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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
2章 異端者達のメルヒェン
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60.5話 頑張れ!アクスラピア!(前編)

この話は以前書いた番外編で、29話~30話間の出来事です。後編は明日投稿します。

61話は今週中には投稿する予定ですので、少しだけ待っててくだされば幸いです。

「うーん…」


 ギルド中にある掲示板の前で、頭にサソリを乗せたエイルが唸る。


 地獄のお祈りの帰り、ついでにギルドに立ち寄ってクエストを確認しているのだが、いいクエストが見つからない。


「Fランクとなると、やっぱり採掘クエストばっかりですね」

「……だな」   


 もう一度エアと掲示板を見る。


『募集!薬草の元になる葉!』

『報酬追加!フワワの森でラプラタの実採集』

『タルミートの花十五本、三日以内』

 などなど、基本的に採掘クエストしかない。


 たまに討伐クエストとしてスライム討伐があるが、  


「スライムは絶対に嫌よ」


「完全にトラウマになってるじゃねぇか」


 エクール神殿でのキングスライムが完全にトラウマになってしまったレイナは、スライム討伐を頑なに拒む。

 試しに一つ上のランクのクエストを見ると、スライム以外の討伐クエストが大幅に増えている。


 やはり、Fランククエストで討伐クエストをメインで行うことは無理がある。


 ならばと採掘クエストを提案するが、


「Aランク以上の冒険者は採掘クエストなんて受けないのよ」

「もう受けるクエストが何もないぞ!!」


 レイナは最高ランクのSSSランク冒険者──最強冒険者の称号を持つ。

 プライドその他諸々が邪魔をして採掘クエストを受けることを許さない。


 その結果、完全に詰んでしまった。


「でも、Fランクの冒険団な大抵採掘クエストから始めるみたいですし…ここはとりあえずこの『今なら報酬追加!』をやってみませんか?」


 エアとエイルはひよっこなので、できれば採掘クエストで着実に実績を積んでいきたい。


 ここはなんとかしてレイナを説得したいところだが、 


「…この薬草の違い、分かる?」


 返事の代わりに、レイナは懐から二種類の乾燥した草を取り出した。

 二種類といっても、ほとんど姿や色は一緒。 

 本当に違う種類なのかも怪しい。


「一つはパスドの葉、もう一つは毒草。魔王、選びなさい」


「……じゃあこれ」


 適当に右の薬草を手に取り、照明にかざして透かす。

 一見普通の草だが、


「よし、そのまま食べなさい。一瞬で死ぬから」


「なに食わせようとしてんだよ!!」


 手に取った草をレイナに無理やり返し、毒草を触った手を反対の手ではらう。


「私達素人には植物の見分けなんてつかないわ。大抵この手のクエストは専門家を雇わないといけないから、そのぶん報酬も減る。さらにそこから三人で分けるとなると」


「…あんまり、利益がありませんね」


「こうやって新米冒険者が悪徳商人のカモになっていくのよ」


 冒険者に成り立てホカホカ新米達は簡単な採掘をメインにやっていく。

 そして、何回かクエストをこなしていくうちに気がつく。Fランクの安い報酬のほとんどが、雇った薬草薬剤師のお給料に消えることを。


 雇った薬草薬剤師はクエストの依頼元の関係者であることが多く、結局受けた冒険者に利益はほとんどない。


 そんな恐ろしいクエスト、レイナの言うとおり、討伐クエストが豊富にあるAランク冒険者は絶対にやらないだろう。


「まあ、ハーブノイルがいれば別なんだろうけど」


 ため息まじりにレイナがぽつりと呟いた。


 ピクリ、エイルの眉が少しつり上がった。

 心が嵐のように乱れつつエイルの心境を知らずに話は進み、


「ハーブノイル?何だそれ?」 


「最近出てきたヒーラーの職業です。九つ薬草を使って回復魔法を発動させる今人気のヒーラー …。回復以外に補助魔法なんかも使えるアクスラピアの天敵…!」


 一人で対抗心をもやすアクスラピアエイル。


 だが、二人はお構い無しにハーブノイルについて話していく。


「つまり、ハーブノイルは薬草の知識があるから専門家を雇わなくてもいい、ってことか」


「まあ、ハーブノイルは万能型だしね。最近はどの冒険団も採用してるみたい」


「へぇ…お、いいものあるじゃん」


 掲示板の横を見てみると、ランキング形式で色々な情報が貼られていた。

 モンスター討伐数、クエスト受諾数……あるが、一番目を引いたのが、


「なりたい職業第一位はハーブノイルか。すごいな」


 ハーブノイルは安定の一位。


 魔法使いや剣士が上位を独占する中、唯一のヒーラーだ。 

 エイルの目が細くなり、冷めた視線を送るが、エアは気がつくことなく厄災の扉を開けようとしている。


 視線をランキングの下に向けて、


「えっと最下位はアクス──あ」 


「分かりました、ならお見せしましょう。アクスラピアの凄さを!!」


 ハーブノイルで盛り上がる会話を無理やり中断させ、エイルが大きな声で宣言する。

 ハーブノイルへのライバル心に火がついたエイルは、怒りに任せて叫ぶ。 


「もう絶対になりたくない職業不動の第一位なんて言わせないので!!!」 


 バァン!!ランキングの紙を思い切り手のひらでぶっ叩く。


「ひ、ひぇぇぇぇぇ……」


 あまりの剣幕にエアは尻餅ついて、部屋の隅っこでガタガタ震え、レイナも息を呑んでエイルを見守ることしかできなかった。

  

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「え、エイル…くさいぞ…」


 本日二度目の臭い匂いにエアの鼻は曲がる寸前。


 酒場の厨房の一角は、エイルがグツグツ煮込む鍋から放たれる強烈な悪臭で地獄と化していた。


「……アクスラピアの薬の原料はモンスターです。匂いはありますが、効果は絶対なのでハーブノイルにも負けないのです…」


 瓶の中に入ったスライムのジェルを鍋に入れてかき混ぜる。

 鍋からドロドロした泡が沸き立ち、匂いがさらに強烈になっていく。


「…私、無理……」 


 その臭いにレイナは酒場の外に避難。

 今厨房にいるのは鍋と向き合うエイルと、後ろで未知の物体の恐怖に怯えるエアだけ。


「え、エイル…さん?この紫色の液体は……?」


「アクスラピアの薬です。もう少しで完成しますよ」


「ほ、本当に?劇薬とか暗殺用の毒じゃないよな?」


「──?当たり前じゃないですか」 


 ポーチから謎の粉を取りだし、加える。

 おたまで魔法陣を描くようにかき混ぜて、手をかざすと、


「我の指先はアスクレピオスの杖なり。治癒を司る精霊よ、汝の力で穢れを払いたまえ《ウンディート・アクア》」


 詠唱を終えると、紫色の液体がゆっくりと透明になっていく。

 ふつふつと沸騰していた泡も綺麗に消え失せ、少し粘着質を帯びた液体薬へと変貌した。            


「できました!アクスラピア秘伝の薬です!これを飲めば風邪に、塗れば傷に効く万能薬!…くさいのが難点ですけど」


 やっぱり匂いだけはどうにもならず、おたまで液体を掬っただけで匂いが厨房に充満する。

 処分に困った全てのスライムジェルを使ったので、作った量は莫大だ。


 とりあえず小さな瓶に入れていき、匂いが充満するのを防ぐ。

 三十本ほど瓶につめたとこで、鍋が空になった。

 エアが恐る恐る瓶を持ち上げて、


「……これ、美味しいのか?」


「お父さんが作ったのは飲めなくもない味なんですけど……私とティトーが作ったのは腐った卵みたいな味で……」


 エイルの幼なじみ、セウェルスだけは涙を流しながらも美味しいといってくれた。その後、派手にお腹を壊したらしい。 


「……これ、どうする?」


「……そこまで考えてませんでした」


 ハーブノイルのべた褒めに嫉妬してアクスラピアの働きを披露した。

 作ったはいいが、需要皆無の回復薬をどうすればいいのか。

 とりあえず、二人で一本ずつ瓶をもって、


「せーので行くぞ」


「は、はい…」


 まずは飲んで、処理しようという魂胆だ。

 瓶の蓋を開けたとたん、鼻に突き刺さる悪臭。

 手がガクガクと震え、瓶を落としそうになる。


 もう片方の手で震える手を支え、無理やり口元に運ぶ。

 覚悟を決め、一斉に液体を飲み込んだ。


「せーの───おええええええええええええええええええええ!!!」


「ううううううううううううううううううううぅぅぅ………!」    

 量がイッキ飲みできる量だったのが災いの元だった。

 味なんて感じない。

 一口で味覚がぶっ飛び、脳が麻痺した。

 身体の痙攣を起こしたように震えがとまらない。


 無駄についたトロみが気持ち悪さを増加させ、飲み込むことを喉と胃が全力で拒絶する。


「お、おうう…」 


 口を手で押さえ、必死に吐き気をおさえていると、


「二人とも、バイトのお時間よ…って何この匂い。臭いわねー……」 


 ひょっこりと顔を出したシャルロットが厨房の匂いに顔をしかめる。

 ぐったりと地に手と足をつけて四つん這いになっている二人と、放置された鍋を交互に見つめると、


「…どうしたの?何か毒でも盛られた?」


 あながち間違ってない。

 口一杯に入った薬を無理やり飲み込むと、 


「お、おえええええええ!!!死ぬかと思った!むしろ死んだ方が良かった!」


「はぁ…はぁ…死んだひいおじいちゃんが河の向こうで手を振って……私を…呼んで…」


「臨死体験ってやつかしら?ほら、しっかりしなさい」 


 元気に文句を言えるエアに比べ生死の間をさ迷ったエイルの目は虚ろで、今にもポックリ逝ってしまいそうだ。

 シャルロットは二、三回ほどエイルの頬を叩き、三途の川から引き戻す。


「……あ、あれ?私はさっきまで冥界の門を通って…」


「はいはい、冥界のプチ旅行お疲れ様。さあ、早く支度しなさい」


「あれ?おかしいなぁ…」


 まだ半分寝ぼけているエイルは、今ままで見ていたものが夢だったのか死ぬ間際に見た走馬灯なのか分からない。


「何この変な液体?東洋の飲み薬?」


 放置されていた大量の瓶を見ると、シャルロットは蓋を開けて臭いを嗅ぐ。


「…アクスラピアの薬ね。この臭いと味が変われば売れそうなのに…」


 ぽつりと呟いた一言。

 その一言で、


「「──それだ!」」


二人同時にこの悪魔のような液体を処理するアイディアを思い付いた。

 

 

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