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祝炎の英雄  作者:
第三章 沈黙の呪い
36/233

十七

 また、ひと月の日々が過ぎた。春は終わり、雲省にも遅めの夏が徐々に押し寄せている。雲省や丹省の夏は過ごし易いと有名だが、この時期に離れるとなると、名残惜しくもなる。

 飛唱の調子も戻ると、皇都へ戻る次第となり、世話になった唐将軍や紹神官に挨拶を済ませ、既に青々とした葉をつけた枝垂れ桜の前で街を見下ろした。時が経ち、街は元に近い形に戻りつつある。皇都へと戻る前に、燼は、自分の使命の結果を見ておく必要があった。


「(そういえば、あの日も夏だった)」


 墨省を旅立ったあの日も、茹だる熱さに汗を拭いながら、皇都のある北の空を見上げていた。期待に胸膨らむ彩華の表情に、燼も嬉々とした感情が湧き上がったのを覚えている。そして、彩華の隣に立つも、幼く肩を並べることすら出来ず、歯痒い想いがあった事も。

 あの時、燼は自分に使命があるなど考えてもいないどころか、ただ唯一自分を見てくれる存在である彩華と離れたくない一心で旅立つ決意をした。今思えば、旅立つには幼稚な理由でしか無い。

 

 都を見渡す燼を、飛唱は枝垂れ桜にもたれかかりながら、つまらなそうに見ていた。この二ヶ月、主人達の多少の動向の連絡は入るが、「そこを動くな」、「休んでいろ」ばかりで、漸く皇都へ帰れるとあって、飛翔は燼程思い入れもなかった。

 

「珍しく感傷にでも浸っているのか?」

「そういう訳でも無いですけど……ただ、もう一度確認しておきたくて」


 燼は、農民達の区画を見ていた。信仰厚き夫婦は、亡骸こそ無いが、祈りと共に墓地に遺品が埋葬され、家は浄化の為、火がつけられた。最早、それらしい気配も無い。


「件の夫婦、結局子供は居なかったんですよね……」


 あの時、女の横には娘がいた。そんな存在も無ければ、誰一人として語らなかった事だ。長く子供の居ない夫婦で、それらしい記録も遺品も残ってはいなかった。


「流れてしまったと言う可能性も有るし、女の願いが具現化しただけやもしれん。どんな理由にせよ深く考えるだけ無駄だ」


 枝垂れ桜の木陰は、さぞや心地が良いのだろう。全て終わった事だと、飛唱は頭の後ろに腕を組み、目を瞑ってしまった。

 確かに、燼と件の夫婦は関連がある訳では無い。考えたところで、答えも出ない。ただ、心の片隅に引っかかるものがあった。

 ある日突然、不治の病となり、全てを呪った男と女。始まりは病だったのだろうか、それとも――。

 燼の中に嫌な考えが過ぎった。あの男の『種』と言う言葉。種が何かを植えると言う意味ならば、病を()()()()()としたら。そして、神子は『彼』と、知り合いを指し示す様な言い回しをしていた。

 神子瑤姫は、男神の神子と言われている。ならば、『彼』とは――。

 全てが、一つの答えに繋がっているように思えた。

 燼は、思わず頭を振り払った。思考が悪い方向へと傾いている。男神は神々の中でも代表格と言われる存在だ。その様な事がある訳が無い。

 無音の中、風に靡いた草木の音が五月蝿いまでに、燼の耳に響いた。

 

「(また、あの時を思い出しそうだ)」


 燼は、今も時折、夢と現の狭間を彷徨う。

 決意は出来たのだ。主人に殺される事になろうとも、自身の使命を全て伝え、行く末を決めなければ。

 

 せめて、人のまま、命を終わらせる為に――。

三章が思ったより長くなってしまいましたが、これで終わりです。

番外編の後、四章が始まります。

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