集落の人と触れ合おう!
アルト高原の集落は思ったよりも、早く見つけられた。というのも、あのゲルのような建物に、馬に良く似た生物が居たので、それを掻っ払ったのだ。気性は大人しく、素人の伊月にも乗りこなすことが出来たので、40分程掛けて集落に着く。
「やはり遊牧民族みたいだな」
集落に入ると、複数のゲルのような建物があり、真ん中辺りには一番大きな建物が聳えていた。その周りでは民族衣装のようなものを着た子供たちが元気そうに遊んでいる。
その内の一人が伊月に気付くと嬉しそうに手を降ってきたので、伊月は手招きをして子供を呼ぶ。
「こんにちは。ここの一番偉い人は何処にいるのか知ってる?」
「村長! あそこいるよ!」
話が早くて助かる。さっきの原始人より賢そうな子供だ。そうして親切な子供たちに手を引かれて一番大きな建物に入っていくと、中には二人の老人がいた。頭に羽根を付けた如何にも私が村長ですといった爺と、その横にいる祈祷師のようなババアだ。
二人はゲルの真ん中にある焚き火をぼんやりと眺めながら、俺に話しかけてくる。
「おお若いのが来たな、そなたは異邦人よな?」
「爺や、そんなのは見れば分かる話ではないですか」
そう言い二人して奇妙な笑い声を上げる。
「あの僕は、地図が欲しいのですが、ここにはありませんか?」
「地図か……ないわけではないが、ボロボロだぞ。それでも良いかな?」
「どんなものでも構いません」
村長はそれを聞くと後ろを向いて、木箱をごそごそと漁りだして、一枚の紙切れを伊月に手渡す。
(うわあ……)
それは想像していた以上に汚いもので、グチャグチャな文字で書き殴られている。まさかこの年にして伊能忠敬の偉大さを知ることになるとは、思ってもいなかった。
しかし読むことは出来る。この世界の文字も言葉も不思議と理解できたので、主要な国の位置を特定できた。
この世界は五つの大国と幾つかの小国で形成されている。
しかもそれはこの大陸だけの話で、西の果てには魔大陸なるものまで存在しているらしい。そして俺がいるアルト高原は東側にある小国『ファルシ公国』の領地だという。
現状俺が目指すべき国はファルシ公国に隣接する大国『アランドール王国』だろう。そこの王都に行けばさらに詳細な情報も揃うだろうし、何より金がなければ話にならない。
金があるところに人が集まり、人が集まるところに犯罪がある。我ながら単純な図式だと嘲笑しながら、真理でもある結論に従うことにする。
「ところで若いのや、お主はスキルは持っていないのか?」
祈祷師が突然そんなことを言い出し、少し迷ったあとで答える。
「スキル? MBAの資格なら持ってるよ。 CFAもな」
「えむ……びー……?」
まあ、そうなるよな。恐らく祈祷師ババアが聞いているのは元の世界で言うところのスキルではなく、こちらの世界で役に立つ技術の事だろう。しかし無いものは無い。強いて言えば歩けることぐらいだろうが、それは誰でも出来ることなので特別ではない。
「うーん……人心掌握とか?」
「ほう、そのようなスキルが存在するのかや、どれ見せて御覧なさい」
祈祷師は伊月の手を無理矢理掴むと、呪文のような言葉を発する。伊月は抵抗し、腕を振り払おうとするがババアの力は思いの他強く、光のようなものが浮かび上がるまでそれは続いた。
「こ、これは……なんという……」
名前: ゲドウ イツキ
種族: ヒューマン
Lv: 1(34/120)
HP: 13/13
MP: 46/46
スキル:『世界言語』Lv10『鑑定』Lv10『人心掌握』Lv1『商人』Lv1『剣術』Lv1
魔法:『精神汚染』Lv1
状態: 正常
(なんか出た……)
祈祷師が掴んだ伊月の右手。そこから沸き上がってきた光の粒子が形を成し、柱状の文字盤が出来上がる。恐らく地球には存在しない技術だ、この世界では科学の変わりに他のものが発達したらしい。
「そなた随分とスキルを持っているな、それに10Lvが二つもか! 異邦人の情報を見るのは初めてだが、これほどか……」
村長は顔に皺を寄せながら光の柱を覗き見ている。
「いや、基準がよく分からないんですが……」
「なに? 情報の基準が分からぬと申すか。これはわし等にとって命の次に重要なものだ。何せそのまま人生を左右することに直結するゆえ」
「その通り。スキルを持っているか、持っていないかでは天と地の差があるのじゃ。普通は二つ、多くて三つじゃが、お主は五つ! 並大抵の努力で及ぶものではないわ……」
祈祷師が伊月の手に触れる。
「お主は王都のある国に行け。必ずやその才能が生きる。こんな田舎に居てはならん」
「お、おう……」
言われなくても行くつもりだ。だがその前に、スキルがどんな物かを把握する必要がある。持っていても使えなければ意味がない。
「どうやったら使えますか?」
「そなた……使い方を知らぬのか。一体どんな田舎から出てきたのじゃ」
(田舎で悪かったな、野蛮人共が……)
「まあ、全ては感覚よ。意思を持って成せば形となる」
「そんな無茶な……」
と続けようとするが、考えなおして実行することにした。コイツらに出来て俺に出来ない訳がない。要は息をするように、出来て当たり前だと認識すれば良いのだ。
そして、スキル『鑑定』のイメージを持って、力強く念じる。オーラのようなものが集まってきて、形を作ろうとする。しかし何かが足りていないのか、力が弾けて飛び散った。
「っ……!」
ビックリした。こんな目に見える形で、現れるものなのか。
「お主何をしておる? 対象がなければ『鑑定』スキルは発動しないぞい」
「対象だと……?」
「試しに私の情報を覗いてみるがよいぞ」
言われて、今度はヤケクソ気味にスキルを放つと、ババアの身体から光の文字盤が現れる。よく見ると、その光の一つ一つが意味のある文字の羅列であることが分かる。
それらは直ぐに頭のなかで自動翻訳され、新しい情報として刻み込まれる。
「これは……」
名前: イル・クールル
種族: ヒューマン(ルメル族)
Lv: 13(169/580)
HP: 87/87
MP: 138/140
固有スキル:なし
スキル:『ファルシ語』Lv8『鑑定』Lv5
魔法:『水魔法』Lv3
耐性:なし
状態:正常
伊月の時とは情報量に差がある。これはスキルのレベルによって増減する情報量なのだろう。伊月はスキルの有用性を理解し、ここで切り上げることにした。
これ以上、こちらの情報を相手に流すのは得策ではない。
「ありがとうございます。村長さん、祈祷師さん。僕は少し用が出来たので、外に行ってきます」
「なに、もう行くのか? だがお主、暫くはこの集落に留まるんじゃろう?」
「ええ、ほんの暫くですが」
「では子供たちの遊び相手になってやってくれんか? 若いやつらは皆狩りに行ってて退屈そうでのぅ」
「……気が向いたら、そうします」
だれが子守りなんぞやるかボケ。
さっき見た情報では、固有スキルと耐性の欄が追加されていた。『鑑定』スキルのレベル差によって、見えないステータスが存在するわけだ。
ということは、自分自身の情報にも違いがあるかもしれない。
「……情報」
名前: ゲドウ イツキ
種族: ヒューマン(純血)
Lv: 1(34/120)
HP: 13/13
MP: 46/46
固有スキル:『創造召喚』Lv1
スキル:『世界言語』Lv10『鑑定』Lv10『人心掌握』Lv1『商人』Lv1『剣術』Lv1
魔法:『精神汚染』Lv1
耐性:『疫病耐性』Lv1
状態: 正常
「くくく……やはりな……」
明らかな情報量の差。そして“固有スキル”の存在。これらを使わずして、この先に進むのは賢いやり方ではない。
伊月は集落から離れて、住民の目が届かない場所まで行くと、しゃがんで地面に触れる。そして土を握り、そこへオーラを流していく。
祈祷師の言っていた“対象”があれば、スキルが発動する可能性は高いと踏んでのことだ。
ましてや『創造召喚』と名付けられている以上、イメージで形作ることで、十中八九成功するはず。
「創造召喚」
呟くと、地面がモコモコと隆起して土塊が出来上がる。それらが上へ上へとダイラタンシー流体のように、重力を無視して上がっていく。
名前: なし
種族: アース・ピクシー
Lv: 1(0/20)
HP: 4/4
MP: 12/12
魔法:『土魔法』Lv1
状態:従属 (ゲドウ イツキ)
その妖精のような姿の小人は、全身が流れる土で構成されており、時おり顔のようなものが認識出来る。
意思の疎通は出来るのだろうか?
「何か喋ってみろ」
「……?」
駄目だ、知能が低いようだ。見た目からして、子供のような印象を受けるため、兵隊としては期待出来ないだろう。
しかし最初の一歩としては、問題はない。俺はこの能力を使い、自らの手を汚さずに生き残ればいい。
それからというもの、伊月は色々な対象物をスキルで変換させていった。草や岩、それら全てが人の形をした妖精のような物へと変化していく。
そして、その妖精たちを自らの『鑑定』スキルで調べる。すると些細ではあるが、違いがあることに気付いた。
名前: なし
種族: リーフ・ピクシー
Lv: 1(0/20)
HP: 4/4
MP: 12/12
魔法:『自然魔法』Lv1
状態:従属 (ゲドウ イツキ)
名前: なし
種族: ロック・ピクシー
Lv: 1(0/20)
HP: 20/20
MP: 0/0
魔法:なし
状態:従属 (ゲドウ イツキ)
どうやら素材にする物によって、ステータスや種族が変動するらしい。つまりは土や草よりも上位の存在、鉄や木々を使えばより強いものを召喚できる可能性がある。
しかし、それよりも前に気になることがあった。
「何で、名前が外道なんだ……?」
理由は分からないが、自らの名前が間違って固定されている。些細な問題だが気になって仕方がない。だが直し方も分からないので、一先ずは目の前の問題に取り組むことにする。
前提として、上質な素材を使えば、戦力になるような強い兵隊を造り出せるかもしれない。その為には、まだまだこちらの世界で勉強せねばなるまい。
動物や鉱物、植物までもが、その『創造召喚』の対象となるのであれば組み合わせは無限大。となれば、手っ取り早く素材を集めなくては───
しかし、見渡す限りの草原では、あまり選択肢は多くないように見える。やはりここから出て王国に行かなければならないのだろうか。
(素材、素材、素材……ないな………)
考えながら集落をぼーと眺めていると、元気よく遊んでいる子供たちが映る。そのうちの一人、ちょうどこちらを興味ありげに見ている少年がいる。
「おいで」
───なんだ、目の前にいるじゃん。