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外道が往く!  作者: 論田リスト
アランドール侵略編!『ハラペコ・ヌエバ・ヘネラシオン』
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新たなる旅路!

 ファルシ公国を発ってから数十時間がたつ頃。


 途中で野営を行い、乾いたパンと薄味の干し肉で腹を満たし、またしても荒野を荷車とともに移動する伊月。いい加減、果物と肉、パンだけの生活に飽きてきていた。この世界ではまともな保存食が存在していないため、レパートリーがどうしても偏ってしまうのだ。


 無論飢え死ぬよりはましだが、栄養バランスが偏ればそのうち糖尿病や生活習慣病で、まともに生活が出来なくなってしまうかも知れない。


 そこで考えた末の結論は、


「お、おー! できた!」


 以前、蘇我を暗殺する際に創り出す事に成功したトリカブト。生物を作り出すスキルで地球にある植物を、そしてその毒性まで再現することが出来たのだ。ならば他の植物も作り出すことが出来るはずだ。


 その考えから作り出したのが、道端の草を材料にして作られた長い弦の植物。うねうねと成長していく弦のその先には真っ赤な実が生まれてくる。どこからどう見てもプチトマトだった。


 試しに一つ食べてみると、地球でとれたものと遜色ない味がした。これで実際に栄養が取れているのかは気になるところだが、今のところは自家製野菜だけを食べて様子を見てみることにした。


 ほかの野菜や、果物、観葉植物などを一通り試してみた伊月は、ほぼ全ての植物を再現することに成功していた。唯一失敗したのは、前の世界で伊月が嫌っていたキュウリだけだった。


 もっともキュウリなんか食べているのは貧しい埼玉県民だけなので、気にするようなことではないが。


(いい感じに暇つぶしになったな)


 荷車や馬車に乗って移動している最中はあまりにも時間を持て余すので、野菜作りは良い息抜きになった。それから荒野を抜けると岩肌が少なくなりはじめ、次第に砂地が目立ち始めた。視界には広大な砂漠が広がり始めていた。


「あっちぃ……本当にこの先に国なんてあるのかよ……」


 あまりの暑さにスカーフを破って顔を覆う伊月。直射日光を浴びないように目元もギリギリまで隠す。


「まるで千夜一夜物語(アラビアンナイト)だな……」


 気温の高さによって、数キロ先が蜃気楼のように歪んでいく。食料で困ることはないが、水がなくなるのは少し困る。できれば今日中にアランドールにたどり着きたいと考えていた伊月。しかし、暑さによって馬が明らかにペースダウンし始めていた。


 仕方なく、近くにあった巨大な岩肌に身を寄せると、その日陰で休憩することにした。馬には水分の多いスイカを与え、伊月は地図を見直すことにした。


(この砂漠を超えた先に河がある、その向こう岸にアランドール王国があるのか)

 

 正確な距離は分からないが、半日ほどでつくだろうと予測していた。遥か遠くの視界の端に大きな櫓が見えるからだ。まだ目視はできないが、その手前に運河があるのだろう。


 太陽が東から西に上り始めた頃、伊月は準備を終えて再び移動を開始する。その時、北東の方向から男の叫び声が聞こえてくる。そちらを見るとまるで豆のように小さくしか見えないが、伊月と同じような荷車の列がなにかの集団に襲われているらしい。


 おそらく盗賊か、蛮族だろう。


 伊月は警戒しながら、その襲撃を観察した。しかし盗賊たちは奇襲を仕掛けた割にはずいぶんと手こずっているようだ。恐らく商人の荷車を守っているのは雇われた傭兵というところだろうか。だがひとりで複数人の盗賊を相手にしているので、やられるのは時間の問題だろう。


 この暑さの中で激しい運動をすればその分消耗も激しい。盗賊たちもそれを見越して深追いはせず、軽い斬撃を繰り返している。腕はないが悪知恵は働く奴らなのだろう。自分たちの実力をよく弁えているらしい。


 伊月は歩く速度を変えずに、その集団に接近していく。段々と近づいていくと傭兵は若い男であることと、盗賊たちはさらに若く、装備も軽装であることが分かった。


 戦っている最中でも伊月の存在に気付いたのか、横目で見てくるが伊月は気にせず向かっていく。


「そこの旅の者! 報酬は山分けしてやるから、助太刀を頼む!」


 傭兵から声が掛かると、伊月は一瞬で距離をつめて傭兵に接近した。


「分かった」

「な、なにをッッ!?」


「オラァッ!」


 傭兵が身に着けている革製のレザーアーマーの上から強力な腹パンをお見舞いする。突然の攻撃に傭兵が蹲ると、そこへ盗賊たちが一斉に群がり蹴りたくった。


「や、やめ! なんでッ!? 助けッ!」


「オラッ! 死ね! 死ね!」

「豚やろう! くたばりやがれ!」

「●●●でもしゃぶってろ!」


 盗賊たちが傭兵をボコボコにすると、その中の一人が伊月に向かって言う。


「助太刀感謝します!」


 盗賊の割には純粋な目をしている。悪を知らない少年の目だ。


「いいってことよ」


 珍しく人助けをした伊月。やはり良いことをすると気持ちがいい。それはそうとこの荷車の中身はなんだろう。もし金目の物があれば全て頂くことにするか。


 後ろで気絶した傭兵が未だにボコボコにされているのを尻目に、伊月は荷車を漁り出す。中に入っていたのは、一升サイズの樽が6つ、中には謎の液体で満たされている。蓋をずらしてみると、充満したアルコールの匂いがムッと立ち込める。


「おー、これ全部酒か」


 どうやら酒を運ぶ商人の荷車だったらしい。この世界に禁酒法があるのかは知らないが、売ればそれなりの値段にはなるだろう。アルコールには依存性があり、麻薬ビジネスと似た性質を持っているからだ。


 であれば自分の荷車と連結して、アランドール王国に入国することにしよう。もしも入国する際に止められたらどうにかするしかない。


 そう試案していた伊月の元へ、再び少年が近づいてくる。


「あ、あの異邦人のお兄さん!」

「ん? 俺が男だってよく分かったな?」


 伊月がそう尋ねると、


「だってあんなに強いしかっこいいし、きっと男の人だって思ったんです!」

「強さで性別が変わるのかよ」


 伊月がめんどくさそうに言うと、少年はキラキラとした目で言った。


「僕の名前はアスラ! お兄さんの弟子にしてください!」


「は?」



◇  ◇  ◇



「お兄さんの弟子にしてください!」

「断る」


「え!? なんでですかお兄さん!」


 アスラは断られたことが余程以外だったのか、驚愕の表情を浮かべる。伊月は無表情だが、困惑の色を隠していた。


(こいつ、何者だ……?)


 アスラと名乗った少年は、褐色の肌で髪は銀髪に近い。全身を白い布で、急所だけをスケールアーマーで覆い肌の露出は抑えているようだ。腕は女のように細いが獲物は斬馬刀のような無骨なものだ。自分の体形にあっていない武器を使っているということは、戦いに慣れていないということ。


 つまり、つい最近まで武器をまともに振ったことがないということの裏づけだ。


「お兄さんはとても強いんでしょう? 僕の師匠になってよ!」

「いやだね」


 伊月はアスラを一瞥し、大した利用価値がないと判断し、荷車の縄を解いた。


「ぼ、僕が手伝うよ! お兄さんは座ってて!」


 アスラは慌てて荷車の前にくると、縄を解いて馬を誘導する。どうやら余程伊月の弟子になりたいらしい。伊月がその手を払おうとすると、その瞬間フラッシュバックが起きる。




『お兄ちゃん。なんで私たちは長生きできないの?』

『先祖が大昔に酷い事をされたからだ』


『なにか悪いことしたの?』

『いいやヨナ、俺たちは特別なんだよ』


『とくべつ?』

『ああ、俺たちは人間じゃないからな』


『ひとでなし?』

『ああ、俺たちは“餓鬼”なんだとさ』




「……アスラとか言ったな、アランドールに案内しろ」


 伊月は言い様のない不快感に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるとアスラの手を取って、引っ張っていく。


「え? え、お兄さん。僕を弟子に…?」

「いいか、クソガキ。この外道伊月は弟子なんか取らねえ。ついて来たけりゃ勝手に来い」

「は、はい! イツキの旦那!」


 伊月は腹いせに弓を取ると、遠くに走って逃げていく商人の背中に矢を放つ。矢は背中に刺さり、商人は這いつくばりながら逃げようと藻掻く。


「お見事です! イツキの旦那! トドメは僕が!」

「いや、必要ない。矢じりにトリカブトの毒を塗ってある。10分以内にくたばるぜ」


「な、なんて容赦がない……さすが僕の見込んだ人だ……」

「くくく、毒物に抵抗なしかよ。まぁ盗賊だもんな」


 普通の人間は暗殺や毒物に嫌悪感を示すものだが、アスラにはそれが感じられない。それどころか、嬉々とした表情を浮かべているように見える。


「お前たち、イツキの旦那とアランドールに向かうぞ! 荷物をまとめろ!」


 アスラが声を上げると、盗賊たちはあっという間に荷車を連結させ、馬たちをまとめ上げてしまう。伊月は暗くなりつつある空を見上げると、小さなため息を吐き足を踏み出した。

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