う修行なんかもしているのですよね。月並みな感想ですが、本当にすごいなって思います。

 私もこれを機に、もう少し身体を鍛えてもいいかなって考えちゃいますね。体力には自信があるんですけど。


「確かに疲れてはいますが……文句や泣き言を言ったところで何かが変わるわけでもないでしょう? それなら、少しでも楽しく過ごした方が気も紛れますし!」

「……そういう当たり前の考えが出来ない人が多いんですよぉ。やっぱり私、ハナ様大好き! 一生推しますよー!」


 コレットさんに両手をギュッと握られてしまいました。当たり前のことだと思うんですけど、ものすごく感動されているようです。そのことが意外で思わず首を傾げてしまいます。


 そんな私を見て、コレットさんは色々と体験談を聞かせてくれました。

 なんでも、お風呂に入りたいだの食事が不味いだのと冒険者に暴言をぶつけてくる方も多いんですって。


 なんですか、それ。酷い話です。彼らに言ってもどうしようもないでしょうに。困った人っていうのはどこにでもいるのですよね。

 接客業をお手伝いしている身として察しはつきます。冒険者も依頼人との間でそういった問題があるということですか。いえ、考えればわかることでしたが。


「いや、ハナ様は実際かなりすごいっすよ。普通だったらもっと疲労困憊になっていてもおかしくないっすから。結構、体力がありますよね」

「それはそうかもしれませんね。毎日お仕事の手伝いで動き回っているから、そのおかげかも。私、本当に元気なだけが取り柄で……」

「待って、静かに……!」


 モルトさんとそんな話をしている時、急にコレットさんが真剣な顔つきで立ち上がりました。それから素早い動きで森の奥へと姿を消します。


 な、何ごとでしょう? まさか、魔物……? 想像だけで思わず体が震えます。


 しばらくして、コレットさんが血相を変えて戻ってきました。嫌な予想通り、ウルフ型の魔物がこちらを狙っているとのこと。思わずギュッと自分の体を抱きしめました。


「ローランドは牽制と援護を、コレットはハナ様から離れすぎずに状況の把握、リタはハナ様を守れ!」


 モルトさんが鋭い声で指示を出していきます。すごい、リーダーなだけあってとても的確で頼もしいです。

 それに、皆さんも言われた通りに、いえ言われる前からすぐ行動に移しています。プロですね……!


 リタさんが私を守るように背中に腕を回してくれて、笑顔で大丈夫ですよと励ましてくれました。それだけでこんなにも心が救われるのですね……! とても勇気づけられました。


 それなら私は取り乱さないようにしないとですね。冷静に、落ち着いて……!


「伏せろっ!!」

「きゃあっ!!」


 ローランドさんの怒鳴り声が聞こえたのとほぼ同時に、リタさんが私を押し倒し、覆いかぶさってきます。

 突然のことに、私は何が何やらわからないまま地面に倒れ伏すことしか出来ないのでした。

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