表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁じられた魔法の使い方  作者: 遠藤晃
1章 風の守護者
1/73

神話みたいな世界

最初に楽園があった


楽園は豊かな世界だった


まず精霊が生まれ

 

全ての母たる原初の神が生まれ 


若き神々が生まれ


動物が生まれ

 

多くの種族が生まれ 


そして最後に人間が生まれた


世界は豊かな楽園だった


だが生けるものが増え


種族は互いに争うようになった


戦争が続き世界は荒れ果て


楽園は壊れてしまった


四人の人間は楽園を離れ

 

新たな楽園を探し求めた 


一人は神に仕えし巫女


一人は勇猛な野人


一人は魔を操る術師


彼らを統率するのは偉大な王


四人の英雄は原初の神に挑んだ


人間の反逆に巨神は怒り


人間を滅ぼそうとした


数多の都が崩れ落ち 


多くの命が失われた

 

楽園が崩壊する時 

 

一柱の若神が人間を導き


王に一振りの剣を与えた

 

天命が具象となった剣は巨神の核を貫き

 

巨神を討ち果たした

 

人の王は神に祈り

 

天の神から授かった剣で巨神を解体し

 

その骸を新たな世界を作る礎とした 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※


「──そして、その世界をマートティアと呼ぶ。我々人間が繁栄し、千年の歴史を紡いだ新たな楽園である…」

 

 薄く霧がかかった森の中、一人の少女が大木の根本に腰をおろし、本を読んでいた。

 

 透き通るような銀髪を風に揺らしながら、碧の瞳で熱心に文字の羅列を追いかけている。

 

 年齢は十代後半くらいで、簡素なブラウスと緑のタータンチェックのスカート、頭の登頂部から一房だけ飛び出した髪の毛が印象的だ。

 

 腰回りのベルトには小さなポーチが取り付けられており、僅かな隙間から小瓶がチラリと見えている。

 

 数分後、少女は分厚い本をパタンと閉じて、

 

「…そろそろ帰らないと」

 

 霧に包まれた森に朝日が徐々に射し込んできた。

 

 森には野生動物の他にも危険な『獣』が生息しているため、護身の術を持たずに入ることは危険すぎる。

 

 『獣』に見つかる前に森を出ようと、切り株から腰を浮かせた直後、

 

「──ガア」

 

 背後から聞こえた唸り声。

 

 その声に少女──エイルは背筋を凍らせた。

 

 静かに腰のバッグに手をあて、中に入っている金の装飾がなされた古めかしい銃を握る。

 

 後ろに今いる存在の正体は既に知っている。これからすべきことも。

 

「──ッグルァ!」

 

 地を蹴る音。それとほぼ同時にエイルは振り返り、バッグから取り出した銃を飛びかかった狼型のモンスター──ヴェアウルフに向けて打つ。

 

「───ァァァグアアアアア!!」

 

 打ち出された銃弾は狂いなくヴェアウルフの体を貫いた。

 

 血しぶきを撒き散らし、肉が焼ける匂いを漂わせたヴェアウルフが地に伏した。

 

「やった……?」  

 

 窮地を脱したエイルは、安心から深く息を吐いた。

 

 だが、

 

「──グル、ア」

 

 沈黙したはずのヴェアルフの傷口が

膨らみ、緑色の魔法陣を浮かび上がらせた。

 

 そして、欠けた体に肉付けしていく。

 

 完全に再生した肉体を奮わせ、ヴェアウルフが苦なく立ち上がった。

 

「嘘、でしょ?」

 

 再び銃を構えるが、カチリと空砲を示す音が銃弾の代わりに放たれた。

 

 そして、

 

「グルガアアアアアアア!!!」

 

 モンスターの獰猛な声と共に、地面が震えて。

 

──隆起した。

 

「──ッ!?」

 

 エイルのすぐ横の地面が盛り上がり、巨大な土と石の塊が地から突きだされた。

 

 すぐに崩れ落ちるように塊は元の土に戻ったが、直撃したらただではすまないだろう。


 数秒間思考が停止し、状況をやっと把握した時には既に遅かった。

 逃げるために一歩踏み出そうとした右足は重く、地面に引きずりこまれるようだった。

 

「ふぎゃあっ!?」

 

 柔らい土が石のように固くなり、エイルの右足をガッチリと覆う。

 バランスを崩し転倒したエイルは土を払おうと必死にもがくが、

 

 

「た、立たなきゃ……!早く逃げないと……!」

 

 焦って立ち上がろうとするが、それより先に地面が意思をもったように盛り上がる───その刹那。

 

「──捉えた」

 

 太陽のように燃える炎。

 瞳でそれを捉えた時には、すでにヴェアルフはいなかった。

 

 周囲に漂う焦げ臭い匂いと風に舞って消えていく灰。

 

 何が起こったのか分からぬまま、唖然と座り込むエイルに向かって、二人の女性が近づいてきた。

 

「一般人がモンスター対策なし森に入るなんて、関心しないわね」

 

「そーそー。リンドがいなかったら、あなた今ごろモンスターの餌だったよー?」

 

 一人は桃色の髪を先端の方でかるく結んだ、剣士のような人だ。

 腰の鞘には剣が刺さっており、肩や足を頑丈そうな鎧でおおっている。

 

 手に携えた短剣の刃がうっすらと赤く光っていることから、彼女がヴェアウルフを肉体が残らないほどに燃やしたのだろう。

 

 もう一方はウェーブがかかった水色の髪の少女で、金色の刺繍がされたミント色のワンピースと同色のニット帽が森の妖精を思わせる。

 

「あ、ありがとうございます。危ないところを助けていただいて……」

 

「はいこれ。あなたのでしょう?」

 

リンドはエイルの感謝を無視して、エイルに一丁の銃を差し出した。

 

「私の銃……どうして」

 

「クエスト帰りにこれを見つけたんだよねー。あ、もしかしてーって思って追っかけてみたらビンゴだったわけ」

   

 リンドの代わりに水色髪の少女が経緯を説明する。

 

 どうやらモンスターから逃げ出す前に放り投げた銃に命を救われたようだ。

 

リンドから銃を受け取り、紐で腰にとりつけたバッグにしまうと、

 

「モンスターに銃は通用しないって分かってたでしょ」

 

 ビクリ、エイルは反射的に肩を震わせ、リンドの鋭い一言に身構えた。

 

「この辺だって、最近は狂暴化したモンスターがチラホラいるわ。戦う覚悟がないなら、武器なんて持たない方がいいから。行くわよシフォカ」

 

「はいはーい。ま、あんまり気、落とさないでね」 

 

 シフォカと呼ばれた少女は軽く手を振ったが、リンドの方はエイルの方をちらりとも見ず、森のさらに奥へと歩む。

 

 無感情な声に縮こまったエイルは、その後ろ姿をただ見ることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ