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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
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34話 再会が呼び寄せたもの


 突然の訪問に、エイルとエアは驚いたまま固まっていた。

 

 ただ一人、リンドに名前を呼ばれたレイナを除いて。

 

 シフォカは初めて会ったときのように穏やかだが、リンドは、

 

「どういうつもり?今さら冒険者ごっこなんて」

 

 レイナに対する敵意と怒りを隠そうともしない。

 

 睨み付け、棘のある言葉を投げ掛ける。

 

「……私が他の冒険団に入ったことがそんなに気に入らない?そんなこと、リンドには全く関係が──」

 

「ふざけないで!私が言ってるのはミッションのことよ!」

 

 はぐらかすようなレイナの返答に、リンドは近くにあったテーブルを思い切り叩きつけた。

 

 怒りの力で木のテーブルが軋む。

 

 一気に険悪な雰囲気が酒場を覆い、二人の間に入り込むことは出来なくなった。

 

「あの、リンドさんどうかしたんでしょうか?前と随分雰囲気が違ってますけど…」 

 

 リンドの後ろで呆れ顔のシフォカの肩を叩き、事情を伺おうと話しかけたエイル。

 

 だがシフォカはキョトンとして、

 

「ん?どこかで会ったっけ?」

 

「え!?」

 

 完全に存在を忘れていたようで、不思議そうな目でエイルを見るシフォカ。

 

 人に忘れられることは思いの外ショックだった。

 

「う、ウラム村の近くにある森でディアウルフから助けていただいたエイルです!そんなに日経ってませんよね!?」

 

「あーあったねそんなことー。ごめんごめん」   

 

 一応謝ってくれたが、森での一幕なんて忘れられて当然かもしれない。

 

「まあ、リンドは…ミッションの任務がド素人の冒険者にいったことが嫌なんだよね」

 

「ど、ど素人……」 

 

 シフォカにエイルの心を抉られつつ、なぜリンドがここまで怒りを顕にするかを考える。

 

 どうやらリンドとレイナは顔見知りだったようで、今回エイル達が受けることになったミッションに対して文句があるらしい。

 

「でも、どうしてそのことを─」

 

 ミッションは極秘であり、他の冒険者には知らされない。

 

 リンドがエイル達のことを知っているのは何故だろうか。  

 

「新米の…それもFランクの素人に魔王軍討伐?ふざけるのもいい加減にしてちょうだい。冒険も戦いもお遊びじゃないのよ」

 

「遊んでなんかいないわ。レベリオも私も、この事態を納得した上での結論よ」

 

「魔王軍の驚異も知らない冒険者が戦ったって、命を無駄にするだけ。私達、ヘルヴィムの星が対処するわ」

 

「ヘルヴィムの星…それって」 

  

 マスカルウィンを発見した冒険団の名前は確かヘルヴィムの星だったはずだ。

 

 まさか──。

 

「まあ、なんでレベリオが新米なんかを贔屓してるのか分からないけど……リンドも何むきになってるんだか」

 

 呆れたシフォカが、酒場の椅子に勝手に座る。

 

 状況がなんとなく読めてきた。

 

 魔王軍は脅威、周知の事実だ。

 

 マトゥル騎士団がある程度魔王軍を弱体化させたといっても、人間は依然不利のまま。

 

 異世界探索にも参加している大ベテラン冒険団に任せておくのが得策だと普通考える。

 

 手柄を横取りされたとか、ミッションを盗られたと思っているのではない。

 

 ただ、エイル達の身を案じているだけなのだ。

 

 その善意は決して悪ではないが、

 

「…何を言ったって、この結果は覆らないわ。前代未聞でも無謀でも、魔王軍と戦うのは──私とあの力しかないの」

 

 これ以上の説得は無意味だというように、レイナはリンドに背を向けた。

 

 そのまま酒場の奥に姿を消そうとしたが、

 

「ランス王子のこと、まだ引きずってるの?」

 

 レイナの足が止まった。

 

 足、というより全ての身体の動きが完全に止まってしまった。

 

 リリスに挑発された時も、『王子』と単語にレイナは過剰に反応していた。

 

 レイナの過去も、友人もよく知らない。

 

 それでも、とても大切な人なのだということは分かる。

 

 軽々しく踏み込んではいけないことも。

 

「……なんでそこであいつの名前がでてくるわけ?」  

 

「そんなの見れば一目瞭然じゃない。ランスへの贖罪ためにいままで魔王軍と戦ってきた貴女が、どうして今さら冒険団に入るのか……似てるから、でしょ」   

 

「似てる…?」

 

 リンドの瞳が、不安げなエイルを見つめていた。

 

 誰が、誰と似ているのか。

 

 分からない、リンドの言っていることが全然分からない。

 

 エイルは何も知らない、エアのことも──レイナのことも。

 

 ただ、エイルは誰かと似ている。だからレイナは一緒にいる。

 

 後ろを向いているレイナの表情は見えない。

 

 けれど、固く握った拳が微かに震えていた。

 

「あの妄想王子の言うことを信じるの?やめてよ、あんな戯言のために無関係な子を巻き込むなんて──」 

 

「ランスを侮辱しないで!!」

 

 初めて、レイナが声を荒げた。

 

 綺麗な紫の瞳を怒りで真っ赤に染め、リンドに掴みかかる。

 

「や、やめてください!」

 

 分からないが、レイナはランスという人のことになると感情的になってしまうようだ。

 

 慌ててエイルが間に割り込むが、レイナの怒りは収まらない。

 

 今にも剣を抜いた喧嘩が始まろうとした、その寸前。

 

「はーい二人ともそこまで」

 

 大きくなった騒ぎに、ついにシャルロットが厨房の奥から現れた。

 

 左右両方の手を使ってリンドとレイナの腕を掴み、無理やり喧嘩を制止させたシャルロットは、険しい顔で二人を叱りつける。

 

「うちの酒場で喧嘩なんて認めません。ちょっとでも争ってみなさい、全員牢屋にぶちこむわよ」 

 

「そーそー、リンドも熱くなりすぎ。こんなとこで暴れたら色々面倒だよ?賠償金とかさ」 

 

 リンドの頬をつねりながらシフォカも変わらない調子で諌める。

 

 渋々二人は武器を収めたが、睨みあったままだ。

 

「…あ、あの…」

 

 声をかけようにも、何と言ったらいいのか分からない。

 

 すると、

 

「リンドは弱いやつらが魔王軍と戦うのが気に入らないんでしょ?だったら見せてもらえばいいんじゃん。魔王軍と戦えるほどの強さをもってることをさ」   

 

 終わらない争いにしびれを切らしたシフォカは、助け船を出した。

 

 助け船、と呼ぶにはいささか過激する気がするが。

 

 だが、二人はそれに納得したようで、

 

「ええ、いいわ。本当にギルドに認められてるなら文句はなくってよ」

 

「…ふん」

 

 なぜか魔王軍との戦いをかけて、勝負が始まることとなった。

 

 突然すぎる展開に、エイルは成す術なく、不安にかられるだけだった。

 

「な、なんだか大変なことに……」

 

「…おーい、俺は無視ですかー…」

  

 女性陣の圧に圧倒され、一言も発しなかったエアが、呆れたようにため息をついた。   

 

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