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禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
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10.5話 ウラム村の一日

「…よしっ」

 

 ある日のウラム村。

 

 春風が心地よい朝、青年セウェルスはそわそわしてた。

 

 彼がいるのはエルドス診療所の近くの木陰で、かれこれ三時間は滞在している。

 

「おはようエイル今日もいい天気だな。ちょっと作ってみたんだけどよかったらどうだ?……よし、これでいこう。いやもう少し爽やかな感じで…」

 

 なぜ三時間も不審者のごとく突っ立ているのか。

 

 これには歴然とした理由がある。

 

 セウェルスは綺麗に包装された箱を大事に抱え、ある人に話しかけるタイミングを図っているのだ。

 

「(よし、俺は今日…生まれ変わる!!)」

 

 覚悟を決め、木陰から出ようと一歩踏み出したが、  

 

「あ、セウェルス。おはよう」

 

「ぶほッ!お、おおおはようエイルッ!!きょ、きょきょもいいいい天気だな!!」  

 

 いつの間にか後ろにいたエイルに声をかけられた瞬間、三時間も悩んで考えた言葉は見事に頭から消え去った。

 

 セウェルスの不審すぎる態度にエイルは、

 

「どうしたの?今日はなんだか慌ててるみたいだけど…」

 

「あ、慌ててない!慌ててないとも!いつもどうり、俺はいつでも平常だッ!」

 

「全然平常運転じゃなさそうだけど…」

 

 高速で首を横に振るセウェルス。

 

 エイルは不審そうにしているが、セウェルスは咳払いをして無理やり話を変え、

 

「じ、実は最近料理に凝っててな…。初めてフルーツタルトってやつを作ってみたんだか、親父とお袋にやるのは照れ臭いんだ。よかったら食べないか?」    

 

「え、いいの?」

 

 ぶっきらぼうにフルーツタルトが入った箱をエイルに渡す。

 

 エイルは箱を少し開け、中身を除き見る。

 

 中にはイチゴとラズベリーをあしらったタルトが入っており、素人とは思えない出来映えだ。

 

 エイルは中身を見ると顔を輝かせ、

 

「ありがとうセウェルス!丁度甘い物が食べたいって思ってたところなの!」

 

 笑顔ではしゃぐエイルに、セウェルスもまた笑顔を作り、

 

「(──計画通り)」

 

 そして心の中で悪い笑みを浮かべた。

 

「(三週間前から練習していたかいがあった…!これでエイルの好感度はうなぎ登り。エイルの中で俺は料理が上手い家庭的な男子に分類されるはずッ!!)」

 

 実際は毎日ひたすらフルーツタルトを作り続け、その技術に磨きをかけていった。

 

 もはやその腕はプロに匹敵しており、『素人』から程遠い存在へと進化している。

 

 これも恋する男の執念が成せる技であろう。

 

 すると、

 

「おおっとー体が滑ったー大変だー誰かにぶつかっちゃうなー…おらァ!!」   

 

「ふごッ!!?」

 

 突然現れたティトーがセウェルスの腹に向かって強烈な頭突きをかました。

 

 滑った、と言うにはかなり無理があるスピードど衝撃のヘッドタックルに、セウェルスは背中から倒れてしまう。

 

「──?ティトー、どうかしたの?」

 

「いや~足がちょっと滑ってさぁ~。まあ、事故だよ事故!」   

 

「ど、どこが事故だ…!」

 

 明らかな殺人行為にティトーは腹をおさえながら異議を唱えたが、残念なことにエイルの耳には届かなかった。

 

「ほら見てよティトー!セウェルスがタルトを作ってれたの、とっても美味しそうでしょ!」  

 

「ふーん…………セウェルスのくせに」

 

 誰も耳にも聞こえないくらい小さな声でティトーは呟いた。

 

 あらかさまにティトーは不満を顔にだすと、ポケットに手を突っ込み、何かが入った透明な袋を取り出した。

 

 すると、ぶっきらぼうにエイルにそれを差し出し、

 

「…気まぐれで作ったから、ねーちゃんにやるよ」 

 

「え?」

 

「は?」  

 

 エイルの目が驚きで点になるのがハッキリと見えた。

 

 セウェルスも時が止まったかのように静止してしまった。

 

 二人が驚くのも無理はない。

 

 ティトーという十二歳の少年は基本的に小生意気で素直じゃない。

 

 姉であるエイルに対しても素直になれないため、つい冷たい態度をとるツンデレな弟なのだ。

 

 そのくせエイルとお近づきになろうとするセウェルスのことを目の敵にしているようで、尽くセウェルスの『エイルと仲良くなろう大作戦』を邪魔をしてくる。

 

 エイルは綺麗に袋に包装された中身をマジマジと見つめ、

 

「これ、本当にティトーが作ったの?」

 

「……ちゃんと料理本通り作ったから食えるハズだし」 

 

 ティトーは不安な瞳でエイルを見つめた。

 

 袋の中身はボロボロのクッキーだ。形はとても歪で、焦げてしまった部分が多い。

 

 お世辞にも上手くできたとは言えない出来だが、

 

「嬉しいわティトー!形はちょっと歪だけど、きっと美味しいわ!」

 

「…あ、当たり前だろ!僕が作ったんだからな」

 

 普段ツンツンしている弟からのプレゼント。

 

 慣れないことをして失敗したとしても、喜ばない姉などいない。

 

 一生懸命作ったことが伝わっているのなら尚更だ。

 

「(く、くそ…!ティトーやつ、まさかここでデレるとは…!!)」

 

 セウェルスが全く予想していないから角度からのティトーのアピールにただ驚くばかりだ。

 

 いや、無意識のうちにティトーはエイルに対して積極的な行動しないと思っていた。

 

 それが墓穴を掘ってしまったので、悔しい限りだ、

 

 ティトーはセウェルスだけにみえるように顔を動かし、

 

「──ふっ(どや顔)」

 

 ギリッ、セウェルスが奥歯を思い切り噛み締めた音が響いた。

 

 ティトーとセウェルス、二人の目線がぶつかる。

 

「(…そうだなティトー。そろそろ決着をつけるときだな)」

 

「(はッ!望むところだよ…!)」 

 

 一髪触発、今まさに魔法の撃ち合いが始まるであろう空気だ。 

 

 だが、

 

「じゃあ、三人で食べよっか!」

 

「「え?」」  

 

 エイルの予想外の発言に、二人の目が点になった。

 

「あーでも、お父さんとお母さん、教会にいる子供達全員で食べるのもいいかも!」 

 

「あーうん」

 

「……ねーちゃん」

 

「え…な、何?何で二人して悲しそうな顔するの?私何かした!?」

 

「ねーちゃんは純度百%が売りなんだから、そのままでいいよ」

 

「そうそう、エイルはそのままでいいんだ。そのままで」 

 

「それ、褒めてないよね?絶対貶してるよね!?」

 

 エイルの悲痛な声と共に、そんなこんなで今日もウラム村は平和な時間が流れていった。

 

 ちなみにクッキーとケーキはジェンナー家とセウェルス家合同お茶会のおやつになったそうな。  

  


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