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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
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39話 救いの手ではなく


 怖いけど、頑張ろうと思った。

 

 自分には冒険者になれる才なんてないから、この力に期待しようと考えた。

 

 少しずつだが、分かってきた気がしていた。

 

 だから、今回も大丈夫だと思った。

 

 失敗したのは、自分の覚悟が足りないから、まだ慣れていないから。

 

 そう思おうとしていた。

 

「───っ!?」


「リンド!!」

 

 一本、二本、三本……打ち出される黒刃は増えていく。

 

 動きも目に追えないほどに俊敏になり、リンドは絶えることなく動き続けなければならなくなった。

 

 しかし、いくら逃げても黒刃はリンドを襲う。

 

 レイナを木の陰に隠すと、エイルは絶えず黒刃が打ち出される魔法陣に駆け寄る。

 

 血で描かれた魔法陣は赤々とした光を放ち、シュヴァルドラゴの血の池と一本の細い川と繋がっていた。

 

「どうすれば…どうすれば…!」

 

 急いで魔法を止めなければ、スライムやウシュムガルのようなレイナが串刺しだ。

 

 魔法はいつも標的を殺すと自動的に止まっていた。

 

 この魔法が敵を殺すまで止まらなかったら───。

 

「違う、二回目のウシュムガルの時は無理やり魔法を止められた!」

 

 リリスに蹴られて意識が混沌とした際、ウシュムガルを倒す前に魔法が強制的に止まった。

 

 魔法陣を破壊したり、魔法使いの邪魔をすることは、もしかしたら有効かもしれない。

 

 地に描かれた魔法陣を手で擦ってかきけす。

 

 だが、

 

「な、なんで……?どうして……?」

 

 土と血が混じり、魔法陣は消えた。

 

 しかし、分離不可能なくらい混ざった血が水滴となって一ヶ所に集まる。

 

 そして、意思のあるように動いて枝分かれし───。

 

「……何、これ……」

 

 勝手に魔法陣は元通りに修復され、何事も無かったかのように光り、黒刃を打ち出す。

 

 何度魔法陣を消しても、同じように数秒後には元通りにになる。

 

「おい、どうなってるんだ!!魔法は失敗したんだろ!?」 

 

「わかりません…わからないんです……」

 

 自己修復を繰り返す魔法陣。

 

 そんなもの聞いたこともない代物だ。

 

 魔法陣を消そうとエアが手を触れると、

 

「っあ!!?」

 

 触られることを拒絶するように電撃が飛び散った。 

 

 電撃はエアの手のひらを軽く焼き、火傷のように皮膚が腫れる。

 

「ど、どうするば……」

 

 もう打つ手のない状況に、エイルの動悸が速くなる。   

 

──グシャリ。

 

 一本の黒刃がリンドの肩に命中した。   

 

 黒刃は肩に杭のように刺さり、リンドは苦痛で顔を歪ませた。

 

 痛みを堪えて、リンドは走り続ける。

 

 立ち止まったら、一瞬で雨のように降り注ぐ黒刃の餌食、見るも無様な串刺しの刑になってしまう。

 

「ちょっと、エイル!これあなたと魔法なの!?」  

 

「ち、違う!私はこんなことをするつもりじゃ───!」

 

 相棒の惨劇に、シフォカも怒りのまま叫ぶ。

 

 口では否定していても、この魔法はエイルによるもの。

 

 理屈も理由も分からないが、リンドを殺すまでこの魔法は止まらない。

 

「ふざけないで!!一体なんなの、このおかしな魔法は!!血を使うなんて聞いたことないわよ!!?」 

  

「違う…これは私じゃ……」

 

 また、リンドに黒刃が突き刺さる。

 

 今度は右腕。

 

 健常な腕で庇うように走り続けるが、明らかに動きが悪い。

 

 これ以上逃げることは不可能だと悟ったリンドは黒刃をギリギリで交わし、炎の剣を左手で振るった。

 

 襲いかかる黒刃を焼却する作戦なのだうか、

 

「──っあ!?」

 

 炎の剣に黒刃がぶつかった。

 

 一瞬で剣がリンドの手から離れる。

 あまりの衝撃に、黒刃が剣ごと吹き飛ばしたのだ。

 

 シュヴァルドラゴすら焼却した剣すら歯が立たない。

 

「──違う」

 

「エイル?おいどうした──?」 

 

 エイルの顔は真っ青だった。

 

 対称的に、魔法陣をぐちゃぐちゃに描き乱していたため服や手、顔が血で真っ赤に染まっている。 

 

 生気のない瞳で魔法陣を見つめ、

 

「違う、違う、違う、違う、違う…!!」

 

「おい、エイル!どうしたんだよ!」

   

「違う、違う違う違う違う違うんです!!!本当です!私にも訳が分からないんです!!!」 

 

 突然エイルが声を荒げた。

 

「──っ!?」

 

 いくら非常事態とはいえ、エイルの焦り──パニックは異常だった。

 

 両手で頭をかきむしり、消えない魔法陣を拳で何度も叩きつける。

 

 瞳孔が落ち着きなく動く。

 

 ウシュムガルが串刺しになって真っ二つになる、嫌な記憶が頭の中で延々と再生される。

 

 怖い。久しぶりに感じた恐怖が精神を蝕む。

 

──この惨劇が、リンドにも起こる?

 

──誰のせい?

 

──私の、せいで?

 

「違う違う違う!!私は悪くない──!」   

 

「落ち着けエイル・ジェンナー!!!」 

 

 エアがエイルの肩を掴み、暴れないよう押さえつけた。

 

「はっ…はぁ…」

 

 その手の温もりは、何故かとても安心できた。

 

「(覚えてる…初めて魔法を使ったときもこの手の温もりで気を失ったんだ…)」

 

「……分かってる、分かってるから落ち着くんだ。おまえが恐怖や敵意を抱けばそれだけ魔法に影響するし、魔法の影響も無意識のうちに受けている……心を乱すな、ゆっくりと深呼吸しろ…」

 

「てき……い?」  

 

 優しい声で、エアがエイルに語りかけた。

 

 恐怖は分かる。

 

 血を使い、魔王軍の化け物すら討ち滅ぼす魔法を使うことにまだ抵抗があるから、恐怖に繋がる。

 

 では敵意は?

 

 いったい自分は誰に敵意を持ったのか。

 

 襲われているのはリンドだ。

 

 ならば、エイルが敵と認めているのは。

 

──もし、レイナを囮にしたリンドに敵意を持っていたら。

 

──もし、少しでもリンドに悪意を抱いたら。

 

──もし、それが気づかないうちに殺意に変わっていたら。

 

 最初は小さな怒りから始まって、最後は大きな負の感情に変わってしまったもの。

 

 魔法陣の影響を受けたのかもしれない。

 

 でも。

 

「──私の、せい…だったんですね」

 

 心にストンと、理解が落ちてきた。

 

 すると、リンドに当たる直前で黒刃が地に引っ張られるように墜落した。

 

 全ての武器が戦いを止め、力なくカランと落ちる。

 

 不思議なことに、血で描かれた魔法陣が茶色に変色していく。

 

 枯れた草のようにボロボロなって、最後には跡すら残らず消えてしまった。

 

「……はぁ…何、だったわけ……?」

 

 シフォカがポツリと呟いた。

 

 だが、誰一人として事態を説明できる者はいない。

 

 当事者であるエイルでさえ。

 

 結局、人間がすがったもの。

 

 その真髄は──救いの手ですらなかったのだ。

 

 

 

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