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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
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2話 魔王君臨


 話は一週間前に戻る。


「私はこれがいいなあ!」


「こんな田舎に宝石商が来るなんて初めてだわ!」


「これを頂きますねええええ!」


 ウラム村は田舎である。それも超がつくほどの。

 だからこそ、突然やってきた宝石商の男の素性は誰一人として知らなかった。


「お嬢さん達、そう慌てなさんな。うちの店の宝石は王室御用達、だけどお財布に優しい、市民のための市民による市民の商いなのさ!」


 そんな文句と共に珍しいものを売りさばくその男の宝石はカラフルで、よく磨かれた石のように輝いていた。


「じゃあ、私も」


 エイルも他の女子達と同じようにその店に群がった。

 特に安かった水色の水晶にエイルは目を奪われ、百フォリスを支払っていた。


 次の日、各々が買った宝石を見せあっていると、大きな隣街の衛兵がやって来て一言、


「それ、盗品です」


 宝石商なんて大嘘、本当は悪名高き盗賊だった男に騙された女達の宝石は証拠品して押収された。

 ただ、エイルの買った水晶だけは盗品ではないただの安物だったらしく、回収はされなかった。


 運命か偶然か、それが危険なものだと気がつかずに。


※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「あ、わ、あわわ。ああわ」 


 光は一瞬だった。

 雷のように勢いよく光り、そして消えた。


 地面から煙が上がり、焼け焦げた臭いが漂う。

 まぶしさに目を閉じ、再び目を開くと、異変は大きく二つ起きていた。


 一つ目、ヘクトは右足を残して蒸発していた。

 『燃えた』ではなく、『蒸発』と表すのが適切なぐらい、跡形もなくなっていた。


 そのことにも驚きだが、エイルは二つ目の異変にもっとも驚いていた。

 魔法陣の中央、水晶を置いた場所──すなわちエイルから見て真正面。


 そこに傷だらけの男が倒れていた。 


「…………あの」


 ぐったりと地面に伏す男にとりあえず声をかけるが反応はない。

 艶のある黒髪の青年だ。


 着ている服も一級品と分かる黒の礼服、腰に下げられた剣からかなりの上流階級の人間だと推測できる。  


 何より目をひいたのが、頭から生えている二本の角。

雄牛のように太く、少し先に向かってうねっているのが特徴的だ。


 ピクリと男が微かに動いて、


「……なさい」


 蚊のようにか細い声で何やら訴えかけている。

 ボソボソと呟き続けているが、声が小さく聞き取れない。

 耳を近づけてみると、


「……許してくれ勇者…いやお許しください勇者様…」


 ただただ一心不乱に謝罪を述べていた。 

 当然ながら、エイルには思い当たる節はないので、


「あの……大丈夫ですか?」


「悪かった、俺が悪かったですぅ…だからお慈悲を…お慈悲を…」


「いや、あの」


「いいじゃん……一回魔王やったて……男なら一度くらい夢みるじゃん……ああ神に見放され部下にすら見捨てられ……ああ」


 エイルの心配は耳に入っていないようで、途中から愚痴をこぼす謎男。

 だが、


「──え?ま、魔王?」 


 『魔王』というトンデモフレーズにエイルは反応した。

 というより、この国の者は皆恐怖や敵意といった感情を持つだろう。


「ぬ?」


「あ」   


 ふと顔をあげた自称魔王と目があった。

 宝石みたいな蒼の瞳にエイルは思わず見惚れ、ついまじまじと見てしまった。


 きっかり三十秒の完全な静寂の後、


「ふははははは!バカな勇者め!我の封印を解くとは道化の極みなり!!」       


「ええ……」


 先程とはうってかわり、腰に手をあてて仁王立ちする青年。

 呆れるエイルを無視してさらに魔王は言葉を続ける。


「勇者がいなければ我に怖いものなど存在しない。魔王軍の恐怖を味わうがいい、人間!!」


 魔王は手を突きだし、魔力を込めているようだ。

 なんとなく魔王の魔王に暗いオーラみたいなものが集中している気がする。  


「(え、もしかして本当に魔王?)」


 どんどん黒くて禍々しいオーラは密度を増し、辺りを包み込む。

 何とかしなければいけないとは思うが、攻撃魔法が使えないエイルに為す術などあるわけがない。


 『魔王』──それは人類を脅かす侵略者の長。

 彼の無慈悲な攻撃で、このまま世界は終わってしまうのか。


「我の名は────」 


 魔王が言葉を紡ぐ、その直後。


「ねーちゃん!大丈夫かッ!!!」


 バコーン、へんちくりんな音と共に魔王がぶっ飛んだ。

 拳くらいの大きさの氷塊が魔王に高速で放たれ、ほっぺに食い込む。絶対に痛いで済んでいない攻撃だ。


 水の攻撃魔法を放った声の持ち主は息を切らし、こちらに向かって手を伸ばしている。


「──ティトー!!」


 優秀な弟、ティトーが放った氷の魔法の名残を示すように、彼が持つ本に描かれた魔法陣が青く光っていた。


「なんか森で変な雷が落ちたから来てみれば、ねーちゃんは変な変態に襲われてるし…!でもねーちゃんはなんの心配もいらないからな!!」


「う、うん…?ありがとう…?」 


 状況から察するに、先程起こった光は雷と認識されているようで、それに驚いたティトーが様子を見に来た、ということだろう。……微妙にティトーが誤解しているような気もするが。


 一方、ぶっ飛ばされた魔王は木々にぶつかり、地面に叩きつけられた。

 数秒痛みに悶えていた魔王はヨロヨロと立ち上がり、


「ぐほっ……ふふ、やはり勇者との闘いがなければ、つまらんものよ……」


「いや、すごいボロボロですけど……」 


「こ、こんなのかすり傷だしぃ……うぐぅ」


 口では余裕ぶっているが、回復魔法を得意とする一族の者としては、心配になるほどの傷を負っていた。

 魔王は口から垂れる血を手で拭い、


「来るがいい、ゆう──」


「《方位は西、水の守護神。ウンディート・アクア》!」  


「ぐわあああああああ!?」 


 魔王の問いを無視し、ティトーは容赦なく攻撃魔法を放つ。

 今回のはなぜか魔王の股間にクリティカルヒットし、声にならない悲鳴が響く。


 見ているこちらが悪いことをしている気すら起こる惨劇だ。

 ちなみにティトーが行っている魔法の詠唱省略は、頭の中で術式を構築する大変高度な技である。


「せ、せめて最後まで言わせ──」


「姉ちゃんに手を出すな!この変態!!」


 勇者(見習いの魔法使い)と魔王の闘いという最高の場面なのに、ティトーは容赦なく魔法を放ち続ける。


「ちょ、ちょいタンマタン──ぐえぇ」 


 もう魔王は王道台詞を言うことを諦めたようで、制止を促し続けている。

 だがティトーは攻撃をやめず、もはやこちらが一方的になぶっているようにしか見えない。


「…………も、もう大丈夫だよ?ね?」


 あまりの惨状にエイルも止めようと声をかけるが、


「駄目だよ姉ちゃん!!こういうスケベな女たらし変態野郎は徹底的に抹消しないとッ!!きっと前世で幼女誘拐ぐらいやってるんだから!!」


「………そうなんだ……。でもちょつとやりすぎじゃ……」


「うおおおおお!!!もうやめてええええええええ……!!」      


 その後もティトーによる攻撃魔法は続行され、ボロ雑巾みたいになった魔王には、さすがに同情せざるをえない。


 こうして、魔王と人間の闘いはあっさりと終わった。


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[良い点] 魔王が可哀そう……でも面白い。 [気になる点] この魔王後で出てくる? [一言] うん、面白いです。なんか凄く好き
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