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外道が往く!  作者: 論田リスト
ファルシ攻略編!
19/29

プラタ・オ・プロモ!

アランドール王国の東エリア。


 現在覇権国家としての地位を争って国境紛争を繰り返す五つの大国。その一つであるアランドール王国の東エリアでは貧しい住民たちが密集し、安い土地と物価に引き寄せられならず者や訳アリの怪しい人間たちが暮らしてる。


 いわゆるスラム街と呼ばれるエリアなのだが、それなりの秩序があり、それを乱すよそ者は排除される仕組みが出来上がっていた。しかし、それが機能しなくなってから1年の歳月が立とうとしていた。


 掃きだめと揶揄されるようなこの町では、犯罪者など珍しくもない。手荒な人間や詐欺師のような人間ですらこの町は受け入れる。


しかし、その集団が現れてから、この町は変わった。


「叔父兄、今月の上りです」


 差し伸べられたのは、麻袋二つ分に収められた金と銀だ。この額はスラムの人間が生涯で稼ぐ40倍以上の額に値する。


「先月より少ないぞ」


 そういって繭を顰めるラテン系の男は、腕時計を磨きながらスキンヘッドの男を一瞥する。


「集金の時にタタキが入りました」


 腕時計を磨く男の手が止まる。


「集金係は誰だ?」

「マヌエルです」


 その時二人の男に荒々しく連れられて、マヌエルという男が泣きながら男のまえに座らされた。


「お願いです……許してくださいボス……」

「マヌエル、お前は組織に泥を塗った。責任は取らねばな?」


 二人の男がマヌエルを押さえつけると、彼は泣き叫ぶ。それから彼は生きたまま鉈で手足を切断され、最後に首を切られた。生々しい悲鳴と鮮血の中で、ボスと呼ばれた男は冷たい視線でそれを見た。


「また“緑の悪魔”か」


 男が呟いた緑の悪魔とは、組織の集金係りを幾度となく襲撃する悪質な強盗のことである。今月だけで5回も襲撃された。ようやく貧民街を掌握しつつある組織にとっては大打撃である。


 このままでは組織が舐められてしまい、貧民街での地位が危ない。


 そしてボスが言った。


「マルコ、ジョゼ。緑の悪魔を始末しろ。もし必要なら『ガブリエラ』も連れていけ」

「「シー、セニョール」」


 彼等は筋金入りの犯罪者集団。人々は彼等を恐れ、恐怖による支配を受け入れる。彼等こそがメキシコで最大勢力を誇る麻薬カルテル、『ハラペコ新世代』である。

 


◇  ◇  ◇



「金か、鉛か」


 ファルシ城の玉座に座る伊月。その目前で血まみれになりながら蹲るファルシ王。傍らにはオスロと呼ばれていた宰相の遺体が転がっていた。


「確かスペイン語には、そういう(ことわざ)があったはずなんだけどなぁ」


 城の外からは沢山の悲鳴と火の手が挙がっている。灰になった使い魔たちを使い、オスロ一体に集約したことで以前よりも強化されたオスロが復活し、ファルシ公国を襲っているのだ。伊月は現在この国を襲い、兵士を皆殺しにした後、城内で略奪を行っている最中だ。


「まぁ、要は大人しく従って生き延びるか、逆らって死ぬかって意味なんだが、お前はどっちなんだ?」


 ファルシ王は血反吐を吐きながら伊月を睨み付ける。すでに妻を殺され、娘も毒牙に掛けられた。家族を失い守るべき国もこの有様だ、もう直この国は滅びるだろう。再建するにはあまりにも多くのものを失いすぎた。


「ふぅ…ふぅ…! 悪魔が……」

「ん? なんだって?」


「貴様が“アルト高原の悪魔(ドゲド)”だな……。ふふっ…喰らって見せよ。預言通りなら滅びるのも運命。しかし、ドゲド。それは貴様も同じじゃぞ……必ずや冥界の盟主グリドジャ―ル公が貴様を討つだろう!」


「ド外道だぁ? くくく、俺の名前は“外道(そとみち)”だぜ、おっさん」


 伊月はファルシ王の首を細剣で突き刺すと、絶命するまでかき回した。これで大陸の東にある小国『ファルシ公国』は事実上崩壊した。国を運営する人材も、象徴も全て破壊され尽くした。


この国にはもう何も残らない。

まるで群馬県のように何もない僻地になった。


 そして伊月は新たに使い魔たちを召喚すると、城の中にあった金品を集めて戦利品を鑑賞する。小国と言えどそれなりの歴史があるので、宝石や金貨などの財宝からアンティークの武具などが出てきた。


 正確な値段は分からないが地球の価格では、数十億円の価値は有るだろう。趣味の悪いユダヤ人が買いそうなものがたくさんある。


 中でもひと際目立つのが紫陽花色の水晶玉のような宝石だ。アメジストに近い宝石だが、芯から魔力が発せられており、地球には同じものはないだろう。伊月は好奇心に駆られて鑑定を行った。


妖精王の雫(フェアリー・モロウ)

固有スキル:『妖精王の加護』Lv1

妖精王が流したと云われる涙が結晶化した宝石。800年前地下ダンジョンで発掘され、その後ファルシ公国の国宝になった。持っているとMP最大量が少し増える。


「魔法のアイテムってやつか?」


 伊月は自分のステータスを開いた。


名前: ゲドウ イツキ

種族: ヒューマン(純血)


Lv: 19 (18400/67000)

HP: 820/820

MP: 5722/6500


固有スキル:『創造召喚』Lv2


スキル:『世界言語』Lv10『鑑定』Lv10『人心掌握』Lv1『商人』Lv1『剣術』Lv3『詮索』Lv2『異邦人殺し』Lv2


魔法:『精神汚染』Lv1

耐性:『疫病耐性』Lv2『氷耐性』Lv1


「おー、大分MPが増えてるな。これならMP切れの心配もねぇ」


 ついでに氷耐性も取得していた。誰の性かは知らないが。


 だが今思えば、スキルの取得条件や、使い道が結構曖昧な気がする。これまでは固有スキル『創造召喚(サバト)』のごり押しで何とかなっていたが、これからどんな敵と出くわすか、分かったものではない。ここら辺で一つ、スキルの把握でもしておこうか。


 まず剣術は分かる、明らかに素振りが早くなったしまるで何年も前から練習していたみたいに剣が振れる。人心掌握はなんとなくで使っていたが、相手を上手く丸め込むような話術が若干うまくなった気がする。


 分かっていないスキルは、『商人』と『異邦人殺し』のスキルだ。この二つは今のところどういう役割を持っているのかが判明していない。


 商人は目利きが出来るわけではなく、商売上なにかが有利になるスキルだろうか? 考えられる候補としては、


1.値切りが出来やすくなる

2.ただの資格のようなモノ

3.知識量の目安


 経営学修士を取得している伊月の知識量が、商人として不足しているとは思えない。なので3はないだろう。2は前の世界と同じで肩書きだけの存在価値でしかないので、スキルとしては成立してないだろう。


 では1はどうだろう。

少しバカらしいが『人心掌握』で多少相手の精神に干渉している感覚はあるので、あながち的外れともいえないだろう。商品を安く仕入れられるのなら、ビジネスとしては利益を出しやすいので役には立つ。


 最も値切りなど、性根の腐った大阪人の卑しい文化だが、スキルとして使えるならばクーポン代わりに使えるだろう。もしも機会があったら試してみようか。


 そして残るは『異邦人殺し』だ。


 いつのまにかレベルも上がっているが、異邦人を殺した時に上がっていたのでそういうことだろう。名前からみて戦闘特化型のスキルには違いないだろうが、効果は曖昧だ。ステータスの上昇なども感じられていないので、詳細は不明だ。今度異邦人に出会ったら試してみよう。


「さて、次の国へ向かうかな」


 粗方の金目のものは強奪したので、財宝を荷車に乗せて旅路を再開する伊月。暴れまわるオスロを後目にゆっくりと馬が歩き出す。


「アランドール王国か、どんな国なんだろうなぁ」


 途中市場を通った時に白い果実を盗み、齧りつく。汁気の多いイチジクのような味で、美味だった。伊月は黒い煙の上がる空を見上げる。雲一つない快晴だった。


「ああー思い出した。“金か、鉛か(プラタ・オ・プロモ)”だったな、くくく……」





【プラタ・オ・プロモ】


南米や中米に蔓延る麻薬カルテルが、常習的に使う方法。警察や市議を含め、麻薬とは無関係な一般人にまで影響をもたらす脅迫行為。

カルテルから金を受け取り犯罪行為を黙認、或いは助長し無ければ、代わりに鉛(銃弾のこと)をプレゼントされてしまうので大半の人間は従わざるをえない。



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