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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
2章 異端者達のメルヒェン
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66話 魔麗喫茶へようこそ


 ギルドからの帰り道、三人は無言で歩いていた。

 平穏はゆっくりと壊れかけている。しかもそれは全く未知の存在だ。またあのモンスターと対峙することになったら――考えただけで背筋がゾッとする。


 エイルは俯き、唇を噛んだ。レベリオの前では大見得を切ったが、やはり魔王軍や未知の存在と戦うのは怖い。


 そして禁じられた魔法も再び使えるようになった。発動の条件が曖昧な中、上手くコントロールできるのか、無数の不安がエイルの中で渦巻く。

 すると、


「なんとかなるさ」


「え?」


「この前だって3人で頑張った。そしたら上手くことが運んだ。もちろん傷ついて辛い目にあった。だけどさ」


 エアは空を見ながら、何気なく言う。つられてエイルも空を見た。太陽が西に沈んでいく。綺麗な夕焼けだ。


 ニップルで見る空はいつも美しかった。そして3人で見た景色はそれ以上に尊くて、かけがいのないものだった。


「それ以上に、戦ってよかったって思っただろ?ちゃんと冒険できたんだって。だからまた頑張ろうぜ、もっと冒険するために。この冒険者の街のためにさ」


「――はい!そうですね!」


 そうだ。戦って後悔したことなんか一度もなかった。

 たくさん傷ついた。3人とも満身創痍だった。それでも、心は晴れやかだった。


 やっと3人で冒険できたのだ。エイルはエアとレイナともっと一緒にいたい。もっと冒険したい。自分の高鳴る気持ちに気がついたばかりだ。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。


「相変わらずエイルは元気ね。……私も頑張らなくちゃね」


 レイナが呆れたようにポツリと呟く。夕日に照らされた横顔は、小さく笑っていた。


 不安だけれど。怖いけれど。

 でも、逃げたくはない。二人がいるなら、頑張れる。

 すると、


「何でしょうか…あれ?」 


 道の先に行列ができている。とても長い行列で、特に女性が多い。


「どうせフレデリカのふざけたお店でしょ。私達には関係ないわ」


「……………」


 レイナはつまらそうに言った。しかし、エイルは行列の先にある店を見て目を丸くすると、


「エアさん、レイナさん。この近くに酒場ってシャルロットさんとフレデリカさんのもの以外にありましたっけ?」


「ないはずだけど……どうしたの、エイル?」 


「じゃあ、あれは一体……」


 人集りができていたのはシャルロットの酒場だ。しかし何だか様子がおかしい。

 今まで看板に書かれていた『蛇っと』は黒塗く塗り潰され、代わりに『魔麗喫茶紗瑠』と達筆な文字で書かれている。壁やドアも今までものとは違う、落ち着いた大人の雰囲気の外観になっていた。


 明らかに朝と全く違う酒場の様子に三人が絶句していると、


「やっと帰ってきたわね!待ってたわよふたりとも!ついでにレイナも!」


 ドアが勢いよく開き、タキシード姿のシャルロットが出てきた。頭に角カチューシャ、お尻に子豚のように曲がった尻尾を着けており、ニヤニヤと意味ありげに笑っている。


 シャルロットの姿に一同がさらに絶句していると、


「ほらほら、何してるの早く入って着替えて!レイナも!」 


「え?」


「ん?」 


「は?私関係ないし――」


「いいからいいから!」


 半ば無理やりシャルロットは三人を酒場に入れ、そのまま2階に連れて行った。

 三人はわけも分からぬまま着替えさせられると、


「うう……これ、すごく恥ずかしいです……」


 エイルは顔を赤らめ、お尻につけられた尻尾を手で隠した。少し大きめのタキシードにに角のカチューシャ、お尻には細い先端にハートのような模様がついた尻尾がついており、歩くたびに揺れている。


 エアもエイルと似た格好をしているが、


「おお、何でも似合っちまう……これがイケメンの罪か…!」


 タキシードの胸元を少し開けると、顎に手を当ててポーズを決める。エアは案外気に入ったみたいだ。


「あの……シャルロットさん、これは一体…?」


 しかしシャルロットにエイルの言葉は届かず、


「あっちが猫耳メイドなら、こっちはイケメンモンスターカフェよ!!クールさとモンスターの危ない刺激な2つが組み合わさった新感覚!ふふ、どうよ!!」


「おいナギ、何でシャルロットを止めなかった

?」   


「止められると思うか?」


「……無理だな。すまん」


 声高らかに宣言しながら仁王立ちするシャルロット。その横で筋骨隆々の肉体をタキシードで包んだナギは呆れたように首を横に振った。

 すると、


「モンスターなんてぶちのめすだけの存在でしょ?それをモチーフにするなんて……ふん、アホらしい」 


 着替え終わったレイナがつまらなそうに白手袋を弄りながら更衣室から出てきた。長い髪の毛をお団子にまとめ、スラリと伸びた高身長とタキシードがよく似合う。端正な顔立ちも相まって中性的だ。


「わあ……!レイナさん、とっても素敵です!」


「そう、ありがと」 


 エイルはレイナに釘付けになり、感嘆の声を上げた。褒められたレイナはつまらそうに礼を言い、壁にもたれた。


「さあ、これで準備は整ったわ!エイル、エア、レイナ!お客様を悩殺して、じゃんじゃんお金を稼ぐのよ!」


 拳を高く上げると、シャルロットは心底嫌そうな顔をしているレイナの首根っこを掴んで階段をおりていった。

 エイルとエアもシャルロットに続いて階段を駆け下りる。 

 どうやら、今日は酒場でも一悶着ありそうだ。


 

 


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