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イタリア4日目ートリエステからベネチアー


   トリエステの朝2


 人との出会いには引力がある。

 スタンド使いはスタンド使いに引かれ合う。

 ジョジョを引き合いに出すまでもなく、そういうことは確かにある。と言われている。

 僕はもちろん信じていなかったし、実際にあるとしても、それが自分の身に起こるなんて毛ほども思っていない。 

 そう思っていた。

 出会いと再会。

 今その記録を記そう。


 起きたのは夜中の2時半だ。酒を飲むと眠りが浅くて困る。

 Nも起きており、Nとイタリア国歌を聴きながら話していた。

 イタリアの国家はとてもカッコよくていい曲である。

 ほどなくしてNは眠り、僕はメモを書き始めた。合計で4時間くらいかけてメモは9000文字ほど書いた。一日中歩きまわったトリエステの街を描写するのに、それでも十分とは思えなかった。

 今日は午前中までトリエステにいて、午後からは電車でヴェネチアへ行くことになっている。

 ね、眠い……。


   目次

   

 ホテルを出たのは9時半くらいだ。ずいぶん遅いのは、僕がメモを書き続けていたせいである。

 天気は曇り空だったけど、昨日のような風もなく、随分と過ごしやすい。っていうか、昨日は明らかに出歩く天気ではない。

 今日の目的地を下記に示す。半日だけど、BARには4,5回行っていると思う。


 サヴァ書店

 埠頭

 カフェ・デッリスペッキ


   サヴァ書店

   

 とりあえず僕らはウニタディタリア広場を目指して歩き出した。スーツケース等の大きい荷物はホテルに預けてある。少しの時間だけど、身軽な旅が楽しめるだろう。雨の降ってないウニタディタリア広場は初めてだったし、何度見ても美しい広場だ。

 僕らは広場近くのBARでカフェラテを頼み、外の席で飲んだ。よく考えたら外の席で飲むのも初めてだ。煙草を吸いながら飲むカフェはまた格別の良さがある。

 いつものようにBARで目的地を確認して、いざ出発。

 サヴァ書店へ。

 文学の街であるトリエステの中でも、特に古い本屋だ。新刊ではなく中古本を扱っている。

 ウニタディタリア広場から少し歩いたところにあった。店の外観を、とりあえずパシャリ。

 中に入ると陽気な店主が迎えてくれた。初代店主のアシスタントの子孫とのことだ。

 須賀敦子の「トリエステの坂道」にも名前の記述がある人物である。僕らが日本人であるとわかると、日本語の本を持ってきて見せてくれた。嬉しそうに自分の名前が書かれた部分を説明してくれた。陽気なおっちゃんである。僕は店内を少し撮影して、本を買った。サヴァ書店のことが記された英語の本である。18€。100ページもないぺーバーブックの癖に糞高いと思ったけど、欲しかったので買った。迷ったら買う。っていうか、これ以外に売り物っぽい本がないんだよな。店の面積はそれなりだけど、奥の方は入れてくれないし、並んでいる本はぼろぼろだ。本の陳列よりもポスターを優先しているところもあり、売り物っぽくない。

 どうやって生計を立てているのか謎の多い本屋である。

 

   埠頭

   

 サヴァ書店を出たあとは、とりあえずBARに行って一服する。

 そろそろベネチア行くかって感じだった。駅に行く前にスーパーに寄った。イタリアに来てから、水分不足になりがちなんだよな。コンビニがないし、自動販売機もないから、夜になると飲み物を買うところがないのだ。今朝も、ホテルの部屋で買いだめておいたビールを水代わりに飲んでいた。ビールはうまいけど、水分補給のために飲むものじゃない。ある程度水のストックが必要だった。BARでカフェラテを飲んで、二人で4本の水を買った。BARで印象的だったのはトイレだ。僕は人がトイレに並んでいるのに気づかずに、入ろうとすると、とんとん肩を叩かれて、「わたし並んでるですよ」みたいなジェスチャーをされた。すぐに了解した僕は「sorry ok」と言って後ろに並んだ。ジェスチャーをした彼がトイレから出てくると、僕と目が合った。そしてニヤリとして去っていった。何がおかしいのか。


 僕らはホテルで荷物を受け取り、駅へ向かう。

 駅の電光掲示板を見ると、ベネチア行きの何便かにcancellatoと表示されていた。運休ということらしい。昨日の風雨と雪の影響だろうか。トリエステの街は昨日降った雪が凍っており、なかなか危ない路面になっていた。

 一時間ほど時間が出来たので、昼飯を食べてから行こうってことになった。

 僕らは昨日のカフェトンマセオを目指しつつ、海岸沿いを歩いた。そして埠頭を見つけてそこでしばらく景色を楽しんだ。アドリア海を一望できる埠頭では穏やかな風が吹き、鳥が舞い、振り返ると見えるトリエステの街はどこまでも美しかった。15分ほどのんびりして、景色を撮影した。

 一心地着いてから、さあ食事に行こうと埠頭から引き返した。

 ふと見ると、前方に手を降っている女性がいた。気付いたNが驚いて手を振り返す。

 僕も彼女を見て驚いた。

 昨日のニコルだったのだ。

 僕は手を振りながら思った。

 人との出会いには引力があるのかもしれない。

 埠頭の鳥がバサリと翼をひろげて海の向こうに飛び立った。

 ポケモンで言うところの運命力は今動き出す。このトリエステの空のもとにいる人間に翼を与えているのかもしれない。人口20万人のトリエステで、再び出会った。奇跡のような運命と引力。

 僕は一瞬自分が物語の世界にいるかのような錯覚を覚えたのだった。


   カフェ・デッリステッキ

   

 ニコルとは昼食を共にすることになった。そこで訪れたのがカフェデッリステッキである。

 途中でちょっと道に迷ったけど、ニコルが地元イタリア人に聞いてくれたので到着する事ができた。店に入ると、僕らはラザニアとワインを頼む。3人で話す。っていうか、僕は英語がしゃべれないので、二人の話に相槌を打つだけである。この旅は僕に何度英語の必要性を実感させれば気が済むのか。話しているうちにフェイスブックのアカウントを交換したり、手紙をもらったりした。異国の地で友達が出来たのだ。

 こんなに嬉しいことはない。すごくワクワクしていた。彼女と出会い、話すことで、物語の世界にいるような高揚感があった。

 食事を済ますと、Nが「It's my pleasure」と言った。奢るという意味らしい。ニコルは最初遠慮をしていたけど、最後は快く承諾してくれた。

 僕らは店の前で握手をして別れた。

 ニコルは大学で歴史を学んでいるらしい。歴史!ちょうど僕が持っていた本もイタリアの歴史だ。ちょっと見せたら笑っていた。もっとちゃんと言葉を伝えられたらいいのに。

 ニコルは「次にイタリアに来たらウチに泊めてあげる」と言っていた。

 ッシャーーーンナロー!!


   ベネチアへ

   

 ニコルと別れて、僕らは電車に乗って、ベネチアを目指す。電車内では疲れていたのかほとんど眠っていた。

 メストレに着いたのは17時くらいだろうか。とりあえず駅前のBARに入る。BARでヴェネチア行きのバスを調べて、切符を買って出かけた。メストレからヴェネチアまでの間の道は工業地帯だ。近代的なビルが立ち並ぶ。人々も雑多な人種が入り乱れている。ちょっと治安も悪いのかもしれない。僕は上着のポケットのファスナーを確認する。

 ベネチアのバス停に着く。そこで目にしたのはまるで東京のような人並みだった。

 ベネチアは観光地なのだ。それも超弩級の観光地。世界中から人が押し寄せる。

 ひどく嫌な予感がした。

 バスから降りて、ベネチアの街に入ると、そこはとても美しい。美しいが、頭が冷静になっていくのを感じていた。ミラノやトリエステの街で感じていたような高揚感がどんどんしぼみ、旅の気配が遠のいた。混雑する道々には、観光客であふれている。どこの路地も、建物も、写真を撮ったり土産物を買う観光客だらけだ。地元の人間はどこにいるんだ。

 ここは観光地だけど、「街」なんだろう?

 これじゃあテーマパークじゃないか。

 僕らはホテルを目指して、人の溢れる路地を歩き続けた。アメリカ人の団体客がいる。中国の国旗がはためいている。一体ここは誰が住んでいる街なんだ?

 ミッキーマウスでも出てきそうな雰囲気に、僕の心は急速に冷めていった。

 水上バスに乗った。どこを見ても美しくて絵になる世界だ。でも、一体どこに人は住んでいるのだろうか。土産物屋と各国のブランドショップ、ホテルだらけ。

 有名なサンマルコ広場に着く。地球の歩き方によると、星3つの見どころポイントだ。ウニタディタリア広場は星ひとつ。冗談じゃない。モスク風の建物が見える。実に美しい。でも振り返ると新宿にありそうなドデカイ看板広告があった。これのどこが星3つなんだ?


 ホテルに着いた僕のテンションは下がり続けていた。とりあえず食事に行こうってことで外に出た。19時過ぎである。夕食時だったので、レストランは活気に満ちている。通りを歩くと、店先にいた店員に次々と話しかけられる。妙に日本語を知っている人だった。南米風の顔立ちで、どう見ても現地人じゃない。ちょっと歩くだけで、こんな感じに何人ものレストラン関係者に話しかけられた。

「ちょっとちょっとお兄さん」

 キャッチだ。これじゃあ歌舞伎町のキャッチと変わらない。

 僕らは色々と歩いて、土産物屋でハンドクリームとかポストカードを買った。家族の分としてハンドクリーム。友人にはベネチアのポストカードを買おう。

 夕食は、結局立ち食いのBARに寄ってそこでピザを食べてビールを飲んだ。

 会話は弾まない。お互い同じ事を思っていたのかもしれない。

 僕は言った。

「ミラノへ行くのを早めよう」

 このベネチアには2泊する予定だった。でも、一泊でいいじゃないか。そう思った。

 ここは街じゃない。単なるテーマパークだ。

 いや、テーマパークなら全然良い。それはそれで楽しいものだから。

 でも、ここはテーマパークよりもたちが悪い。歴史と文化の街面をして、その実街の人なんて住んじゃいないのだ。すごいところだけど、2日もいられない。

 僕の提案にNは了承してくれた。同じ事を思っていたみたいだ。

 ここは外国人が多すぎるのだ。

 ホテルに向かう帰り道、僕らはベネチアの悪口ばかりを言っていた。

 ベネチアは何年かしたら沈んでしまうという。そうニュースになっている。

 賭けてもいい。絶対に沈まない。どんなことをしても、この一大テーマパークは存続する。

 沈む沈む詐欺に違いないと思った。

 ホテルに戻って調べてみると、ベネチアの現地人が「ベネチアの管理はディズニーに任せればいい」とデモを起こしたそうだ。彼らの皮肉なんだけど、現地人も故郷のテーマパーク化にうんざりしていたのだ。デモの記事は2008年だった。そして現状を見るに、デモの訴えは失敗し、現地人はほとんど出て行ってしまったのだろう。

 水の都ベネチア。

 そこにあるのは、街の残骸と肥大化したテーマパークだった。


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