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外道が往く!  作者: 論田リスト
ファルシ攻略編!
16/29

幼なじみと暮らそう!

 今から八年前、伊月が中学生だった頃、外道家の影響力は京都のみならず日本の国会議員の三人に一人が賄賂を受け取るほどの規模だった。


 毎年日本のGDPの12%相当を稼ぎ出し、裏資金を合わせると一族の総資産は340兆円にも上る。この一族は1000年以上も前に“鬼”と交わり異形の能力を受け継いだ。


 ある者は南アフリカに渡り武器商人として虐殺に加担し、ある者はアメリカ政府の債券発行に対する利権に食い込むほどの不動産王となり、又ある者は満州でアヘンをばら撒きアジア史上最悪の麻薬王となった。


 この一族は支配者となるべく産まれ、そして忌み嫌われた。1000年前に鬼と交わったことで時の権力者により鬼畜の如き所業で虐げられ、挙げ句の果てには呪いを掛けられた。


 どれだけの才能を持ち、どれだけの財を持っていてもその呪いからは誰も逃れられない。外道家の人間は生まれつき肉体が衰弱しており、必ず30歳までに死んでしまうのだ。


 これを一族は『帝の呪い』と呼び、末代まで続いていく運命であると誰もが考えていた。しかし、その呪いに反抗するのも一族の宿命であり、呪いを解いて永遠に世界を支配することが一族の悲願なのだ。


「伊月くぅん、待ってよ!」

「なんだよ、アバズレクソ女」


 中学校のクラスメイトである蘇我蛭子は、伊月にとってはまるで害虫のように鬱陶しい相手だった。この女は蘇我家という朝廷に反旗を翻した一族で、鬼と交わる前に繋がりを持った遠い親戚に当たるのだ。


 戦後北海道に移住して道北の支配者となった蘇我家は、ロシアや中東のエネルギー資源に投資して莫大な財産を稼ぎ出しており、毎年のように石油王が訪問しに来るほどだ。


伊月と同じお金持ち。

伊月と同じ権力者。

伊月と同じ血が流れている。


 しかしこの女は伊月と違い、呪いの影響を受けていない。友達でもなければ仲間でもない、勿論一族だとも思っていない。


「ガキが……」

「もぅ、伊月くぅん。僕たちクラスメイトじゃないか。一緒に帰ろうよ、それにほら新しい車買ったし──」


「俺が車椅子に乗ってるのが見えねえのか? それに帰りは迎えが来るの知ってるだろ」


「もぅ! たとえ体が障害者でも心まで障害者になるなよ!」

「うるせえ!」

「行こう!」


どんっ!


 伊月はこの女が嫌いだった。


 その後卒業を控えた伊月は、日本で行っていた覚せい剤ビジネスに一端見切りを付け、経営学を学ぶためにアメリカの大学に飛び級で進むことになった。


 漸くあの女から解放されると思い、伊月が校庭の桜を眺めながら安心していると、伊月の隣に蘇我蛭子が来た。


「楽しみだね、アメリカ」

「は?」


「僕も頑張って勉強したらアメリカの大学に受かったんだ!」

「……何処の大学だ?」


「ハーバード大学!」

「クソがッ!!」


 それから伊月の行動は早かった。担任の教師をけしかけて蘇我蛭子を襲わせると、反撃して両眼をくり抜いたところを隠しカメラで撮影しネットでばら撒いた。


 本来なら権力で揉み消せるのだが、アメリカの大学にも映像を送り付けると当然のように入学は取り消され、ネットに疎い親からも泣く泣く勘当され、精神病院にぶち込まれた。


 これが外道伊月と、蘇我蛭子の過去だ。



◇  ◇  ◇



「伊月くぅん、君は全然変わってないなぁ。何処に居ても目立っちゃうんだねぇ?」

「何でお前がこの世界にいるんだ……!?」


 目の前にいる蘇我蛭子と思われる長身の男は、ケタケタと笑いながら伊月を見下げている。


「何でって、そりゃあニュースで君が死んだって話を聞いたからさ、君と同じ場所に行きたいって思ってね。剃刀で首を切ってたら、いつの間にかこの世界に来てたんだぁ!」

「くくく……イカレちまってんのか、お前は?」


 そうは言うものの、冷や汗を隠しきれない伊月。万全の状態ならまだしも瀕死の状態で、しかも身動きを封じられたこの状況では最悪の相手に違いない。


「もぅ、勘違いしないで欲しいな。僕は君のことを恨んではいないよ。親から勘当され、病院に閉じ込められたけど、僕は二年で自由になったんだ」


「二年だと……?」


「うん! 病院関係者や警察官を買収したり、洗脳したりするのに二年掛かったからね。その後は殆ど自由だったよ、流石にアメリカまでは行けなかったけど……まあ、僕は気にしてないよ」


「おい……その後は何処に居た? 六年間何をしていた……?」


「えへへ、僕もお金が必要だったからね。でも表社会じゃあ誰も雇ってくれなかったから、君の次くらいにお金持ちの人に雇って貰ってたんだ、喪神っていうお姉さんにね!」


「喪神かよッ!!」


 日本という国で、本来は頂点に立っている筈の外道家に対抗する喪神家という存在。僅か数年間でユニコーン企業を作り出し、その裏では覚せい剤の流通ルートを確立して湯水のように荒稼ぎしていた。


 更には喪神家は外道家のビジネスと業種が被り、縄張りまで被ってしまったので血で血を洗う抗争になっていったのだ。その家と蘇我が繋がりを持っていれば、外道家の目を掻い潜ることも不可能ではないだろう。


だから今まで気付けなかったのだ。


「いい人だよねえ、あのお姉さん」

「目が腐ってんじゃねえのか、ピンボケ」 


「そんなことないさ、僕の目は正常そのものだよ。君のことだってちゃんと見付けられたからね」

「お、おい!」


 伊月と大狼を片手で引きずり出す蘇我蛭子。この様子では何処かに連れて行く気だろう。だがそうはさせない。話で十分に時間を稼いだため、別のグループの使い魔たちを此方へやって来させることに成功したのだ。


「アッブゥゥゥ!!!」


 化け物集団を率いるフルダを中心にして、魔物たちが蘇我蛭子へと襲い掛かる。


しかし、


「参考までに伝えておこう、僕のLvは現在27レベル。固有スキルは『天邪鬼』。全ての表と裏を入れ替える能力だ」


 蘇我がそう言い切る瞬間までに、伊月の作り上げた怪物集団たちは氷像へと変化していた。


「お、お前……その顔……」

「説明するのを忘れていたよ、僕は自由に性別を入れ替えることが出来るんだ」


 蘇我蛭子は長身の男から、女特有の体付きに変身していた。瞬きすらも間に合わない程のあまりにも早すぎる変化だった。


「伊月くぅん、君はこの世界じゃあ弱すぎる。僕が守ってあげるよ」


 蘇我蛭子。その女は伊月ですらも認める邪悪さを持っていた。さっきの話が本当であれば、喪神千両の元で何の仕事をしていたのか。見当は付いている。


 裏社会の中でも最も残虐だと言われていた掃除屋。そいつは敵対組織の殺し屋を144等分に切り分けてクリスマスツリーに飾り付けた異常者だった。


「……俺はどうなるんだ?」

「僕たちは一緒に暮らすんだよ、これから一生ね!」


(クソが……)

 

 視界が霞み、意識が遠のいていく。そのうち伊月は完全に意識を手放した。

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