学び舎と友情と小さな目標
拝啓、天国のお母さんお元気ですか?私は異世界で元気に魔王として生きようと頑張っています。
この町ルインで生き抜くと誓ってから約半年が過ぎ、ギルド『ドラゴニカ』の皆さんに良くして貰い何と学校にも通わせて貰えるようになった、無論勤勉に励み心身ともに成長し義父となってくれたギルドマスターことストロネル・ハザクに立派になった姿を見せつける為日夜勉強と魔力操作と魔法の鍛錬に励んではいる、でも難しい事この上ない。
魔法と言っても種類がある、詠唱魔法に略式魔法は勿論あり、罠や防壁に使用される方陣魔法や既に使用者が全滅し忘れ去られたルーン文字を用いた秘術などもあった。
その基本の型に加えて錬金術と魔法の融合を目的とした錬金魔法なども開発されており私がやってきたアニメやゲームでは知り得ない未知の技術に悪戦苦闘している。魔法事体現実世界で使える代物ではないので無論毎日頭を捻りつつも魔法を暴発し続けている、それでも魔王が故に飲み込みと上達も早い方だと先生に褒められた、若干お得な体である。
レベルという概念についても知れて良かった、ステータスを確認する術は基本的には町に点在している女神像への祈願によって見る。
しかし私の場合は凡そやばい数字が出そうなので「隠匿」を学び次第直ぐ自分自身のステータスを偽物へとすり替えてから確認しに行き普通そうな数字だと周りに思い込ませた。
早めに連れていかれずに済んで本当に良かった、レベルの概念があると分かった時点でほんのりやばそうとは思っていたが数年に一度程度の確率でステータスの数値が桁違いの存在が生まれる場合があると図書館で知り死に物狂いで魔法の勉強をしたのが功を奏した、実際問題こっそりと自分だけで確認しに行った結果としては、絶対に誰にもバレてはいけないバカみたいな数値だった。
見た目こそ今は幼いエルフの少女だが内に秘めている魔力の数値が外に漏れれば情報をたどって厄介事が舞い込んでくるに違いない、なので要警戒。
抜かりはない、無駄に頭だけちょっぴり良かったから思考の回転も速い、こっちの世界ではドジやって落ち込みたくないし。
この世界にも四季があることに数ヵ月立って気が付いた、私がこの町に来て養子となった時期が春頃だったが二三か月後には太陽の日差しが肌に刺さるような熱射を浴びた、そして今現在は若干の肌寒さを感じる風を感じつつ登校している。
お義父さんは私の事を実の娘の様に扱ってくれている、欲しい物は大方買ってくれるし質問をすれば知っていることは教えてくれる。親バカという存在を今の今まで見たことが無かったがそれを体験する側に回るとは思っていなかった、きっと目に入れても痛くないと言い出すレベルだ。
それはそうとこの世界の技術レベルがいまいち良く分からない、今私が身に着けているマフラーなどは地力でも作れそうだが私が履いているこの黒いタイツは一体誰が開発したのだろうか、この町の図書館の蔵書全てを読破してもその情報は載っていなかった。
買ってきてくれたイクサさんに聞いても「いやー私イアスちゃんに似合いそうってだけでよく分からない行商人から買ったから良く分かんない」と笑顔で言われ手詰まり。
確実に誰かが私が元居た世界に技術の一部をこの世界でも広めている、他にも誰か転生者でもいるのだろうか、考えていると学校に着いた。
正門には大きく「聖ルイン学院」町の名前を使っている通り町自体が資金を出し教育の場を設けてくれている、町立の学び舎だ。
広いグラウンドにそれなりに小奇麗な校舎、レンガ造りで趣があってとても景観が良い。こうもいい環境が揃っているのに先生も元冒険者で勇者のパーティーに勧誘された経験がある人や魔法を知り尽くして魔女となった人など凄い人ばかり、学び舎としては完璧と感じる。
玄関口で学校関係者専用の靴へと履き替える、基本的には一日の学業を終え帰る瞬間までこの同じ靴で過ごすというきまりだ、魔法で靴の形状を変化させ使用する目的があるらしく魔法が掛かりやすい素材を使用していると先生が言っていた、正直な所革製のブーツを一日履くのは日本人として抵抗が無い訳じゃないが割り切るのに数週間はかかった。
教室への移動中、私の前に立ちふさがるように仁王立ちをし睨んでくる存在に出くわす。
かれこれこれで百三回目だったきがする、出来れば相手にしたくないので横を通ろうとするが左右に移動して無理にでも塞いでくる。
「あの…通して貰っても良いですか?」
「嫌よ、貴方に決闘を申し込むのだから」
周りがざわつく、でも聞こえてくる囁き声は「また始まった」ばかりだ、面倒事に縁などありたくないので静かで豊かで救われるような感じに学園生活を過ごそうと決めていたのにも関わらずだ、彼女に悉く絡まれている。
名前は、エリシア・クイン・アリス、私と同じでミドルネームがある人間とアラクネのハーフだ。
上流階級育ち、侯爵家生まれ、常に優雅たれを家訓にし文武両道成績優秀学院一の花、綺麗なロングストレートの白髪は気品を感じられお淑やかそうな橙色の瞳と複数個の単眼、傷一つない綺麗な肌、誰もが憧れるプロポーションと完璧そうだが口元だけはひた隠し誰にも見せたりしない、アラクネと聞いた時点で多少は分かる。
絡まれる原因は、偶然口を見たから、それだけだ。私にとっては綺麗な牙が細かく複数に生えており好奇心がそそられる物だったが彼女にとっては一生の恥だったらしく今に至る。ちなみに戦績は全勝無敗だ、勝負ごとに関しては負けたくない、負けたら楽しくないし。
朝礼すら済ませていない状態だが先生が審判の元行われる決闘に関しては何事よりも優先される、戦闘狂が決めたのかと言いたくなる校則だ。
「では、ルールは至ってシンプルに対戦相手に降参と言わせるか気絶または指定範囲外に出したら終了とします」
アリスを見つめる、一応百戦も手合わせしている分手の内は大体把握している、けど汚い手を平気な顔をで使ってくる当たり優雅のゆの字も無い。でも、それ程に口を見られるのは彼女にとって自分を汚してでも恥ずべき所なんだろう、可愛いと思うけど牙。
口を見ているのが目線で察知したのかメラメラと怒りのオーラが見える、単眼一つ一つから殺気を放たれるとちょっと怖い。でも、この後に控えている授業に遅れが出るのは勘弁願いたい、先生から木剣をお互いに手渡され決闘の幕が切って落とされた。
アリスに動きは見えない、バレない様に軽く剣に魔力を流す、方陣を描き保険を掛けた。
「突き進む風三度止まり我に従え、吹けよ吹けよ暴風、雲を割き空を超え地に足を付けるかの敵を飛ばせ「烈風」」
空気中の大気を纏める圧縮し放つ魔法、威力はあるが殺傷能力は皆無で敵との距離を取る際に使う牽制魔法だ。アリス目掛け放ち距離を詰める、詠唱魔法の欠点は詠唱を済ませないと撃てない点、その分威力は保証済み、そして略式魔法は瞬時に放てるが威力が落ちるのが欠点、それでも十二分に模擬戦では使える、手突き出しアリスに重ねる。
「「飛電」」
当たれば体の自由を一時的に奪える感電魔法、略式に加えて元々が微弱故に行動停止は持って三秒程、空気中を走る紫色の飛電は不規則に動き見事にアリスを捉え感電した、でも最初に放った烈風の直撃コースではない、烈風はそのまま勢いそのままに地面へと着弾した。
「ぐっでも最初の魔法には当たりませんよ」
「残念、当たるよ」
「え?」
地面へと着弾していた烈風の軌道を変える、元々の詠唱は「突き進む風三度止まり我に応えよ、吹けよ吹けよ暴風、雲を割き空を超え地に足を付けるかの敵を飛ばせ」だ。それでは一直線に打ち出すだけ、少し改良を加えた私の烈風は魔力操作で軌道を変えられる。
見事背中に直撃、アリスの体は軽々と吹き飛び決闘の範囲外へと飛んで行く、でも途中で視界に映るアリスの姿が歪み消えた。いつも通りだ、「幻影」と「潜伏」を先に詠唱込みで使われていた、口元を隠すにはこういった不意打ち地味た物を成功させる役割もあるのだろう。
自分自身にそっくりな幻影を残し、周りの景色に溶け込む潜伏でチャンスをうかがう、日本で言う忍者か何かだ、やはり何度見てもワクワクしてしまう。
静寂が訪れ身動きが取れない、魔力を追ってを探そうにも「無気」を使われている、気配を殺し死者にすらなれる魔法を見破るのは至難の業だ。
焦る気持ちを抑える、まだ朝礼には間に合う、目を瞑り極限にまで神経を研ぎ澄ませ耳にだけ集中する。必ず仕掛ける時僅かに音がするはず、そこが勝負の瞬間だろう、後は彼女の性格を信じる他ない。
風が吹き草葉が地面を擦る、その時小さく地を蹴った音がした、急旋回で振り返り目を開け剣を突き刺す。
「貰いましたわ」
突き刺した存在は歪み消え後方よりアリスが剣片手に全力で切り伏せに来た、流石に間に合わない。
「なら引き分けってことで」
微笑み剣を地面に落とす、すると剣が光を放ち剣を中心に竜巻のような風を巻き起こし一気に吹き飛ばされた。決闘の範囲外に背中から落ち結構の衝撃と勢いのままに滑り止まった、着地を全く考えていなかったが咄嗟に魔力を全身に集中させ地面との接触時だけを守った、それでもお義父さんに貰った服が少し汚れてしまったのはちょっと愚策だった、流石に怒られるかな。
「両者同時に範囲外にでた為引き分けとします、お疲れ様、素晴らしい決闘でした」
拍手を貰いつつ立ち上がり汚れをスカートから払う、勝てはしなかったけど引き分けに持ち込めただけ良しとしよう。目を回して倒れたままのアリスの元に駆け寄ると我に返ったのか慌てて立ち上がり周りを見渡すようにキョロキョロする。
「私勝った?」
「引き分けですよ、まさか保険まで使わされるなんて思いませんでした」
「保険?」
引き分けに持ち込まれたので一応説明してあげた、最初に木剣に方陣魔法を組み込み持っていた、所有者が剣を手放し地面に落ちるという行為をトリガーとして発動する「竜巻」は周囲一帯に風の渦を作り吹き飛ばす物、基本的には属性を付与して威力を発揮するものだが単体では烈風の広範囲版だろう。
一通り説明してあげるとプルプルと体を震わせていた、もしかして泣かせてしまったのかと思い慌ててポケットからハンカチを取り出し近寄る。案の定泣いていた、どうすれば良いのか分からずあたふたしていると私の手からハンカチを奪い去り目元を拭き投げ渡して来た。
「イアス!次は勝つから、その、覚えてなさい」
そう言うと校舎の中に走り去っていってしまった、初めてあだ名で呼ばれちょっぴり嬉しかったりもする、呼び鈴が鳴り足早に教室へと向かう、今日も大変な一日の始まりだ。
授業が終わった、机から動けそうにもない、町の図書館で個人的に勉強するのとでは段違いな位の詰め込み教育。座学が終われば直ぐに実習、それが終われば体力や筋力をつける為ランニングやら基礎筋トレ、そしてまた座学と何処かの軍隊にでも入ったのかと疑ってしまうレベル、でもそれを平気でこなしていく同級生たちは私よりも強い、絶対に。
体が重たいが魔力をいじくり全身に巡らせ立ち上がる、最近覚えた自分自身を操る魔力操作の応用、これなら魔力さえあれば瀕死の重傷だろうが自由に動ける、意識が途絶えなければの話だけど実用的だ。
フラフラっと若干まだ不慣れなまま教室を出ると、アリスが其処にはいた。ゲッとした顔になったのを頑張って誤魔化し横を素通りしようとする。
勿論阻まれた、朝に決闘したばかりだと言うのにまた吹っ掛けられる、と身構えてみたが顔を見るにどうやらそうじゃないらしい、笑顔だった、それに頬が若干赤い。
「あ、あの、一緒に帰らないかしら?」
若干なんかぎこちない、それに顔を逸らし手だけを差し出すその姿は何となく可愛く見える。いつも周りにいた付き人的な人達の姿も見えない、罠と言う訳ではなさそうだ。それに断る理由も特に無い、仲良くなればきっと決闘の申し込みも減少してくれるかもしれない、後本音を言えばまた口が見たい、もっと言えば口の中を観察させて欲しい。
「良いですよ、後口の中見せてください」
欲望が口からボロっと出てしまった、やってしまった、私何かやっちゃいました的なボケは通用しない相手に何血迷った事を口走っているのか、弁解の余地はあるかなと顔色を窺うがもう完全に黙り込んで俯いてしまっている、取りあえず謝ってから処遇について聞こう、痛くないのが良いな。
「ごめん、悪気は無いんです、本当に、出来れば許して欲しいと言いますか、その」
「そんなに私の口が気になりますか?」
つい「へ?」と声に出してしまう、恥じらい赤面する姿は生唾を飲み込んでしまう位に可憐に見える。恐る恐る首を縦に振ると震える手でマスクを取ってくれた、校舎の片隅で何かイケナイ事をしている感覚に陥ってしまいそうだ、まじまじと改めて見るその口はやっぱり初めて見た時思った通り可愛くて何処か神秘的に感じてしまう、少し開いた口の中に無数にある小さな牙も印象的だ。
「はい、終わり」
直ぐに口を隠され手を掴まれる、魔力操作を忘れておりものの見事に顔面から廊下にキスをした。木の味を感じつつ体を起こすと「ごめんなさい」と言われながら手を差し出される、掴み立ち上がるとアリスは深呼吸し私の顔を見つめて来た。
「今更になるんですが、私エリシア・クイン・アリスとお友達になってくれませんか?」
「え、もう気持ち的には友達以上って思ってたんだけど」
「友達…以上?それはその、如何せん速すぎやしません?」
秘密を共有して貰った身としては友達は超えていると思いたかったけど、それは勘違いに終わった。
取りあえず新しい友達ができこれでこそ青春だと、心の中で噛みしめつつ帰路につく、帰る際に何故このタイミングで話しかけて来たのかと軽く問い詰めると「勝っても引き分けてもそのうち友達になって貰おうとは思ってました、でも中々勝てず挙句引き分けにも出来ずムキになってしまい…」との事だった。
口に関しては秘密を守ってくれれば偶に見せてくれるとの事、一番大事な部分だ。
途中で別れ、家へと向かう、夕日を眺め今日の出来事を思い出し一つ肩の荷が下りたと実感する、もう一つある方はあまり厄介でもないだろう、ゆっくり確実に力を付けていければそれで対処もできるはず。そしてそのうちもっと強くなり魔王らしく部下を従えていずれは城に住む、夢は大きく野望は小さく殺戮何てもっての外な平和主義な魔王になる。
今は目標を掲げて突き進むのみ、ドラグさん見てますか、私最高に楽しんでます。




