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外道が往く!  作者: 論田リスト
アランドール侵略編!『ハラペコ・ヌエバ・ヘネラシオン』
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マーキングをしよう!

「このクソカスが」


 息絶えたゴウマンの頭を靴で踏みつける伊月。ぐりぐりと足で押し付けながら、屋敷の中を見渡していく。ゴウマンの隠し財産はかなりの量で、伊月の見立てでは闇オークションに掛けるなら50億相当に値する。これだけの財宝があれば当分は金に困らないだろう。


 部屋の隅では固まって怯えているストリップ嬢たちと、力なく倒れている娼婦の娘がいたが、伊月にとってはどうでもいい存在だった。なのでアスラたちの目の前で、メヒコ一号に命令すると、娼婦たちを殺し始めた。余計な目撃者を生かすメリットが存在しないからだ。


 叫び声の上がる屋敷の中、逃げ惑う娼婦たちは身体を引き裂かれ、あっという間にバラバラにされていく。


「ひ、ひぃッ…」


 アスラがあまりの容赦の無さに小さな悲鳴を上げると、伊月が目ざとく視線を移し、死んだ魚のような目で睨み付ける。


「お前、ビビってるのか? そんなメンタルじゃあ、この先着いてこれねえぜ?」

「い、いえ…少し驚いただけです…」


「じゃあ、そこに倒れてる女を殺せ。お前の手でな」

「う……」


 伊月が指さしたのは、ゴウマンに犯されて死に掛けていた少女だった。アスラは伊月から重度の圧力(プレッシャー)を感じ取り、冷や汗を流す。―――もしも逆らえば殺される。殺さなければ自分が殺される。


 すぐ近くに放置されているゴウマンの死体を見たアスラは、そう確信した。この男は身内に甘い男ではない。関わった人間すべてに自分の価値観を押し付ける最悪の犯罪者だ。


「やります!」


 アスラは良心の呵責に苦しむ前に、素早く懐からナイフを取り出し、倒れた少女に飛び掛かる。真っ先に狙ったのは心臓だった。苦しませずに殺すなら、最も効果的な箇所だ。アスラは心を鬼にしながら少女の胸を刃物で抉る。すると大量の返り血が飛び、アスラの顔を汚した。


「フ―! フー! これで良いんですか旦那ァ!?」

「よし! それでいい、お前はこれからそういう素早い判断力を養え」


「はい! そうします!」


 アスラの判断に納得のいった伊月は、今度は金の使い道を考え始めた。株式はないにしても、この国にも不動産は存在する筈だ。まずは拠点となる建物を数か所見繕い、数日ごとに移動出来るようにするのがいいだろう。資金力のある犯罪者は、こうして警察や敵対組織の特定を遅らせ、襲撃を逃れるのだ。


「よしアスラ、この金を使って先ずはまともな不動産屋を捜せ。多少賄賂を使っても構わん。ただし出まかせを言うような連中は拉致して俺たちの暴力性を見せつけろ」


「わ、分かりました。明日にはバスカル地区の商人たちと契約してきます……」

 

 伊月の当面の目標はアランドール王国における縄張り造りだったが、その目標を達成するには、先ずは資金力と、それを守れるだけの武力が必要だ。ここにある金があれば武器や人材はある程度揃えられるが、資金が尽きる前にシノギを造らなければならなかった。


「あー、だりぃなあ。俺の隠し口座があれば武器も兵隊も死ぬほど買えるのになぁ……」


 総資産が520兆円を超える外道家の当主であった伊月にとっては、高々80億ほどの資産では不十分だった。以前は最強の傭兵を数人雇っていたが、妹のために全員アフリカに出張させていたため、自身はプリウスに轢き殺されてしまったが、今更後悔しても仕方がないだろう。


 裸一貫、ゼロからのスタートを切らねばならない。


「それじゃ、この資産は早いとこ隠すぞ。お前の叔父の家でもいいが、出来れば分散してリスクを抑えたい。何処かいい場所はあるか?」


 伊月が尋ねると、アスラは言った。


「教会の地下なら……」


 アスラの言った教会とは、バスカル地区の中央区に聳え立つ巨大な建物だ。聖職者以外は出入りを禁じられていたが、貧民街の子供たちはその地下に通ずる地下道を見つけて、『秘密の入口』と呼び、度々冒険に出かけていた。


 しかし、地下迷宮と一部が繋がっている事が分かり、遊び場にしていた子供たちが惨殺されてからは、今では立ち入ることさえタブーとなっている場所だった。


「安全な場所なら構わない。ただし、目撃者がいた場合は―――」

「殺すんですよね?」


「拷問してから殺せ」

「拷問する必要は……?」


「特にない」


 きっぱり言い切った伊月に、アスラは目をぱちぱちとさせる。その反応を気にもせずに、伊月は急かす様に金塊を外に運ぶように命令する。ゴッゾにも同じ指令を出すと、二人は慌てて動き出す。人目の少ない夜の内に撤収するためだ。


「ほらいけ。俺の金を早く運べ」


 金銀財宝の山を慌てて運ぶ二人を尻目に、伊月はゴウマンの死体からボロボロになった衣服を剥ぎ取っていく。この男にはまだ使い道があったのだ。メヒコ一号を使って残った四肢を切断させると、最後に首を切り取り、それを現代アートのように床に並べる。


 そしてでっぷりと肥え太った腹に、ナイフを使って()()()()を始めた。


『Querido Harapeko, bienvenido al territorio del Cártel de Sinaloa..』

(親愛なるハラペコの皆様、シナロアカルテルの領土へようこそ)


 それはスペイン語で書かれた刻み文字で、そう書かれていた。アメリカ留学中にある程度はスペイン語に触れる機会があったため、現地の言い回しを真似してそれっぽく書いたものだ。


 この地に根を張る『ハラペコ新世代』というカルテルと、『シナロア・カルテル』は敵対関係にあるため、この警告を見ればハラペコの連中は存在しない筈の敵対勢力に恐れる事だろう。少しでもカルテルが混乱すれば、敵の動きも察知しやすくなる筈だ。


 最も、ちょっとした嫌がらせの意味合いが強かったのだが、この人間の死体を使ったおぞましい宣戦布告(メッセージ)が、『ハラペコ新世代』のボスである“エル・リブロ”を本気で悩ませる事になるとは、この時の伊月には想像もつかなかった。


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