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灰色姫  作者: 糸間屋
4/7

とばっちり王子と嫁取り顛末記(仮)

今回でとりあえずひと段落しました。

シュテン・ツェル・ナナツマは、生まれた時から王子だったわけではありません。

ナナツマの端の、傭兵を生業とする村の生まれです。幼いころから成長が早く力が強かった少年は、年齢が2ケタになるころには立派に戦えていました。


そして数年後、ミスミとタオという国同士の戦の中で、若いのにとんでもなく強い傭兵ととんでもなく綺麗なのに魔法が物騒な王女様の出会いを見届けるのです。

その当時は「シュテン」しか名がなく、今より三歳若かった少年は、里帰りするという傭兵についていくことにしました。どうせすでに母親もなく、生まれた村も散り散りになり旅の身の上だったのです。

まさかその傭兵が実はナナツマの王子様で、実は母親は元ナナツマの王宮に仕えた侍女で、さらにはナナツマ王が「身に覚えがある」などと言い出して、「兄」が正式に「父」の跡継ぎとなったのと同時進行で自分が王子になるなど予想できるはずもありません。


その展開を、わりあい波乱万丈な人生を送ってきた本人はこうぼやきます。

「あれは、とばっちりで王子になったようなものだった」と


ナナツマの第二王子が庶民の出であることは広く知られています。

そのために以前から由緒正しい身分の姫との結婚を勧められていることもよく話のタネになっていました。

それが第一王子の結婚式が終わって季節を一つ過ぎたころ、国内の有力な貴族がこぞって娘を王宮に売り込んでいる、とささやかれるようになったのです。


当の貴族たちの間では、もっと詳しい「情報」が流れています。いわく、これまで第二王子は「兄」も未婚であることと庶子であることを盾にしていました。ところが第一王子はこれから友好関係を築く有力な国の王女様、しかも諸国に名高い美女であり魔法使いを妻と決めてしまいました。国内の貴族が娘を送り込み、側室とするには、数年はかかるだろうという予想です。


そこで「盾」の一つがなくなった第二王子に、縁談が集中することになったのです。こうなれば仕方ないと第二王子はいくつか条件をつけて、妃選びをすることを承知しました。



「ってことで、約束通り妃選びには参加してもらうから」

そのころ、当の本人である王子は通常通りのゆるい様子で王宮地下にある研究所を訪れていました。


「言われなくとも参加はいたしますよ、参加は」

灰色姫は言いました。

「魔法道具の権威・レーゲンボーゲン博士と、魔法を打ち消される環境下でも動く新型の研究ができるのだから、そのくらい安いものです」

ちなみに1月前に王宮に来てから髪の色は(侍女の努力で)徐々に銀に近づいているものの、ほとんど作業着で過ごすため結局呼び名は「灰色姫」のままです。


「それにしても結構強い魔法をかけているのにまだだめ、か」

「だめですなあ」

答えたのは、いるだけで魔法を打ち消す騎士本人。名をアルノー・エクリプスといいます。灰色姫のいた屋敷へ来た使者の、オレンジに見える金髪の方です。

「とはいえこれ以上強い魔法は……あなたの側以外では暴走するでしょうし持続性も問題があります。とりあえずこの結果を博士に報告ですね」

それなりの実験結果を得られた灰色姫は、もはや王子に見向きもせずに去っていきました。


「じつに眼中にないんですな、王子が」

「他の貴族のお姫様よりは、ああいう妃のほうが面白いと思うんだけどな」

「はっはっは。あの姫は妃になることじたい、面白くないでしょうな」

ノリが軽いわりにデキる、というのがこのオレンジ髪の騎士へのだいたいの評価です。

「じゃ、この後乗り気になるかどうか賭けてみるか」

「王子がですか、姫がですか?」

「……どっちもない、よなあ。やっぱなし」



そんな一幕がありつつ、第一王子の結婚式から三か月後、一定以上の身分の姫君たちが集められ、王子妃選びが始まりました。

ちなみに入城時、子爵令嬢を名乗る赤と青のドレスの娘が二人、門前で騒ぎ立て連行されております。



挨拶も終わり、王子が手を叩いて合図すると侍従たちの手によって何かが運ばれてきました。布がかかっていますが、大きさは人の拳ほどだとわかります。

妃選びの方法じたいは、王子が注文を付けただけあって簡単なものです。それは、一つの問いに答えるというもの。


「ここに一つの石がある」

その問いの始まりを、王子が口にしました。


「通常は硬いが加工もたやすい。いったん柔らかくして壁に塗れば丈夫になり、夏は冷たく冬は暖かい。しかも、」

そこでふわりと布が払われて、運ばれてきたものがあらわになりました。そして姫君たちは、透明な夜空に色とりどりの花火が上がったその瞬間を閉じ込めたかのような美しい石の姿を目にします。ところどころでため息が漏れました。

「この通り、鑑賞にも耐えうるもので、もちろん毒性もない。これの採れる鉱脈が見つかったとして、これをどう使うのか答えてもらいたい」


宝石といっていい鉱物に見入っていた姫君たちに向かって投げかけられた問いは、彼女たちをわずかのあいだ現実にひきもどしました。

しかし続く言葉は、再び冷静さを奪うのに十分なものだったのです。

「では、これより答えを先着順で受け付ける。なお、王子が納得する答えが出た時点でその方がお妃となり、この石を所有する権利を得ることとなります」


これを聞いた姫君たちは、我先にと王子の前に列を作りました。

宝石や美術品として売り出すという者、ナナツマの王宮にこそふんだんに取り入れ権威を示すという者は次々と失格になりました。

そのうち国民に行き渡らせるようにするという者も現れますが、ナナツマ王家で飼われている不思議な鳩によって嘘を見破られます。


姫君たちが見て数えられるほどの人数になるころには、列をつくる者はいなくなっていました。

そのなかで、話をたくさん聞いて疲れてきた王子のもとへ一直線に向かう者がおりました。


「これは魔法道具の研究所にいただきたい」

いきなりのべられた結論は、それまでの姫たちのものと全く違っていました。王子と傍に控える面々もこころもち姿勢を直します。

「なぜならこの石からは魔力が感じられる。今まで魔法の道具といえばモノに魔法をかけていたので、定期的な魔法のかけなおしが必要なことと魔法が打ち消される環境では使えないことが欠点だった」


しかし、とその姫は琥珀色の目を生き生きと輝かせて続けます。

「魔力を自ら発する素材なら、二つの欠点をどちらも克服できるかもしれない!外から魔法をかけるだけならとても強力なのが必要だった場合でも、素材の魔力を利用することによって……そうだ、これまでより大型のものの実用化も見えてくる。もし本当にこれを産する鉱脈があるならそこへ派遣してください。研究がてら採掘のための道具でも作りましょう」

あっはい。とつい言いかけて審査員一同はすんでのところで踏みとどまりました。


あの灰色姫ですよね、引きこもりで魔法道具の発明ばかりしていたという噂の。最近腕の良さと偏屈で有名なレーゲンボーゲン博士の下についたっていう。それ、自力で瞬転装置を開発したかららしい。ああ、どうりで。

口々に小声の会話が行きかいつつも、彼らの心中は一緒でした。

これ、妃というか研究者だ。


それから自然と彼らの視線は、この場で一番身分の高い者に向かいました。用途は実際話したほど広くなく、鉱脈というほどの量でもないのですが、この不思議な石が発見されたのは本当のことなのです。

とはいえ、妃選びの条件からいって、この石をゆだねるということは姫のいう事に納得したということで、つまりは妃として迎えるということになります。


「……気に入った」

とうとう王子が発言した、その内容に臣下たちがざわつきます。それを静めて、さらに言葉は続きます。

「レドリオン嬢、あなたの語ることには納得した。ではもしこれが使えるとして、新型の魔法道具を実用化するのにどれほど時間がかかる?」

「これまでにある機能のものなら、1年で量産してみせましょう」

わかった、と第二王子はうなずいてそして


「では1年間、あなたを婚約者とする。その間に言葉通りのことができたなら、正式に妃としよう」

「……は?」

思わず聞き返したのは誰だったか、わからないほどその場に疑問符が飛び交いました。言うまでもなく、王室において最初から破棄の可能性がある婚約者など前代未聞です。


場が騒然とする中、張本人たる王子と婚約者(仮)はこっそり話し合いました。

「つまりじっくり1年以上かければ、妃の位は辞退できるということに」

「そもそも、この石を託すのと妃にするってのを一緒に約束してるから1年経った時点で石の提供が打ち切られるんじゃないか?いちおう妃選びだから公文書に残してるだろうし」

「……まあ1年でも思いっきり新型の研究ができるのはありがたいですね」

「さっそく婚約破棄する気でいっぱいか、妃候補さん。まあでも、こっちも1年かけられることってことだしな」

そこで、灰色姫の頭にも疑問符がわきました。


「1年かけるって……次の妃候補探しですか?」

「いいや、今日ここに集まった姫たちがまあ王家にふさわしい身分、てやつなんだろ?一応正妃はこの中から選ぶつもりだったし」

王子としてはいろいろイレギュラーでそれを改める気もない第二王子ですが、そのぶん宰相などに心労をかけていることはちゃんとわかっています。今日の人選も彼らの心遣いであって、できる限りその中から選ぼうとは思っていました。


「あんただったら面白いな、とは思っていたけど……気が変わった」

そう先ほどの熱弁は。いつも冷ややかさしか感じさせない銀髪と琥珀色の目が光を放っているようで、なによりいつもの丁寧な話し方がすっかり崩れていました。

「さっきのあんたは正直イイと思ったんだ。だから、1年かけて口説き落とすつもりだ」

そういう第二王子は一瞬、いつものゆるさが鳴りを潜め、もともと赤味が強い髪と瞳が炎のように見えました。


「……好きにすればいい」

「お互いにな」

こんなしょうもないきっかけでの興味などすぐ冷めるだろう、と予測して灰色姫が投げた言葉には、いつも通りゆるい調子の返事がありました。


しかしなぜか先ほどの自分が焼かれているような感覚は、なかなか消えなかったのです。


※石のイメージ→ブラックオパールが透明で、すけた中身が角度によって色が変わって見える的なやつ。

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