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外道が往く!  作者: 論田リスト
アランドール侵略編!『ハラペコ・ヌエバ・ヘネラシオン』
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盗賊になろう!

この世界に来てから三週間近くの歳月が過ぎようとしている。


 夜の帳が降りた砂漠の真ン中で、伊月たちは荷車を止めて野営を行っていた。もしも体力があったなら、夜通しで移動をするつもりだったのだが、昼間とのあまりの気温差に足止めを喰らっていた。


 知識として知っていたが、砂漠の気候はフライパンのように太陽で熱せられると灼熱の気温になるが、一度太陽が沈めば凍えるほどの寒さになる。砂は熱を反射はするが、水分が含まれていないため熱を吸収せず、極端な温度差を生むことになる。


「あぅ、イツキの旦那ぁ……もっと薪を足しましょうよ……」

「ダメだ、夜明けまでまだ6時間はあるぞ。もし焚火が途切れたら凍死しかねんからな」


 そうは言ったものの伊月は、ありったけの布で全身を覆い熱を逃がさないように必死だった。無論全員分はないので、炙れたものは焚火に手を突っ込むほどの距離で暖をとっていた。


 アスラたちと出会ってから、成り行きでちびっ子盗賊団と行動しているが、何も無計画に連れてきたわけではない。


 万が一、アスラたちが裏切り伊月の寝首を掻こうとしても傍らには最強の戦士であるオスロが伊月を護衛している。それに加えて19レベルになった伊月の身体能力はこの盗賊たち全員をあいてにしても圧倒できるほどに上がっていた。


 もっとも裏切るつもりなら、余程の演技力がない限り伊月の目は誤魔化せなかった。少し気を抜けばぶぶ漬けを出されてしまう陰湿な京都社会では、騙される方が悪いのである。その過酷な環境で生きてきた伊月にとっては子供の考えを読み取るなど造作もないことだ。


「うぅ、すでに凍り始めてますよぉ、旦那ぁ…」

 

 アスラの身体を見るとがくがくと震えが止まらないようだった。これでは凍死まではいかなくても低体温症で体が弱るのは必然である。アスラの子分たちも身体を寄せてなんとか温度を上げようとしている。


「まったくしょうがねえな」


 伊月には火魔法は使えなかった。蘇我は使えるようだが、取得の仕方が分からなかった。ここの焚火もアスラが原始的な方法で種火を作って大きくしたものだ。しかし伊月には、代わりとなる固有スキルがあった。


 伊月は燃えている棒切れを掴むと、創造召喚で魔物を生み出す事に決めた。


「アスラ少しスペースを開けろ」

「え、なにを!?」


 次の瞬間、爆ぜるような音とプロパンガスが引火したような大爆発が起きる。


「クソ! MP流し過ぎた!」

「えええええええぇぇぇぇぇ!!!!?」


「なんですかこれは!?」

「やっべぇ、やっべぇ!」

「太陽だ! 太陽が降りてきた!」


 上空まで光り輝く爆炎。あまりの光量のためあたり一面が照らしだされる。その炎は衰えることをしらず、その中からは腕のような形をした豪炎が這い出ようとしていた。間違いない、伊月の作り出した使い魔だ。


「どうだ、明るくなっただろう?」


 咄嗟の出来事に成金しぐさをしてしまった伊月。それに対してあまりのインパクトに息を呑むアスラたち。ひょっとすると自分たちはとんでもない人間を師として選んでしまったのではないかと。盗賊たちは伊月に対して畏怖と神に対する崇拝のような感情を抱いていた。


「イ、イツキの旦那ッ! 貴方はもしや神の使いなのではっ!?」

「そんなわけねえだろ」


 至極正論をかます伊月。神のパシリになった覚えはないし、なるつもりもない。無論神など存在するわけがないのだが。


 しかし、アスラがこういったのにも理由があった。


 アランドール王国はその前王朝から古の神である『太陽神』が崇拝されている。その太陽神は異界から来た麗しき女性で、無敵とも云われる【太陽の魔法具】を身にまとった最強の戦士であった。


 これほどの爆炎を扱えるのは、アランドールの宮廷魔術師を務め、太陽神の使いといわれる【爆炎のユーセフ】くらいだろう。


「いいか、これは俺のスキル『創造召喚(サバト)』で作り出したモノだ。そこにいるオスロもな」

「そ、そんな! 生物を作り出すなんて今まで聞いたこともないですよ!」


「俺もねえよ。でも使えるんだから、別に使ってもいいだろ」


 アスラはそこで確信した。このままこの異邦人についていけば確実に成り上がることができるであろう。かつてはアランドールの貧民街で暮らし、窃盗で生計を立てていたほど貧困だった。しかし凶悪な異邦人が来てからそのシノギすらも失い、その後に無茶なダンジョン攻略に挑み仲間も一人失った。


 今では護衛の薄い弱小商人だけを狙うハイエナと化していたが、ここにきて漸く運が回ってきた。


「イツキの旦那。貴方は王になる器があります」

「王だと? 俺は統治には興味がねえ、それにお前勘違いしてるだろ」


「か、勘違いですか?」

「この世界で一番偉いのは王なんかじゃねえ。もっとも権力を持っているのは商人なんだぜ」

「しょ、商人ですか。お世辞にも商人が王よりも権力を持っているとは思えないのですが……」


 伊月は小さなため息を漏らすと、アスラの額に指を当てて言った。


「お前はグローバル経済のヤバさを知らないからそんなことが言えるんだ」

「グ、グローバル経済……ですか……」


 歴代の外道家の中で最もお金を稼いでいたのは伊月だ。インフレが加速する中、現金の大半を株式に変更したため一年で62兆円という配当金を確保する一方で、麻薬ビジネスで現金を手に入れては美術品を買い漁り、ブラックマーケットの世界ではぶっちぎりの商品数を保有する闇商人となったのだ。


これほどの資産を保有できたのは、伊月の母親である清華(せいか)が置き土産を残してくれたからだ。ソ連崩壊後に流失した約300発の核弾頭の内、25発を外道家が買い占めたのだ。残りの核弾頭はパキスタンやイラン、中国に流れていったが、個人で所有しているのは外道家だけだ。


 こうして世界最大の武力を手に入れた武器商人を後ろ盾に、アジアの裏社会では無敵の力を振るい、並み居る大企業たちを抑えつけて、犯罪者の中でも最大の資産を作り出した。


「お前に説明しても分からねえだろうが、そのうち見してやるよ」

「よくわかりませんが、とにかく儲けたやつが偉いってことですね!」


「くくく、要点はそこだぜ」


 ビジネスとは最大の武力である。あらゆる権力者たちの頬を札束で叩いてきた伊月にとってはこれほど信用できる言葉は存在しなかった。


 もしも伊月がビジネスのやり方を教えれば、アスラはすぐに順応できるだろう。だが、当面は教えるつもりはなかった。


「しかし、伊月の旦那。これほど明るくしたら、王都からでも光が見えますよ」

「確かに目立ちすぎだな。だがかといって寒いの嫌なんだろ?」


「ま、まぁ……そうなんですが……」


 そういってアスラは目を背けた。何か都合の悪いことでもあるんだろうか?


「何か問題があるならいッ!?」


 突如。伊月の足元がぐらぐらと揺れ始める。すると砂が地面に飲み込まれるように落ちていく。まるでアリ地獄のような不自然な動き方。もしやこれはーーー


「地震かッ!?」

「ち、違います! イツキの旦那、早く逃げて!」


 アスラがそう叫んだ瞬間、伊月の真下から巨大な角が現れる。それは、全長50メートルはあろうかと思えるような体躯を持つ土色の肉壁。地下から湧き上がってきたのは醜悪なる嘴を持つ巨大なミミズだった。目はなく、鼻や耳のようなものも確認することはできない。


 しかしその吸盤のような大きな口は牛や馬を一口で丸飲みに出来そうなほどに巨大だ。伊月は一目で、その怪物から感じる威圧感を感じとり、天を衝くミミズの頭を睨みつけた。間違いない、自らと同じ捕食者だ。


「モンゴリアンデスワームが出るなんて聞いてねぇぞ!」

「あれは喰らう者(ハムラァ)です! 行商人を襲うアド砂漠の怪物ですよ!」


「クソがッ! どうやって倒すんだよ!?」

喰らう者(ハムラァ)を倒せる人なんて金冠級の冒険者くらいですよ! 早く逃げましょうイツキの旦那!」


 そういわれた伊月だが、アスラの部下は腰を抜かしている上、荷車を置いていかなければ素早く逃げることは出来ない。アランドールの王都が近いとは言え、馬でもあと8時間は掛かるような距離だ。苦労して手に入れた財産を失うわけにはいかない。ならば消去法で残された選択肢は一つだ。


「オスロ、特攻だ! お前が主軸になって戦え! アスラとポンコツ共、お前らは荷車を少しでも遠くに運べ!」


 頭を回転させ適格な指示を飛ばすと、伊月は弓を取り、ミミズの巨体に矢を放つ。命中はしたものの、あまりダメージを受けた様子はない。矢じりにトリカブトの毒も塗ってあるが、あの巨体だ、毒が回るのに一体どれだけの量の毒を流し込めば効くのか見当もつかない。


 伊月は次の矢を番えながら対処法を考える。当然ながら、生き残ることは第一優先だが、次は荷車に乗せた財宝と酒樽が大事だ。あの財産を失えば一文なしになってしまう。アスラや部下たちが死のうがどうでもいいが、金は命の次に重要なのだ。


 だからこのミミズは最悪倒さなくてもいい、防衛さえできれば、伊月の勝利だ。


「我ガ主ノ糧トナレ!!」


「グワァァァ!!!!」


 オスロがスキル『狂化』を使い、肉体の能力を底上げしながら放った一撃はハムラァの肉を裂き、緑色の臓物が砂漠に飛び散る。流石にこの攻撃は効いたのか、巨大ミミズは大きくのけ反りながら地中へと潜っていく。


 一瞬だけ逃げたのかとも思ったが、伊月の詮索スキルは別の結果を報告していた。こちらへ向かってくる巨大な生態反応、それも一つではない。突然二つに増えた。その生物は伊月が作った炎の精霊へと目掛けて地中からぶつかるような勢いで飛び出した。


「二匹もいるのかよ!!」


 恐らくオスロなら、一匹を相手にすれば勝てるだろうが、二匹ともなるとこちらの戦力では厳しい。しかし同時にあることに気付く。それは炎の精霊に目掛けて飛んで行った二体のハムラァの習性だ。


 砂の中に長時間潜っているなら、視力はないはずだ。そしてあの口だけの顔では嗅覚や聴覚があるようにも思えない。ならばなぜ的確に伊月たちの居場所が分かるのか。恐らくあのミミズは“温度”で獲物を判断しているに違いなかった。


 だから温度の高い炎の精に引き寄せられて、集まってきたのだ。


「ミミズ風情がふざけたことしやがって……」


 こうなったら奥の手を使うしかない。まだ試作段階ではあるが、利便性、携帯性、戦闘能力、どれをとってもオスロより便利な()()を伊月は所有していた。 


 腰に付けたベルト型のポーチに手を突っ込むと、指で挟みこんで二つの()()()()を取り出す。それは三センチほどの正方形で、赤黒い肉がみっちりと詰まっている。そしてよくよく目を凝らしてみると、サイコロの側面に小さな目や口がついているのが見えた。


「シテ…コロシテ……」

「……イタイ…イタァイ……」


 その二つの物体に伊月はこう名付けた。


一つはキューブ・オブ・リカルド。

もう一つはキューブ・オブ・アレハンドロだ。

シテ……ブクマシテ……

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