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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
2章 異端者達のメルヒェン
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56話 原初の街を歩いて


 人間世界マートティア。

 原初の母神、ティアマトの骸を礎に作られた世界。

 

 その一国であるルナムニル王国は、マートティアの中でも『魔法』を学問として極め、技術に発展させた魔法大国だ。

 

 初代女王マトゥルが己の血を捧げ神と契約を結び、一番最初に建造した王都ニネヴェ。

 二番目に建造された街が、今エイル、エア、レイナの三人がいるバドティビラだ。

 

 この街は愛と戦いを司る女神に捧げられ、女神ディオネを信仰するディオネ教が国教となった今もなお厚く信仰されている。

 

「──そして、目の前にあるのが愛と戦いの女神を象った門、アスタルテ門です。私の『人生で絶対に行く絶景百選』にも入ってます」

 

「最後の情報はいらなかったが……でも、こりゃまた豪勢な門だな」

 

「女神アスタルテは派手で豪華な装飾を好んだとされています。門にあしらわれている獣は女神の聖獣で、マトゥル騎士団の物語にも登場する超有名な巨牛の───」

 

「長くなるなら先に行くわよ」

 

「へ?あ、はい!」

 

 話がマトゥル騎士団の方に傾き、エイルのオタクトークが始まる寸前でレイナがアスタルテ門を通り、それにつられてエイルとエアも慌てて後ろをついていく。

 

 美しい青色の門を通り抜けると、古き都バドティビラの街並みが広がる。

 バドティビラは二年前に大規模な都市開発が行われたが、壁に描かれた模様や古い建物は保存され、過去の面影を残している。

 

 その一方で、

 

「─────」

 

 太陽の光から隠れた、薄暗い小さな区画。

 裏路地からひっそりと顔を出した少女と目があった。

 

「……ディオネ教の連中の慈善事業でいくらかマシにはなってるけど、まだこの街に蔓延る暗部は払拭しきれていないみたいね」

 

 ポツリとレイナが呟いた。

 

 美しい街並みに隠れるように、荒廃した居住地が点々と存在している。

 いつの間にか、少女はいなくなっていた。

 

「たっく…なんで急にこんな遠出しなきゃなんねぇんだか…」

 

「どっかのマヌケが、シャルロットが大切に保管してたヴァージドデリスの肉を勝手に使ったからよ」

 

「あ、あれは不可抗力だろ!てか、勇者も食ったんだから同犯だ!」

 

「さあ?記憶にないわね」

 

「おい勇者。記憶を捏造するな」

 

「すごく美味しかった分、そのツケが今回ってるんですけどね……」

 

 三人はバドティビラに観光に来たわけではない。

 

『はああああああ!?メイド喫茶!?そんなもの絶ッッッッ対認めないわ!!!こうなったら味と風格の違いを見せつけてやるわ!!!』

 

 と意気込んでいたシャルロットが決戦用にとっておいた秘蔵のお肉、ヴァージドデリスの肉を倉庫から取りだそうとしたはいいが、そのお肉は既に三人が美味しく頂いている。

 

 ついにシャルロットの怒りが爆発し、三人はヴァージドデリスの捕獲を命じられてしまった、というわけだ。

 

「シャルロットは怒らせない方がいいな……。で、本当にヴァージドデリスがいるのか?」

 

「街から少し離れた所に、バドティビラ建造の時から手をつけていない原生林があるんです。二年間でヴァージドデリスが五回も目撃された場所で、モンスタースポットが大量にあるのを除けば一番ヴァージドデリスが捕まえやすい場所といえます」

 

「そんなにレアなモンスターだったのか……五回しか見つけられなかったモンスターをどう見つけろっていうんだよ…」

 

 ヴァージドデリスはレア中のレア。

 多くの冒険者が一攫千金を夢見て玉砕した、見つけられたら最高にラッキーレベルのモンスターだ。

 

 一時期ヴァージドデリス狩りが流行ったが、それでも捕まえられた数は十匹にも満たない。

 

 せっかく来たが、何の成果もなく帰る羽目になりそうな予感がプンプンする。 

 

「……モンスターを殺すだけなら得意だけど、捕獲となると彼女を頼らざるをえないわね」

 

「彼女……?」 

 

「もの作りが趣味の変人のことよ。……毎度のことながら、この有り様には驚くわ」

 

「変人……?それってどういう──って、うわぁ!?」

 

 小さな家の前に立ち止まったレイナがウンザリしたように顔をしかめた。

 石造りの四角い家で、屋根から真っ直ぐに伸びた煙突から煙が昇る。

 

 元々は塀だったのだろう、大きめ石が砕けて散乱し、さらに木屑やボロボロの布切れ、ハンマーや折れた槍などが家の回りに無造作に放置されている。

 

 生活感がない空き家のように思えるが、

 

「相変わらずね、テレーズ」

 

「………?レイナ、どうしたの?」

 

 部屋の隅で座り込み、何かを編んでいた女性──テレーズが振り向いた。

 

 室内には靴や剣、さらには鎧といった武具が展示されている。失敗作か、それとも未完成品か、中途半端の作品が足の踏み場もないほど床を覆い尽くしている。

 

 慎重に、テレーズは散乱物を踏まないようにこちらに近づく。

 

 肩に僅かにかかった燃えるような赤毛、前髪で左目が隠れているがまつ毛の長い茶色の瞳がとても印象的だ。

 身長はエイルより少し高いくらい──おそらく年上だろう。

 

 キトンと呼ばれる、白布で身体を包んだ簡素な服装に深紅の腰巻きをつけただけのシンプルな格好だが、右側に入っているスリットから太腿がチラチりとこちらをのぞく。

 

「……珍しいね。レイナが誰かとここに来るなんて。最近、ずっと一人でいたから」

 

「人を勝手に寂しい人みたいに言わないで。……彼女がギルド・バドティビラ支部の部長兼職員、テレーズよ」

 

「は、初めまして……ここ、ギルドの支部だったんですね…」

 

「また濃いやつが現れたな…」

 

 四人の間に何とも言えない空気が漂い、『ギルド・バドティビラ支部~受付は正面からどうぞ~』と書かれた看板がガタンと屋根から落ちた。 

  

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