表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
29/73

26話 つかの間の安らぎ


「ねえ、あの三人なんか臭くない?」

 

「なんというか…極限まで腐らせたヨーグルトみたいな…。絶対食べたら腹壊す系のにおいの」

 

「ママー、あの人達すっごく臭い!」

 

「こら、見ちゃいけません!!」

   

 ニップルの住民は皆、スライムのジェルにまみれたエイル達三人を不審そうに見ていた。

 

 三人の近くを避け、影でこそこそ話されるのはあまり心地良いものではないが、たぶん立場が逆だったら同じことをしている。

 

「………見られてますね」

 

「………そりゃそうだろ…こんなに臭ければ嫌でも注目される……」

 

「………」   

 

 ようやく三人がギルドの前についた時には、夕日はほとんど沈んでいた。

 

 こんな臭い状態では馬車も借られず、仕方なく歩いていたらもうこんな時間になっていた。

 

 ギルドの中に入ると、ギルド内全ての人からの視線が三人に集中する。

 

「あ、あのクエストご苦労様でした。確かにスライムのボスを討伐さてたみたいです、ね!」

 

 受付嬢クラーピスが慌てて入り口に走って迎える。

 

 鼻と口を手で塞ぎ、ひきつった笑顔を作りながら、

 

「クエスト承認の前にギルドの近くにある銭湯に行かれてはいかがでしょうか!?一度さっぱりすれば心も身体もリフレッシュ!さあ、是非どうぞ!チケットを差し上げるので今すぐいってきてください!!!」

 

「え、あのその前にこれ──」

 

 エイルが何か言う前にクラーピスは銭湯無料チケット三枚を押し付け、そのまま背中を押してギルドから追い出した。

 

 扉の前で呆然と立ち尽くす三人に、ギルドの中から、

 

「とにかく、その臭いを落としてくるまではギルドの中に入れられませんので!!」

 

  

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 ギルドから歩いて五分。

 

 本当に近くに銭湯があった。

 古めかしいレンガ作りの建物の屋根から鉄の煙突が伸びており、もくもくと煙を吐いている。

 

 入り口から入ってすぐの受付でチケットを渡し、桶とタオルを貰って準備完了だ。

 

 エイルは銭湯初体験、ちょっぴり興奮しながら女湯の暖簾をくぐる。

 

 エアは「混浴じゃねぇのかよ…普通こういうのって一緒に風呂入るじゃん…」とぶつぶつ言っていたが、首筋にレイナが剣を当てるとすぐに男湯に消えてしまった。

 

「ここで服を脱ぐのよ」

 

 脱衣場で軽くレイナが説明しながら服を脱ぐと、エイルも従って脱いでいく。

 

 同性とはいえ、裸を見られるのには抵抗があった。

 

「うー…恥ずかしい…」

 

 手で胸を隠しながら服を脱いでいると、ついレイナの胸部に目がいってしまった。

 

 エイルよりも確実に大きい膨らみ。

 

 大人っぽいスタイルにスラッとした身長。

 

 チクり、自身の女としての魅力に傷がついた気がした。

 

「むう…」

 

「ちゃんと寝て食べれば、育つわよ」

 

「──!?む、胸の話ですか!?」

 

「身長の話よ」   

 

「へ?あ、すみません…」

 

 いつの間にかレイナの胸を見すぎていたようで、急に恥ずかしくなった。

 

 全く気にしていない様子のレイナは風呂場の扉を開ける。

 

 中には巨大な浴槽が三つ。真ん中に丸いのが一つ。奥に大きなものが二つだ。

 

 壁に沿って配置された洗い場にタオルと桶を置き、適当に身体を流す。

 

「スライムの臭い……中々落ちませんね」

 

「二度とごめんだわ。あんなやつら」

 

 ゴシゴシ、懸命に洗っていくが臭いは落ちない。

 

 皮膚にまで染み込んでいるのではないかと心配になってくる。

 

 時間も夜なので、風呂場は混んでいた。

 

 冒険者以外のニップルの住民も利用しているようで、幼い子供もいる。

 

 中にはガルーのような姿の獣人、顔が魚のような形をした亜人、トカゲが二足歩行したリザードマンと呼ばれる亜人もいた。

 

 みな仲睦まじく、互いに背中などの手が届かない部分を洗いっこしていた。

 

 それを見たエイルは閃いて、 

 

「レイナさん!背中の洗いっこしませんか?」

  

「……別にいいけど」

 

 弟とは幼い頃、何回かお風呂に入ったことがあったが、同性とお風呂に入るなんて初めてのことだ。

 

 つい洗いっこなるものを試したくなったが、レイナは快く承諾した。

 

 レイナは背中にかかった髪を頭の上にまとめ、お団子状にする。


「で、では……」

 

 綺麗な背中に少しドキドキしながら、タオルに泡をつける。

 

 そして、気がついた。

 

 レイナの背中に刻まれていた不思議な模様に。

 

「(なんだろう……これ)」

 

 背中の中心に小さく黒い、不思議な魔法陣があった。

 

 どこかレイナが聖剣を使ったときに現れた魔法陣に似ている気がする。

 

「じゃ、じゃあ洗っていきますね!」

  

 聞きたい気持ちを抑え、なにも見なかったことにして、背中を洗う。

 

 一通り洗うと、桶にお湯を入れて泡を流す。

 

「はい、完了です。じゃあお風呂に──」

 

「待ってエイル」

 

 そそくさと浴槽に向かうとしたエイルの腕を掴んだレイナ。  

 

 もう一方の手にはバッチリ泡立ったタオル。

 

「あの、レイナさん?何を…」

 

「何って、私も洗うのよ。洗いっこってそういうものでしょ?」

 

「…な、なんか恐れ多いです…!」

 

 実は結構ノリノリだったレイナは、無理矢理エイルを座らせ、背中を洗っていく。

 

 背中をタオルで擦られ、こそばゆい。

 

 なにより憧れの騎士団、マトゥル騎士団の一員に身体を洗われていることが信じられない。

 

「……エイル?なんでそんなに身を固くしてるの?」

 

「え!?あ、あの気にしないでください!」

 

 ガチガチに緊張したエイルを不思議そうな目で見るレイナ。

 

 至福の時間と言えなくもないが、恥ずかしさと畏れ多さで素直に喜べない。

 

 背中をお湯で流されると、すぐに奥の湯船に逃げるように浸かる。

 

 目の前の壁には青い山が描かれ、どこか異世界みたいだ。    

 

「はー……生き返ります……」

 

 香りもないシンプルなお風呂だが、二日ぶり&スライムまみれから解放されたためかとても心地がよかった。

 

 壁の青山を眺めながら楽しんでいると、

 

「蛇羽国発祥らしいわよ。この銭湯」

 

 ゆっくりと歩いてきたレイナも同じ湯船に浸かる。

 

「蛇羽国、かあ…」

 

 蛇羽国といえばナギの出身国だ。

 

 食べ物も特徴的で、建物も文化もまるで違うと聞く。

 

 魔王軍の影響で長らく貿易は途絶えていたが、近年また通商が復活したらしい。   

 

「で、どうだった?初めての冒険は」

 

「うーん…。思っていたより大変で、臭いもきつかったけど」

 

 こうして冒険を振り返ってみると、初陣としてはハプニングが多すぎる気がする。

 

 大量のスライムに襲われ、汚いジェルまみれになる。初めての経験だらけだ。

 

 それらを踏まえて感想を言うなら、

 

「すごくワクワクしました。あんなに大きなスライム、見たことのありませんでしたから」   

 

「……そう」 

 

 エイルの返答に特に感動した様子もないが、本当に少しだけ、口元が緩んだような気がした。

 

 しばらく二人とも無言でお風呂を楽しんでいると、

 

「どうかしましたか?」  

 

 まだそんなに長くは入っていないにも関わらず、レイナは浴槽から出ていく。

 

 スライムの臭いもすっかり取れ、火照った身体から水分を落としながら、

  

「早めに行かないと、『アレ』が売り切れるのよ」

 

「『アレ』、ですか?」 

 

 トーンが少し高いレイナの声。

 

 つい、エイルも気になって問い返してしまった。

 

 キョトンとするレイナの顔を見て、レイナは意味ありげに笑う。

 

「なんでも、蛇羽国ではお風呂の後にコーヒー牛乳を飲むのが定番らしいわよ」 

 

Twitterの方に聖女サーシャの立ち絵を公開しています。

よければご覧下さい!

活動報告の方から飛べる…はずです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ