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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
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11話 都市ニップル


 人生や仕事に疲れた者は旅に憧れるかもしれない。

 

 だが、エイルとエアが経験した旅は生ぬるいものでは決してなかった。

 

 まず最初の難関が寝床の確保。

 

 野宿なんて選択肢はモンスターや盗賊が蔓延る野道では自殺行為であり、そもそも春の夜の寒さの下で寝ることは不可能だ。

 

 仕方ないので宿をとっていたが、宿代は案外バカにならない。

 

 結果村長から渡された金は瞬殺され、三日後、ニップルに入る関門に並んでいた二人は無一文に等しかった。

 

 ちなみに道中金に困りすぎて、立ち寄った『いけない』お店で漫才をやってお小遣いを稼いだり、店の奥で悪役人に山吹色のお菓子を渡す賄賂の現場を目撃して命を狙われたり、本当にいろいろあったが長くなるのでここでは省略する。

 

 ようやくニップルの関門に着いたのはいいが、順番待ちの列は後方まで続いていた。

 

 順番を待つ間、二人は念入りに確認をする。

 

「エイル、ここで失敗したら俺達の努力は水の泡だ」

 

「分かってます。細心の注意を払っていきましょう」

 

「いいか、俺達は全く…全然怪しくない無一文の旅人だ」

 

「私はただのさすらい人…さすらい人……完璧ですっ!」

 

「よし、行くぞっ!」    

  

 ひたすら自分は安全でクリーンな旅人であると思い込ませ、関門で待つ門番に挑む。

 

 数時間このイメージトレーニングを続けていると、ついに二人の順番になった。

 

 警備服に身をつつんだ門番が尋問を開始すると、

 

「じゃあ、次はお二人さ───」 

 

「ぜ、ぜぜぜぜんぜん俺ら怪しくないっす!なっ!?」

 

「はいそうです!私たちすごく健全です!!」   

 

「へぇ……」

 

「「(し、しまったぁー!!)」」

 

 潔白を証明しようとする意識が前に出過ぎた。これでは怪しいと自白しているものだ。 

 

 明らかに門番の目が鋭くなった。

 

「名前と出身は?」

 

「わ、私はエイル・ジェンナーです。ウラム村から来ました」 

 

「俺はまお…じゃなくてエアです。同じくウラム村から…あはは」

 

「ウラム村ねぇ……そういえばなんか化け物がでたとかなんとか──」

 

「し、知らないな!俺達さすらいの旅人だからそういう世間話には疎いし!な!」

 

「そうですね!全く分からないです!」

 

「へえ…そうなの…ふーん…」

 

 もうわざとやってると思われるかもしれないが本人達はいたって大真面目である。

 

 二人が口を開くたび、焦りで怪しさに拍車がかかっていく。

 

 最後の切り札として、村長が発行した通行許可書を見せると、

 

「ふーん…アクスラピア、ねぇ…このご時世に珍しい。まあ、怪しいけど……」

 

 さすがに通行許可書があれば身元も保証される。

 

 この調子ならギリギリ通行を許可されるだろう。

 

 承認とともにニップルに入ろうと扉に足を少しずつ進めると、

 

「まて」

 

 ビクッ!二人の肩が大きく震えた。

 

「おまえ、この職業の『魔王』ってなんだ?」

 

 門番がエイルとエアの目の前に通行許可書をつきだす。

 

 そこには、なんと『名前:エア 職業:魔王』と書かれた通行許可書が。

 

「(な、なにやってるんですか!!魔王なんて一番書いちゃいけない単語ですよ!?)」

 

「(だって空白にしたら無職になるだろ!!それだけは嫌だ!)」

 

「(『元』魔王なんですから実質無職です!!)」

 

 小声でエイルは元魔王エアを叱りつけるがもう遅い。

 

 完全に門番はエイル達を不審者認定しており、このまま別室でゆっくり取り調べ…という結末が目に見えてる。

  

「あら、二人はもしかして冒険者になりたくてここに来たのかしら」

 

「「へ?」」 

 

 背後から突然聞こえた女性の声。

 

 後ろを振り返ると、そこにいたのは一人の女性。

 

 真っ赤な長い髪に茶色の瞳。大人っぽい顔立ちにメリハリのある体つき。

 

 髪色より暗めの赤い長袖のドレスがさらに大人っぽさをかきたてる。

 

 いきなりのご登場にエイルとエア、門番もキョトンとしているが、女性は話を一人で進める。

 

「だって、回復術師のアクスラピアは冒険者のお仕事よ?今はあまり見かけないけど、一昔前は大人気のヒーラーだったんだから」

 

「で、でもシャルロットさん!」

 

 遅れて正気に戻った門番が慌ててシャルロットという女性に反論する。

 

「魔王ですよ、魔王!いくらなんでも魔王なんて普通は書かないでしょ!」

 

「あら、夢があっていいじゃない」

 

「夢とかそういう問題ではなくて──」 

 

「でも、いくらカッコつけたくても魔王なんて名乗っちゃダメよ?魔法使いくん?」

 

「あ、はい」 

 

 シャルロットは小さい子供に教えるようにエアを諭したが、すぐ近くに世間を騒がす本物の魔王がいるなんて夢にも思わないだろう。

 

 魔王を騙る子供、程度にしかおそらく見られてない。

 

「魔法使いぃ?こいつがぁ?」

 

 相変わらず門番はエアを怪しむ。

 

 仕事人として当然の行動ではあるが、このままではこちらのボロが出かねない。

 

「将来は魔王にスカウトされるくらい強い魔法使いになりたいなーなんつってー……」

 

 エアも必死で一芝居打ってはいるが、門番の視線は厳しいままだ。

 

 だが、シャルロットの一言。

 

「回復術師と魔法使い……ニップルに来る理由なんてただ一つよね」

 

「……ああーはいはい!通行を許可します、すればいいんでしょ!?」

 

 半ば投げやりで門番ば通行を許可した。

 

 どうやらシャルロットには頭が上がらないようだ。

 

 エイルはシャルロットに頭を下げて、

 

「あ、ありがとうございます…!」

  

「いいのよ。最近、魔王軍がまた活発になってるらしくて検問が厳しいのよ。でも、この街は基本的に冒険者は拒まないから安心してちょうだい」

 

「拒まない…ですか?」  

 

「ええ。だって、ここは冒険者の街だもの」 

 

 シャルロットの言葉と重なるように門番が扉を開いた。

 

 扉の外から風が流れ、エイルの銀髪を揺らす。

 

「ようこそ、宗教都市ニップルへ。可愛い冒険者さん」 

 

 

     

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