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灰色姫  作者: 糸間屋
3/7

灰色姫の冒険

※爵位については現実ベースでふわっと

公爵=王家関係

侯爵・伯爵・子爵・男爵=国への功績によってそれぞれ叙される


だいたい貴族=大名、爵位が上なら領地の値段(領民からの税収込)も上。で、土地は代理人に任せて貴族本人は中央で官位もらう。

レドリオン子爵領は地方の田園地帯(灰色姫が住んでいるのは王都にある屋敷。王都の別の場所に子爵邸もある)。

功績しだいで、一代限りの昇格あり。って感じ

女子とか養子の爵位もOK


「これは間違っているわ」

青いドレスに、大きな縦ロールをツインテールにした娘が言いました。

「こんな名前の者はこの家にいないのにねえ」

赤いドレスに、高く盛った髪を飾り付けた娘が言いました。


二人はレドリオン家の屋敷にある大きなソファに並んで陣取って、質のいい紙に書かれた文字を食い入るように目で追っていました。


今は灰色姫と呼ばれる少女の父親が亡くなった後は、その弟が家を継いでいます。二人が見ているのは、現レドリオン子爵が姪である灰色姫に宛てた手紙でした。


「おじさまったらうっかりさんね」

「レドリオン家の令嬢といったら私たちしかいないじゃない」


手紙を勝手に開封したことは今更気にしない義姉たち。

青くてツインテールの方をアナスターシャ、赤でデコ盛りヘアの方をドリゼラといいます。

手紙をすっかり読んでしまった二人は、興奮もあらわにそろって動き出します。しばらくばったばったと身支度をしたかと思うと、馬車を呼びつけて出かけていきました。



いつもは早起きの灰色姫が、この日義姉たちより起床が遅かったのには理由がありました。数日前の「訪問者」によって破られたトラップやら扉の修理と改良に、時間がかかっていたのです。

「やはりお義姉さまたちと男性では身体のスペックが違いますね。念には念を入れてあの人たちに突破できないレベルの3倍くらいにはしていたつもりが、甘かったようです。さて、昨夜設置したモノが通じればいいのですが」


父親が亡くなった当初は灰色姫が視界に入ればいじわるをしてきた義姉たちは、部屋にいるときにも無理難題を押し付けに来ていました。今でこそ好きで引きこもりと魔法道具の発明をしている灰色姫ですが、きっかけはやむにやまれぬものだったのです。


その後義姉たちは来るたびに増えていくトラップによって、顔が粉まみれになったり、姉妹を出し抜いてデートを取り付けたのをバラされたり、自分たちの声を倍にして返されたりするうちに、部屋を訪れるのは止めるようになりました。


トラップの再充填と試作品ありったけの設置は終えていることを確認した灰色姫は、珍しく屋敷に義姉たちがいないことに気づきました。

「ちょうどいい。他の子たちのメンテもしましょうか」


魔法の道具は、おもに元ある道具に「命令」をすることでできます。たとえば箒に「ゴミがあったら掃き掃除」という命令をしておくとその通りに動きます。本当にゴミかどうかを見分けるなどの正確さや働き続ける期間の長さが、製作者の腕の見せ所であり専門の職人が少ない理由なのです。


レドリオン家は掃除・洗濯はもちろん、門扉の開閉からお茶くみまで魔法の道具が仕事をしています。たまに義母と義姉たちが家にいない時間にメンテをしないと、どれかしら使えないものが出てくるのです。同じ敷地内なので、カメラ(魔法の鏡)越しにそろそろ動きが止まりそうなものや命令の細かい内容を変えたほうがよさそうなものは把握済みです。

こうして灰色姫は、しばし自室を後にすることになりました。



同じころ、レドリオン家の門の前に三人の男が立っていました。

「申し訳ありませんな、このようなやり方になってしまって」

輝くような銀髪の、若いころはさぞ美丈夫だったろう男が言いました。

「いえ、レドリオン子爵が気にされることではありません」

「ここまで気を配って迎えをするのは、どのような姫君か楽しみですな」

青みがかった黒髪の青年とオレンジにも見える金髪の青年は、揃いの服を身に着けていました。

彼らは、王宮からの使者なのです。


灰色姫の叔父にあたるレドリオン子爵は、彼女のことをよくわかっていました。

普通の姫君が望むようなものでは動かず、引きこもり生活がいいからと子爵邸へ移り住むのも辞退しつづけている姪です。おまけに守銭奴の義母とお姫様願望の強い義姉たちが、同じ家に住んでいるのです。

王宮からの呼び出しがあったことを伝えれば、義母たちが暴走するだけになることは目に見えていました。


そこで子爵は一計を案じ、義母の大きな商談がある日に、「レドリオン家の令嬢」が招待されているパーティがあるという内容の手紙を届けさせました。姪宛ての手紙は開封されることは分かっていましたし、本人に届いたとしても黙殺されるだけです。案の定、お昼近くに義姉たちは子爵邸に押しかけてきました。


手紙では動かない姪とて、王宮からの使者が直接訪ねてくればいくらなんでも話を聞くくらいはするはずです。話を聞いて首を縦に振るかまで子爵に保証できることではありませんでしたが、使者たちが「そこは自分たちの仕事なので」と請けてくれたのでよしとしました。


三人は、ドアノッカーを叩いてから扉を押して中に入ります。

しんと静まり返った屋敷は、普段を知っている子爵からすれば、まるで招かれざる来客を拒否しているかのようでした。義母と義姉たちがいないのはともかく、案内をしてくれるドアノッカー(内側)も荷物を預かるコートかけも、そもそも自動で開くはずの扉が動いていなかったのです。


そんなこととは知らない使者たちは、ひと声かけて階段を上がっていきました。

ところが、屋根裏部屋への階段に差し掛かっても、部屋が見える位置に来てもトラップが発動しません。子爵は不思議に思いながらも、ドアをノックしました。

一度破られたものを修繕したとおぼしきドアは、ところどころ隙間が残ったままです。だから、返事どころか人の気配さえないことはすぐわかりました。ただ、遠くからかすかにベルの音が聞こえてきます。


子爵がためらっている間に、オレンジ髪の使者がまっすぐ部屋に踏み込み、窓から裏庭を覗いて灰色姫を見つけました。そして藍色の髪がそれに続き、呼びかけました。

「此方は今あなたが不思議に思っていることの答えを持っている。教える代わりに話を聞いてくれないか」




居間に置かれた座ったものに合わせて形を変えるソファに、作り主が腰を下ろしたのは実に数年ぶりのことでした。叔父が感慨にふけっているのをよそに、ポッドが三つのカップにお茶を淹れたのを見て、レドリオン嬢は話を切り出しました。手に持っているのは来客を知るためのハンドベルで、これがちょうど使者たちが屋根裏に着いたタイミングでやっと鳴りだしたのです。


「……ところで、あのもう一人の方は?」

「ああ、お気になさらず。貴女と交渉するようにするまでが彼の仕事で、この後はもう一つ別の用事があるので」

そういって、藍色の髪の使者は、恭しく書状を取り出しました。

「さあ、ではこれを読んでいただければ分かります」


受け取ったレドリオン嬢は、手つきに焦りは出さず、しかし目はせわしなく動きました。

全体を把握し、後半だけをじっくり読み返します。

「そんなことが」とか「まさか……いえでも説明は」とか独り言だけがしばらく静かな居間に放たれます。


書状の後半には、前半のそれと明らかに違う癖のある字でこんなことが書かれていました。

”王宮には今、見てもらった通り「魔法を打ち消す」者が勤めている。だが、ごく少数のために周囲の魔法の道具が使えなくなっては立ちいかない。ついては、これまでと違う魔法の道具を研究している。そちらが話を飲んでくれるなら、こちらもその研究に参加する許可を出す――”


そしてポッドのお茶がちょうどなくなったころ、ようやく書状から目が上げられて、

「お話、謹んでお受けします」

いつの間にか手にペンを持ち、ルシエルナガ・シグ・レドリオン嬢は宣言しました。



「ところで、」

ややほっとした様子で書状の写しをしまいながら、使者は話を変えました。

いわく、義母たちの所業を訴える気はないのかと。


義姉たちは貴族を自称し、邸宅に不当に住んで家主を脅した罪。

実はナナツマでは子連れで再婚するとき、子供については再婚相手が養子とする手続きを別に取らなければいけないところを、灰色姫の父がうっかり忘れていたため、義姉たちの身分は平民のままでした。

義母による、現レドリオン子爵の養子として義姉たちを迎えてくれないかという打診は、ずっとのらりくらりとかわされていました。


その義母は、商売上で手を染めた怪しい取引をつつけば罪に問えるでしょう



「……いいえ、いいんです」

くしくも、使者たちの訪問によって灰色姫は気づいたのです。魔法の道具は込められた魔法が切れると、ただの道具に戻ります。あらゆる場所に魔法の道具がつかわれているレドリオン邸で、それらが全て止まったらどうなるか。

たまにしか訪れない叔父ですら薄気味悪さを覚えたくらいです。義母たちはそれに加え、これまでの至れりつくせりの生活が一変することになるのですから、単なる罰以上のものを味わうでしょう。



「きちんと研究以外のことも考えていたんだね……」

本人と子爵が目の前にいる手前、口には出しませんでしたが使者も同じ気持ちでした。もし「研究できるならどうでもいいです」などと答えられていたら、先行きが不安になっていたところです。



なにせ彼の運んだ書状の前半には、第二王子の妃候補の一人としてルシエルナガ・シグ・レドリオン嬢を王宮に召すという知らせが見本のような字で書かれてたので。


↓↓↓↓↓この先ただの補足↓↓↓↓↓





・王宮への呼び出し

 「指輪を渡しに」行くにあたって当然相手のことについて聞かれており、転送装置の開発をしていることも話されてる。シュテンが無事にワープしてきたことによって効果は実証された、のが発明チームにかかわってもいい許可が出てる理由。

 「妃候補」なのはまた別の事情がある


・ルシエ父は教育熱心でもあったので、生前はそんなに引きこもってなかったし、ふつうの本も結構読んでる。


・ルシエの魔法道具は、もともとあるものに魔法で命令を付加したものが主(自動で動く箒とか入れたものが軽くなる袋とか)。込められた魔力が切れると、ただの道具に戻る。補充は他人の魔力でも大丈夫。

→レドリオン邸は特に道具多い&義母たちは別に魔法の才能ない。つまり……

→あと、収入源がなくなるし、子爵にとっては姪が王宮に行ってしまえば「他人」と言い張って問題ない人たちなのでどうあがいても詰み。


・転送装置の場合、最初自作したミニチュアの馬車(一人乗り)に強めの魔法をかけていたのだがさすがに馬車でワープは無理があったので、改良型は魔力を注ぐだけで転送の魔法が発動する補助具みたいなものになってる。


子爵には男子が二人いるけど、下の子は小さいころに養子に出しており、上の子は家を出て自分で働き口を見つけてる。長男が戻らなければ、爵位はいずれ灰色姫が継ぐことになる。


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