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【第二部開始】10年前に戻ったら再会した幼なじみがぐいぐい来る件について  作者: 空田
10年前に戻ってもきっと世界は変わらないだろう
20/39

10年前に戻っても幼なじみとデートするはずがないだろう ①

山岸直人視点

「直人くん、デートしましょう!」


「は?」


 佐伯ゆいがいつものように俺の部屋に入ってくると、突然そんなことを言ったので、俺はぽかんと口を開け、変な声が漏れた。


「行きましょうよ、デート」


「ど、どうしたんだよ、急に」


 あまりにも突然すぎる誘いに俺が動揺してしまう。


「ダメですか?」


 佐伯ゆいはこてんと首を傾げた。俺は突然のデートの誘いに面食らっていたが、何とか我に返る。


「ダメというか……、どうしてデートしたいなんて言い出したんだよ」


 兎にも角にも理由を聞いてみないと、断る理由も思いつかない。


「理由なんてないですけど、ただわたしが直人くんとデートをしたくなったんです。もしかして予定とかありましたか?」


「いや、予定はないけどよ……、前も言ったろ? クラスメイトに見られて目立つことが嫌なんだよ」


 俺はなんとかそんな言い訳を思いつき、嘯いた。


「むー」


 佐伯ゆいは頬を膨らませ俺を不満げ見つめる。

 すると突然、俺のポケットがかすかに震え、スマホから着信音がなっているのに気づき開くと、天塚恵と名前があった。

 佐伯ゆいに「悪い、電話だ」と断ってから部屋から出た。

 天塚恵の名を見て、俺は今日一日の先ほどまでの出来事を思い出していた。

 

 昨日、つまり三連休が終了した火曜日のことである。

 ゴールデンウィーク前半が終了し、一日だけ学校に登校しなければならなくないのだが、その日、学校自体は割と平穏な日常だった。

 いつもと違ったのは、楠陰一馬が俺のいつも昼飯を食べている場所にやってきてヘアピンで前髪を横に流し目を見せるようになると、女の子並みに可愛くなり、実は楠陰は『男の娘』属性を持っているのが発覚したことくらいだ。

 ちなみにそのあまりの可愛さに昼食の場所にやってきた佐伯ゆいも驚いて、なぜか俺が浮気をしたみたいになって怒らせてしまったので平穏とは言えないかもしれない。

 あの時の佐伯ゆいは本当に怖かった。目のハイライトが消えて感情がまるで読み取れなかったからな……。

 まあそんな誤解もなんとか解け、学校自体はいつものように終了した。

 問題はその日の放課後のことである。

 この前、友達を作れと説教されていた時に無理やり連絡先を交換させられていた天塚から『明日近くのデパートに来るように』と呼び出しの連絡が入ったのだ。

 俺は次の日である今日の朝に渋々と呼び出されたデパートに赴くと、

 

『今日はあんたを性根から叩き直して、少しでもマシな男にさせてやるから覚悟しなさい』

 

 俺はもちろん急に何を言い出すんだと反論した。

 

『あんたリア充になれないと早死にするって教えたわよね? いいから言うこと聞きなさい』

 

 そんな天塚の暴論で押し切られてしまったのだ。

 人生で一度も訪れたことのなかったオサレな美容院に連れてこられ、慣れない空間に気まずい思いをしていると、カリスマ美容師っぽい店員が出てきて天塚に命じられた通り『おまかせ』で頼むと、何やらよくわからないがおしゃれっぽい髪型にさせられた。

 もちろん費用は俺が払わされ、いつも使っている散髪屋の五倍近くの値段に驚愕しながら、俺が汗水たらして働いて得たバイト代は消えていったのだ。

 そんなわけで、俺は今日という半日を天塚に無理やり連れまわされ、なぜか女の子のエスコートの仕方やおしゃれな服選び、女の子とデートした際の気の利かせたセリフなど、いつ使うかよくわからない知識を教えこまれた。

 それが今日の朝から夕方まで行われ、つい先ほどようやく終了し、帰宅したばかりである。


「何の用だよ。天塚」


 俺は呆れながら天塚からの電話に出た。

『言い忘れたことがあったのを思い出したのよ。いい? 驚くかもしれないけど、よく聞きなさい』

 天塚のいつも通りの不機嫌そうな声が携帯から聞こえてきて何やら勿体ぶった話し方で語り出した。


「……なんだよ」


 なんとなく嫌な予感を感じる。

 天塚と出会ってから何一ついいことを言われたことがない気がするので嫌な予感しかしないのも当たり前だ。

 俺はごくりと息を呑んで覚悟を決めながら、天塚が口を開くのを待った。

 

『あんた、今日ゆいにデートに誘われることになるわよ』

 

 勿体ぶって何を言うかと思えば、つい先ほど、話していた話題だった。

 天塚がどうしてデートのことをどうして知っているんだと疑問に思ったが、よく考えてみれば、天塚は一応佐伯ゆいの友達だったはずだ。相談でも乗っていたのだろうか。


「ああ、そのことかよ。それならもう断ったぞ」


『断った?? あんたもしかしてゆいからのデートの誘い断ったの???』


「ああ」


 俺が頷くと、言葉を失った吐息が電話越しに聞こえてきた。

 

『───信じられない! あんた、ゆいからのデートの誘い断っていいと思ってんの??』

 

 天塚の怒鳴り声が耳が痛くなるくらい響き、俺は慌ててスマホを耳から離した。


『てか、どうしてあんなに可愛い女の子からのデートの誘い断ったりするのよ』


「どうしてって……。もしクラスメイトに俺とデートしてるところなんて見られたら、あいつにも迷惑がかかるだろ」


『そんなのただの言い訳でしょ。クラスメイトに見られる可能性なんてほんとに少ないし、見られないようなところに行けばいいだけじゃない』


「そうかもしれねえけどよ……」


 俺は天塚の話に言い訳を思いつくことができず、口ごもってしまった。

 天塚の話が正論であることはわかっている。

 学校付近の施設を利用すればクラスメイトと出くわす可能性はあるのだが、例えば俺の家は学校からかなり離れている。そこからさらに学校離れたところを利用すればクラスメイトとすれ違う可能性はかなり低いだろう。

 それでも俺が佐伯ゆいとデートすることになってしまったら、今まで自分自身の中の必死にせき止めてきたものが崩れ去るようなそんな予感があったのだ。

 

『ゆいとのデート、絶対に引き受けなさいよ! これはあんたがリア充になって人生を変えて早死にしないためでもあるんだからね』


「わかったさ。早死にしないために、だな」


 俺は結局デートに行くことを頷いたにもかかわらずなぜか少しだけ安堵して、天塚からの電話を切った。

 電話を切って部屋に戻ると、佐伯ゆいは俺のベッドの端に座っていてすぐに目が合った。


「誰からの電話だったんですか?」


「……お前の知らない人だよ」


 俺は何と答えたものかわからなかったのでそんな嘘で誤魔化した。

 佐伯ゆいが天塚を知らないはずがないのだが、なぜ天塚と電話するようになったのか説明できる気がしなかったからだ。


「それよりデートなんだけどよ……クラスメイトが来ないような場所だったら別にいってもいいぞ」


「え! ほんとですか?」


「ああ」


「えへへ、楽しみです」


 佐伯ゆいは照れたように大きな目をすっと細めて笑った。

 俺はなぜかこのデートで佐伯ゆいとの関係が何か決定的なものが変わってしまう予感がして不安になっていた。

すこしでも面白いと思って頂けたら、ブックマーク・評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)して頂けると、嬉しいです。

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