第5章
出
次の日、日の出と共に二人は歩き出す。最寄りで乗ると、知り合いに会うかもしれない。歩いて、3つ先の駅から電車に乗った。
僕らにお金はあった。バイトやら、貯金やら、なんやら。けれども、ずっとそれだけで暮らせるわけはない。だから稼がなければ。
ちなみに羽織の家は裕福だ。神社の中でも上の上。物凄い金持ち。だから、自分の土地をもう持っていた。まあ、いずれ別荘でも立てろ、と言っているようなかんじだ。取り敢えずそこに行くことにした。
着
出発から2時間、他愛のない話をしているうちに舞台は静岡へと向かう。羽織の別荘は、静岡の小さな港町。人も少ないし、行ったこともないそうだ。
駅についた。
駅からバスに揺られて30分、そこから10分歩く。これが最短距離。
新天地に足をつけると、ふわっと潮の匂いが優しく僕らを出迎えてくれる。本当に小さな、町だ。町というより、村……?
そこには、1階建ての、ものすごくボロい、本当にぼろい、和式の家があった。ドアは、力ず良く開けないとあかない。かといって、強すぎるよ壊れそうだ。中は、木の優しい香りに包まれていたけれど、今にも壊れそう。
僕らは取り敢えず、近所へとの挨拶へ行った。
まずはお隣。
「どうも、今日隣の家に引っ越してきた、神々と夜神月です。どうぞよろしくお願いします」
と、羽織が挨拶し僕が菓子を渡した。
「あらぁ、珍しいわねえこんな若い子がこの家の持ち主で、ここに住むなんて。みんな出ていっちゃうばっかだったのよ。嬉しいわ、私は、近藤よ。そこの青果店やってるのよろしくね」
「そうなんですか~こちらこそよろしくお願いします!」
と羽織が元気に応えた。
「よ、よろしくお願いします…」
僕は、かなりの人見知りなので、羽織のようには応えられない。
「そっちの子は彼女?」
「あ、えっと……その、違います」
「ああ~、近藤さん…こいつは、男なんです」
「え?」
近藤さんはとても驚いていた。
「性同一性障がい、なんです…」
「ああ、そういう事ね。中は男の子なのね、間違ってごめんなさいね」
近藤さんは、にっこりと笑っていた。僕を嫌がる素振りなんて一つもなかった。
「ありがとうございますっ」
僕は反射的に大きな声を出してしまった。
「あらら、元気な子なのね。みんなに今連絡するわね、2人の歓迎会しなくちゃ!!!!!」
「えっありがとうございます」
ぱあてぃ
その日の夜、集まれる人を集めていただきボクらの歓迎会をしてもらった。皆さんの話によると、この村は97人しか居ないそうだ。駅のある街と合わせても、500人に行くか行かないかぐらいらしい。今日、集まったのは、43人だ。半分くらいの人が集まったという事だ。
歓迎会というより、街の寄り合い会で新しく来た人を紹介する。という形にしか見えないと、始まってから思う。
女物の服しか体に合わないので説明が少し大変だったが、いる人に挨拶と、菓子折りを渡し、自分が男であることを説明した。
暮らす
歓迎会が終わって、新しい朝を迎える。
「おはよー、羽織」
「うん。ところで……この家ミシミシ言いすぎじゃね?」
「確かに……」
「直そう!」
「えっっ?」
「どうせ、やることもないんだし、さ」
いきなりの提案で、なにもリアクションを取れない。
「ま、まぁいいけど」
こんなにあっさりと決まっていいのか、展開が早すぎるのでないかと思った。この理由をその時の僕は知る由もなかったのだ。