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祝炎の英雄  作者:
第二章 黒鉄の正義
17/233

十一

あれから、一月が経った。じりじりと照りつける日差しに、本格的な夏が来ようとしている。墨省の暑さは、藍省よりはましと言われるが、実際は、それほど大差ない。この時期は、北にある丹省が過ごしやすいと聞く。新しい主人の一族が治める丹。もしかしたら、一度くらいは訪れる機会があるかもしれない。

そんな期待が膨らむ中、怪我も完治し、主人の元へと向かう日が訪れ、彩華と燼は、二人そろって執務室を訪れていた。


「父様、彩華です」


返事は無いが、彩華がそっと扉を開ければ、叡齋はひたすらに机に向かっていた。


「これから、祝融様の元へ向かいます」

「そうか……」


彩華に目もくれず書類に目を通し、何処と無く、そっけない。つい先日まで、何かと彩華に怪我の具合をこれでもかと毎日問いただしていたと言うのに、今日になって、執務室に篭ってしまった。一度、派手に親子喧嘩をしただけに、色々と勘ぐってしまい、やり辛い。それでも、今まで養って貰った事に変わりは無く、最後の挨拶ぐらいはと考えていた。


「もし、こちらで手が足りない事があったら、お手紙を下されば一時的でも……」


郭家で、山を見回っていたのは彩華一人とあって、その役目から解放されたと思うのと同時に、これから郭家の誰が担っていくかを思うと、心配でもあった。それが、思わず口から漏れただけだったのだが、言い終わる前に、眉を顰めた叡齋が遮った。


「お前は、祝融様の麾下となった。一々、家の事を気にして、主人を疎かにする様な真似だけはしてはいけない」


まだ、実感が湧かない彩華には厳しい言葉であったが、頭を下げた時点で、お前は臣下になったのだと、叡齋なりに諭していた。


「それと、本家から幾人か、郭家の者をこちらに帰して貰うように取り合った。手は足りている」


叡齋は息をつくと、立ち上がり、彩華の目のをじっと見た。

睨まれる事はあっても、見つめられる事はないため、彩華は何だか気恥ずかしくなり、つい目を背けるも、肩に手が置かれ、再び叡齋の顔を見れば、厳しくも優しい父の姿があった。


「主人から選ばれ、お前自身もあの方を選んだ。これ程、幸運な事もない。決して、後悔が無いように、努めなさい」


そう言われ、彩華も何だか誇らしかった。


「燼、彩華を頼む」

「承知しました」


何とも、当主らしい、父親らしい言動に、彩華は胸が熱くなった。

本音を言えば、もっと早く真っ当な親子関係を築きたかった。旅立つ今となっては、既に遅いが、それでも、父親から言葉があっただけでも、彩華は満足だった。


「今まで、お世話になりました」


彩華にとって、精一杯の感謝の言葉を述べ、叡齋に背を向けた。二度と帰ってこれ無いわけでは無いが、覚悟は要る。そのまま、振り返ることなく父の下から去った。

簡単に纏めた荷物はあまりに少ない。正直、彩華は矛さえあれば十分とすら考えていた。それは燼も同じだった様で、その身一つで殆ど荷物らしいものは無かった。


「燼、本当に獣人族の村には寄らなくて良いの?」

「いいよ、何も思い出なんて無い」

「……そっか」


二人は、外に出た。照りつける日差しを手で遮るものの、これといって効果は無い。


「じゃあ、行こっか」


燼が頷くと、彩華は龍へと転じた。燼を背に乗せ、空高く舞い上がる。雲一つない晴天の中、黒い龍が空を泳ぎ北へ向かって旅立って行った。




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