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伊武受雷の事件簿

鎮魂探偵伊武受雷の事件簿The Beginning

作者: 山本大介

 伊武受雷、はじまりのお話。

 


 俺の名は伊武受雷。新米探偵だ。

 幼いころから俺には霊能力があり、死者の声が聞える。

 ある日、死んだ潮来(いたこ)のばっちゃんから、(受雷、おめ、探偵になれ)と夢枕に立った。

 (断固断るっ!)と夢の中で言ったが(おめ、呪うぞ!)と言われ、仕方なくこの道に進んだのだった。

 なんで、あまり意欲はない。

 俺は強制されるのが苦手だ。

 しかもしかもだ。

 だって、しょうがないじゃないか、せっかく頑張って大手IT企業に入ったのに、ばっちゃんの命令でこんなことになってしまったのだから・・・だから、なんのPRもしない。

 今日も探偵事務所は閑古鳥が鳴いている。

 事務所を明けて4日も経っているのにだ・・・。

 だが、依頼は突然やってきた。

若い女性が血相を変えてやってきた。

開口一番、

「私、人を殺しました・・・でも、私全く覚えがないんです」

「???」

 イミフだ・・・失礼、意味不明なことを言う。

「助けてください」

 真美と名乗った女性は、真剣な眼差しを俺に向けた。

 取る物も取り敢えずやって来たのだろう。

 彼女はこの冬の寒い中、上着も着ず白いセーターにGパン姿。

 おとなしそうな顔に、スレンダーボディ、顔に似合わずでるとこはでて、セーターから見える膨らみは、まさにダイナマイツであった。

(・・・ふむ。嫌いではない・・・むしろ)

 そっとテーブルにコーヒーを置く。

「とりあえず飲んで・・・事情を聞こうか」

「・・・はい」

 彼女は静かに語りだした。

「私・・・自宅で寝ていて・・・起きたら、血だらけの人が死んでいたんです」

「・・・警察は?」

「はい・・・私・・・気が動転しちゃって、走って部屋をでて・・・それでここの看板を見て・・・」

「・・・それはマズイな」

「・・・はい」

「まずは警察に連絡でしたね」

「すいません」

(これ、受雷)

 ばっちゃんの声がした。

(分かっているよ。この娘は無実だ)

「分かっているよ」

 二度目は自然と言葉にでた。

「?」

「失礼」

 俺は立ちあがると頭を掻き、彼女に俺のスタジャンを投げ渡す。

「着て」

 と短く伝え、俺は黒いコートを纏った。

 実はBJ(ブラックジャック)を崇拝しているし、チャゲアスの「YAH YAH YAH」が好きだ。

 なので、仕事の時の勝負服は全身黒尽くめなのだ。

「案内してくれ。君の家に」


 果して、真美のマンションの前には、何台ものパトカーが来ていて、規制線も貼られていた。

 それを見て、凍りつく彼女に、俺は優しく肩を叩いた。

「いこう」

 俺たちは前へ進んだ。

「ちょっ、立ち入り禁止ですよ」

 警官が注意してくる。

「俺は探偵。そしてこの娘は、殺人現場の住人だ」

「なっ!」

 絶句する警官を尻目に、俺たちは規制線をくぐった。

 そして彼女の部屋へ入る。

 そこには多くの刑事に警官いた。

「君たちは?」

 恰幅のいい刑事が尋ねる。

「丸出警部っ!女性はこの家の住人、男は探偵です」

 後ろからあの警官が告げ口のように言った。

「すわっ!あなたが犯人!お前は、た・ん・て・い・だとう!」

 真美には断定の目、俺には猜疑の目を警部は向けてくる。

「ちょっと失礼」

 俺はそれを無視し死体の元へ。

「貴様っ!」

 俺は警部を手で制した。

「すぐ終わる」

 俺は深く息を吸い込む。

 死体に右手を添える。

「ダイブ」

 俺は鎮魂探偵、死体に語りかける。

「うんうん、よしっ・・・うん、うん、わかった!」

 俺の急にだした甲高い声に現場は凍りつく。

 そんなの関係ない。

 俺は死体に語りかける。

 そして死体は一部始終を語った。

「うん、うんっ!こんなんでました~」

 俺は戻ってきた。

「なんだ!それは?ふざけるなっ!」

 警部は怒り心頭だ。

 俺は人差し指を左右に揺らし、ウィンクする。

「まるっと、真実はひとつ、事件は円満解決。この不可思議事件、見破っ・・・」

 俺は警部を指さし決め台詞を・・・。

「指をさすな」

 と、払いのけられた。

 だが、俺は意に介さない。

「真美さん」

「はい」

「あなたは無実です」

「えっ・・・はい」

「貴様、何を根拠に」

 警部は食ってかかる。

「シャラップ!今からそれを証明してみせます。この死体は上の階の505室の田中雄三さんです」

「はあ?」

 思わず、警部は疑問の声をあげる。

「ここは4階の405室。・・・すなわち、彼は死ぬ場所を間違えたのです」

「なんですと!」

 警部は絶句する。

「田中さんによると、同棲する彼女に別れを切りだされた。そして、今日は彼女がマンションをでていく日、彼は当てつけに自分を自傷し、彼女に見せつけるつもりだった・・・だが」

「だが?」

 警部は身を乗り出す。

「彼は予想以上に、自分の身体を傷つけ過ぎた・・・出血はおさまらず。うつろな意識でこの部屋へと辿り着いた・・・」

「だが、真美さん、あなた部屋に鍵はしてなかったのですか?」

 警部は疑問を口にする。

「あの・・・私、その日、嫌なことがあって、やけ酒をして泥酔しちゃって・・・鍵閉め忘れてたかも・・・」

「なんと・・・」

「これがこの事件の一部始終」

 俺はそっと、田中さんの肩に手を置く。

(田中さん・・・彼女泣いていますよ)

 俺はそっと振り返る。

 部屋の玄関の前に涙を流して佇む女性がいた。

「丸出幾三びっくり!」

 警部が両手を挙げて、おどける。

 しかも、何故か含み笑いをしていた。

 俺は格好をつけてコートを翻す。

「では、失礼」

「・・・・・・」

 俺は真美の視線を感じながら、現場を後にした。


 都会の夜は寒い。

 白い吐息が、街に吸い込まれる。

 俺は自販機でコンポタスープを買い、ポケットをまさぐる。

「あった」 

 常用のフリスクを取り出すと、シャカシャカと無造作に手の平に乗せた。

 口に頬張り、ばりばりと嚙み砕きながら、熱いコンポタを流し込む。

「くう~」

 たまらない。

 仕事あとの一服の余韻に浸った。



 事件が解決して数日が過ぎた。

「さあてと」

 俺はユニフォームを着て、その上からジャージを羽織った。

 今日はフットサルの試合がある。

 スパイク入れを片手に持ち、玄関を出ようとする。

 目の前に真美がいた。

「やあ」

「こんにちは」

「どうしたの」

 俺がぎこちなく言うのに、彼女は屈託なく笑った。

「あのう試合、見に行っていいですか」

            

             おしまい



 続きは・・・あるのか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サイコメトリーのような能力ではなく、まさしくな降霊術という訳でもなく、肉体に残った記憶を潜り込んで読み取る能力、というよりは鎮魂探偵なので、無念の想いを抱えて肉体に残ってしまった魂に擬似的…
[良い点] (断固断るっ!)って力強く言ったかと思ったら(おめ、呪うぞ!)の一言ですぐ折れちゃったのが、なんだかじわじわ来ました(笑) 死体の声が聴ける鎮魂探偵…いいですね~! 面白かったです! …
[一言] 面白かったです。 死人の声を聞けるって、探偵の能力としては、割と優秀ですよね。もう、推理とか関係なく、直接聞く。はい、終わり。ですからね。 それにしても、フリスクコーンポタージュは、どんな…
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