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外道が往く!  作者: 論田リスト
ファルシ攻略編!
15/29

親子を轢いただけなのに!

「お前たちは、私が人を殺したと言いたいのか?」


 とある日の交差点、飛び散った血飛沫と吹き飛んだ遺体の残骸に見向きもせず、一人の老人が杖を付きながら喋る。


「もう一度言ってみなさい、この瑞宝章を見て同じ事が言えるならね」

「い、いえ、飯塚さま……これはただの事故であって……」


 現場検証に来た警察官たちは狼狽えながら答えるが、飯塚幸三は気にくわないようだ。


「だったら同じ事を何度も言わせるな。この親子が私の車に飛び込んで来たのだ。過失は10対0でコイツらが悪い」

「い、いくらなんでもそれは……」


「しつこいぞ貴様ら、私は足が悪いんだぞ! もう帰るッ!」


 それから僅か一ヶ月後、ドライブ中にガードレールを突き破り、崖の下に真っ逆さまに落ちていった飯塚は、未知の現象に遭遇していた。


「うわああ!!」


 時間が極限まで引き延ばされ、一瞬の間がまるで一時間にも感じられる。その隙間の時間に瑞々しい肌をした中性的な少年が突如目の前に現れた。


「ちょっと歳が行き過ぎだけど合格だ。きみは十分に悪人の才能がある。僕の世界においで」


「うわああ!! 誰だ貴様あああ!」


「五月蠅いよ、お前ら人間如きに拒否権なんか無いんだからね」


瞬き程度の一瞬の出来事。

全てが溶けて新しい世界に飛び立った。



◇  ◇   ◇




 煉瓦の壁に叩きつけられ、鳴り響く轟音と粉塵が舞う。全身の骨が軋むような音を上げてギシギシと呻いている。


(な、なにがッ!? なにが起こったんだ……!?)


 ぶつけられた衝撃で脳振盪を起こしパニック状態に陥った伊月。辛うじて動かせる指を駆使して腕の支えにして起き上がろうと試みる。


「ごふぇっ……!?」


 前屈みに起き上がった瞬間口から大量の血液があふれ出した。鉄臭い血の味がする。この感覚から察するに又もや折れた骨が臓器に突き刺さっているのだろう。


 前とは比べものにならないほど肉体が強化されたとは言え、これほどのダメージを負って無事でいられる筈がない。伊月は目眩のする頭を無理矢理冷静に引き戻して考え始めた。


(血液を失い過ぎたな……症状から推測するに、このままじゃ失血死するか、激痛でショック死するかどうか……)


 例え致命傷で無かったとしても、目の前の敵が追撃してこない保証はないだろう。勿論そんなご都合主義的展開には期待していない。


戦略的撤退。


 その言葉が脳裏を過った時、伊月は即座にそれを否定する意志があった。これは撤退ではない、ここで逃げるのは敗北だ。


 外道伊月は自他ともに認める悪人であり、他人に勝つためには平気で犯罪を犯し、騙し討ちもお手の物だ。


 しかしそれは他人に勝ちたいという強烈なエゴイズムの成れの果てであり、裏を返せば負けてはならないという強大な執念の塊でもある。


 負けた人間に価値はない、その価値観が支配する環境で生きてきた伊月にとっては敗北を認めることはあってはならないことだ。


 ───チクショウ、許せねえ。


 自らが吐いた血反吐を手に塗りたくり地面に叩き付ける。


創造召喚サバトッ!!」


 ありったけの悪意が込められた創造召喚。自身の血液と莫大な魔力を生け贄に捧げて召喚したのは、邪悪の化身だ。漆黒の艶毛を持つ巨大な狼である。


「周りの人間全員殺せ! 一人も逃がすなッ! 一人もだっ!!」


 その叫び声を聞いた瞬間、狼は走り出す。ファルシの町を駆け回り、呆然と眺めていたファルシ兵たちの生き残りを食い殺していく。


 僅か数秒間の出来事。その異常に発達した脚力は人間が反応出来る速度を超えており、虐殺劇を展開する。手足を食い千切り、喉を蹴り上げると紙切れのようにバラバラになっていく。


 それが終わると食い散らかした残骸を口に加えて、主人である伊月の元に狼は帰ってきた。そんな命令はしていない筈だが、異邦人である自分の血を使って召喚したため通常の個体とは異なっているのだろうか。


「何をしている、あのジジイも殺せ……」

「クゥーン……」


 予想以上に血液を失っているため、身体に力が入らない。ただ目の前に置かれている誰かの手は、自分に向けられた供物であることは分かった。


 それを掴み取ると、伊月は迷いもせずに齧り付いた。生臭い人間の生肉、食感は最悪だが、味はそれほど悪くない。


 勿論これで傷が治る訳ではないが、捕食をしたのは他人の持つ魔力を少しでも奪うためだ。補充するのは少しでいい、その少しの魔力で十分だ。


 伊月は自らの脇腹に指を差し込むと、内蔵を抉りながら肺に突き刺さったあばら骨を掴む。普通の人間なら痛みで気絶するほどの苦痛の中で伊月はスキルを発動する。


創造召喚サバト……!」


 自分の肉体とは分離したそれは、最早肉体の一部とは言えない。理論上は素材として、スキルの生け贄に出来る筈だ。


 生命を作り出すこのスキルは考え方によっては身体の一部分だけを作り出すことも可能であると伊月は考えたのだ。元の身体と同じように細部までイメージしながら肉体を構築する。


 身体の弱かった伊月は、前の世界で何度も病院で撮った自分のレントゲン写真を見ているため、イメージは完璧だ。


しかし、


「か”ぁっ!!!?」


 声にもならないかすり声を上げると、身体中に虫がはいずり回るような感覚と激痛が襲い掛かる。当然ながら、麻酔もなく手術をして何の痛みもないわけが無い。

 

 涎を垂らしながらその激痛に耐えて待っていると、身体の穴が徐々に埋まっていく。骨は元の位置に戻っていき、新しい生命として伊月の身体に定着したのだ。


 それを見ていた飯塚は、如何に自分が優位な立場とはいえ狼狽えずにはいられない。


「ひ、人殺し! この悪魔めっ!」


 どの口で言ってるのかは分からないが、伊月がイラつくのには十分な理由だった。折れた腕を器用に使い、狼の背中に乗ると、その毛皮を掴み取り伊月は自分の身体を固定する。


 狼はまるで重力を無視するように素早く走り出し、飯塚とそのゴーレムに向かって飛びかかった。狼は後ろ脚を利用して強力な蹴りを入れる。


 ゴーレムはその巨体からは想像も付かないほどバランス感覚が無いらしく一撃で後ろに仰け反った。考えてもみればプリ⚫スが素材になっているので中身がスカスカなのは仕方が無いだろう。


「ああっ、やめろ、落ちるッ!?」


 飯塚は地面に叩き付けられる。チャンスとばかりにトドメを刺そうと近寄るが、ゴーレムは再び飯塚を守るようにしてうずくまる。これではまるで攻撃が通らない。


(なんだこいつ……反撃ではなく防御を選ぶのか?)


 どういうシステムで動いてるのか分からないが、伊月の創造召喚と近いスキルである可能性は高い。しかし命令系統は創造召喚のように複雑なものでは無いだろう。


 その証拠にこのゴーレムは単純な動きしか出来ていない。


 単純な命令に単純な動き、にも関わらず伊月に攻撃することが出来たのは、後ろからの奇襲だったからに過ぎない。つまり、このゴーレムを飯塚はまだ使いこなせていないのだ。


「くくく……やはり悪運は強いみたいだな、俺は……」


 伊月は狼の顎を撫でると、耳元で命令する。


「あの建物の柱を壊せ」


 狼は命令通りにゴーレムの目の前にある建物に走って行き、柱を後ろ脚で破壊する。ガタンという衝撃音の後、支えを失った建物は倒壊していく。


 木と煉瓦で作られた建築物はそのままゴーレムの上に無慈悲に降り注ぐ。


「ひぃああああ!!!?」 

 

 如何にゴーレムに守られているとはいえ、巨大な建物の倒壊に巻き込まれば冷静ではいられない。生き埋めになるかもしれないという人間の恐怖は誤った判断を下すには十分な理由だった。


「た、助けっ!?」

「やれ!」


 グチャリ。狼は這い出てきた飯塚の頭に齧り付いた。頭蓋骨にヒビを入れながら肉を噛み千切ると、その高齢者はただの肉塊となった。


「や、やった……ぶっ殺してやったぜ! だが、クソ……身体中が痛え!」


 伊月は勝利の余韻に浸りながらも、自分の状態を確認すべくスキル『情報』を使う。



名前: ゲドウ イツキ

種族: ヒューマン(純血)


Lv: 16 (4500/12000)

HP: 34/540

MP: 26/3300


固有スキル:『創造召喚』Lv2


スキル:『世界言語』Lv10『鑑定』Lv10『人心掌握』Lv1『商人』Lv1『剣術』Lv2『詮索』Lv2『異邦人殺し』Lv2


魔法:『精神汚染』Lv1

耐性:『疫病耐性』Lv2


状態:満身創痍


「死にかけじゃねえか!」


 HPが通常時の十分の一以下しかない。しかも今までまともなダメージも喰らったことがないため、どうすれば回復していくのかは分からない。


 辺りを見渡すと、車に轢かれてぐちゃぐちゃに飛び散った馬肉が転がっている。オスロの残骸だ。やつがクッションになったとはいえ、即死するとは情けない馬だ。


 狼の背中の毛皮を引っ張ると、伊月はそこに向かうよう命令する。自分の身体では殆どまともに動けないからだ。しかし、先ほどから身体が異常に冷たくなっている。


 血液を大量に失ったため、体温が低下しているのだろう。そう思ったのも束の間、徐々に指先が固まっていく。これは───


「なに……? 指が凍っていく!? おい、クソ狼! 敵の攻撃だ!」


 もう遅かった。大狼は完全に凍り付き伊月自身も胴体を除き完全に身動きを封じられていた。


「ぐがが……!? 誰だ、お前は……!?」

「伊月くぅん」


 鮮やかな緑色の髪。白色のつなぎ合わせの服。あれは精神病院の患者が着る服だ。その人間の両腕には包帯がグルグルと巻いてある、まるでいくつもの傷跡を隠すように。

 

 この人間に似た女を伊月は知っている。しかし、ありえない。よりにもよってなぜこの女がこっちの世界に来てしまったのか。八年前、二度と出てこれないように精神病院にぶち込んでやったのに。


蘇我そが蛭子ひるこ……!」



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