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ミッション ポカリをGETしよう!

「今日はサイコパス診断をするわよ。」

 放課後、部室に四人揃うと部長が言った。

 タブレット端末を机の中央に置き、その画面には黒の背景、赤い文字で『診断テスト』と表示されていた。

 どこからどう見ても怪しいその画面に、まず最初に鈴が口を開いた。

「……なぜサイコパス診断?」

当然の疑問だ。俺と裕二も鈴の発言に乗っかって紗香先輩に目を向ける。

「我が部活にサイコパスはいらないわ。これでサイコパスだった人は罰ゲームよ。」

 紗香先輩は楽し気に微笑んだ。…どうやら何か企んでる様子。

「まずは……鈴ちゃんからね。」

そう言ってタブレットを鈴の前に滑らす。

「…よし、私がサイコパスなわけないっ。やーるぞーっ。」

鈴も部長の企みに気づいたようで、表情が若干こわばっている。でも、逃れられない事は知っているから自分を鼓舞するように拳を掲げた。

躊躇いなく診断ボタンをタップしてスタートだ。

 Q.あなたは友人からお金を借りている。しかし、あなたはお金をいつまでたっても返済しない。なぜ?

 鈴A.お金がないからに決まってるでしょ?まぁ、私はそんな事しないけどね。

……なんだか嫌な予感がするぞ。

俺と裕二の顔は一問目から引きつっていた。

 Q.あなたは殺人の罪を償い、刑務所から出てきた。あなたは家を見つけ、職を見つけ、最後に家の床を真っ黒に塗りつぶした。それはなぜか?

 鈴A.そんな事するわけないでしょ?これ作った人ばかなんじゃない?

「馬鹿はお前だ!鈴。こういうのは理由をちゃんと答えないとだめなんだよ。……いや、一般人じゃしなそうな回答って事は…お前、サイコパスなんじゃ!?」

「そうね。鈴ちゃんは罰ゲームね。」

 白々しい俺のリアクションに続いて紗香先輩がさらりと審判を下す。

「ちょっと待って!なんでそうなるの?私は普通に答えただけなのに……。」

 鈴はバンッ!と机を叩いて立ち上がり抗議するが。

「こりゃ重症だな。きつい罰ゲーム決定だろ。」

 三人から怪訝な眼差しを向けられた鈴は「そんなわけないでしょ!?」と叫ぶ。だが、無駄な抵抗だと覚ったのか「ありえないありえない!」と文句たらたらで顔を両腕に埋めて机に突っ伏した。

「じゃ、次は裕二君。」

「あいあいさー。」

 裕二は部長に敬礼した後、タブレットを自分の手前まで引き寄せてタイトルに戻るをタップして回答を始めた。

 Q.あなたが家に帰ると、死体があった。あなたはどうする?

 裕二A.警察に通報するかな。

 Q.あなたは囚人だったが、刑期を終え、社会に出た。さて、まずは何をする?

 裕二A.家族に会いに行く、かな。

 Q.犯罪を犯したあなたに対して、駆け付けた警察が何か言ってきた。何と言っているのか?

 裕二A.やめなさい!とか、包囲されている!とか、かなぁ。

 回答を終え、結果が画面に表示される。鈴以外がその画面に注目した。

 ―結果。あなたはサイコパスではありません。サイコパス率十%。しかし、今後可能性が無いとは言えません。自分の意志をきちんと持って、他人を許せる穏やかな心を常に持っておきましょう。

「やったぜ!一抜けだー!」

 裕二はガッツポーズで席を立ちあがる。

 そんな裕二に、鈴は少しだけ顔を上げて「おかしい。裕二は変態サイコパス野郎なのに。」

「へっへー。君に言われたくないよ、マウンテン鈴。」

「そ、その名前で呼ぶなぁ!」

 裕二は勝ち誇った顔で鈴の事を馬鹿にしだした。

「裕二君。」

 部長の優し気な笑みに裕二の表情は一時硬直する。

「はい?」

「あなたも罰ゲームよ。今の言動は穏やかじゃないわ。」

「えぇ!?なんでっすか部長!俺はサイコパス率十%の一般人っすよ!」

「つべこべ言わない。この部室での私の言葉は絶対よ。」

 部長権限と言うやつだろうか。言い返せずしょんぼりとする裕二。どうやら逆らう気は無くなったらしい。

 これはゼロ%じゃないと罰ゲームがほとんど確定だ……。

「次は憐太君。」

 部長は俺にタブレットを手渡ししてくれた。

 生唾を飲んで回答するをタップ。

 Q.あなたはAさんに恋をしました。しかし、AさんにはBさんという恋人がいました。さて、あなたはどうしますか?

 憐太A.素直に諦める……。

「へー。」と鈴がジト目を向けてくる。

「ふふっ。」部長が不敵に笑う。

 俺は目を細めながらも気を取り直して画面を見る。

 Q.あなたは1Kアパートで人を殺しました。死体は何処に隠す?

 憐太A.ベッドの下。

「エロ本そこに隠してんだなー?憐太は単純やの~。」裕二は腹の立つ顔で見てくる。

「……今度探して見よ。」鈴は小声で何か言った。

「…。」部長は頬を染めて視線を逸らした。

 それぞれの反応に構う気力は無く、俺は再び画面に集中する。

 Q.あなたに恋人ができました。それは誰?

 憐太A.…初恋の人。

「なっ!?」と鈴が体を起こして驚愕する。

「…。」

 部長と裕二は無反応だった。

 そして診断結果―あなたはサイコパス率ゼロ%の真っ白人間です。この先、何が起きても一般人としていられるでしょう。

 最高の結果がでた。

「どーだー。これで罰ゲームはないですよね?部長。」

 地味に嬉しくて頬が緩んでしまう。

 「そうね。……仕方ないわ。」

 …仕方ない?

 その言葉の意味がわからなかった俺は首を傾げる。

 そんな俺を無視して紗香先輩は診断を始めた。

 ―数分後。

 結果から言おう。……部長の診断結果は途轍もないものだった。

 サイコパス率は言えないけれど、部長も罰ゲーム決定。これで紗香先輩、鈴、裕二が罰ゲームだ。俺だけクリアでちょっとした優越感に浸る。

 「それで、罰ゲームってなにするんですかー?言い出しっぺの部長が決めるんじゃずるい気がするんですけど。」

 鈴は不貞腐れた様子で机に両腕を伸ばしてだらけている。

 問いに紗香先輩は「ふふっ」と不敵に笑った後、俺に目を向けて。

 「憐太君が決めていいわよ。……まさか私までサイコパス認定されるとは思わなかったわ。」

 「え、俺が決めるんですか?」

 「ちょっと待って!憐が変な要求したらどーするの!?」

 「変な要求?……例えば?」

 部長は揶揄うように鈴に尋ねる。

 「そ、それは……アレな事…とか…。」

 人差し指を合わせながら頬を赤くする鈴。一体何を考えているんだか。

 「ま、まさか俺も!?」

 「ふざけんな!……罰ゲームだろ?もう決めたよ。平等なやつ。」

 「……。」

 三人は息をのんで俺が下す罰ゲームに耳を傾ける。

 「今から二十四時間。ラインのトプ画を自分の変顔に変えてもらおう。あ、とびっきり変な顔限定で。」

 

 同日の夜。

 鈴のラインに届いたトプ画へのコメントを紹介しよう。

 『鈴、どったの?なんか辛い事あった?( ゜Д゜)』

 『何それwうけるんですけどww』

 『トプ画、可愛いね。』

 「…屈辱よ!友達全員ブロ削まであるよこれ!私に変顔を晒させるなんて、憐の本性はゲスの極みね!!」

 俺のラインに届いた鈴の文句にはノーコメントだ。代わりに俺は『わろた(゜∀゜)』とだけ返した。

 次に裕二に届いたコメントを紹介しよう。

 『お前、そうゆうことやめないと彼女出来ないぞ?まじで。』

 『裕二?それ面白くないよ?馬鹿がばれちゃうからやめて。私まで馬鹿だと思われるじゃない。』

 「なぁ憐太~。お前ひっでぇなぁ。さっきからねーちゃんが冷たくて辛いんだけど……。」

 それに俺は『ん?いつもと変わらなくね?』と返した。

 最後に紗香先輩に届いたコメント紹介。

 『本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。俺が悪かったです。』

 の一件だけ。送り主は俺。部長から来た『最高よこのトプ画。憐太君?明日、覚えときなさい。(^o^)』に返信した内容だ。

 サイコパス率〇〇〇%の部長の覚えときなさいは怖すぎる。内容を目にした時全身に鳥肌が立った。今も不安で胸がいっぱいだ。明日……学校行きたくないなぁ……。

 

 

 ―良くない事が起きた。

 これは非常に良くない。

 なんと熱が三十八度も出てしまった!

 昨晩思った事が実現してしまったじゃないか……。

 今朝、目覚めると体が思うように動かず猛烈な頭痛に襲われた。

 起き上がるのも億劫で俺は妹にラインを飛ばした。

 『すまない妹よ……兄はここまでのようだ…。最後に君の笑顔が見たかった……。』

 数秒後、既読が付き階段を駆け上る足音が聞こえてくる。

 「お兄ちゃん!?噓でしょ?このラインは噓なんでしょ?ねぇ!なんとか言ってよお兄ちゃん!」

 必死といった剣幕で俺の体を激しく揺する少女は妹の―宮城加那。

 「すまない妹。最後にポカリが飲みたかった…。」

 寝起きゆえの掠れた声で、最後の言葉のように加那に告げる。

 「ポカリね!ポカリが飲みたいんだね!すぐ買ってくるから死なないでよね!?」

 妹はそう言い残して部屋を飛び出していった。下の階から「お母さん!お兄ちゃんのためにポカリ買ってくるね!」と早口で聞こえた。その後すぐに玄関のドアが閉まる音も聞こえたきた。

 俺の妹は変な妹だ。

 なぜ臭い台詞をラインで送ったのか……それは普通の内容じゃ無視されるからだ。

 妹が幼かった頃はあんな言い方しなくても適当な応答はあった。

 が。

 中学に上がった頃からだろうか。

 「ちょっと熱あるっぽいから下から水持ってきてくれ。」

 そうラインすると数秒で既読が付き返信がくるかと思ったら……無視された。一時間経っても十時間経っても返信は無かった。

 それから暫くしてからだ。無視覚悟でラインした時、誤字ってしまったんだ。

 「そろそろ逝きたいんだけど……お前は来ないだろ?一人でいってくるから家の事頼んだぞ。」

 数秒で既読が付いたと思ったら勢いよく階段を駆け上る音。

 「お兄ちゃん!?」

 泣きそうな顔で俺の部屋に入ってきたのは加那だった。

 着替え途中でパンツにワイシャツを羽織ってる状態の俺にしがみついて来て、頬に涙をつたわせ懇願するように「嘘でしょ!?ねぇ、嘘だって言ってよぉお!」と言ってきた。

 状況把握に暫し時間が必要だったが、どうやら加那は「逝きたい」を「死にたい」と読み取ったらしい。

 それから加那を宥めるのに三十分かかった。勿論出かける用事を断ってだ。

 それからだ。妹にお願いする時は必ず死に際の兄を演じるようになったのは。

 俺はふらつきながらもリビングまで降りて体温計を脇に挟む。

 ……まったく。妹の思考はわからん。

 体温計が測定完了の音を上げる。

 表示された体温は三十八度。おそらくただの風邪だ。

 はぁ…。

 ため息一つ零し全身脱力する俺。

 母さんが仕事に行ってくると言ってリビングを出るとインターフォンが鳴った。

 「はいはーい。今出ますよー。」

 母さんが応答してくれて俺はソファーで加那を待つことにした。風邪の時はポカリを飲むのが一番だ。

 だらけていると……嫌な声が聞こえてきた。

 「えぇ!?憐風邪なの!?」

 「そうなのよ。よかったら学校終わったら見舞いに来てやってくれる?」

 「うん……。憐!ちゃんと寝てるんだよぉ!?」

 …朝っぱらからやかましい奴だ。

 目を閉じると全身の熱が敏感に感じ取れる。視界は真っ暗なはずなのに僅かに揺れている気がするのは感覚が若干狂っているのだろう。

 段々と気が遠くなっていく……っ!?

 突然額に冷たいものが触れて反射的に体がびくつく。

 「お兄ちゃん…?大丈夫?」

 目を開けると十センチ程の距離に加那の顔があった。

 大きな瞳が憂いの眼差しで俺を見つめている。額に触れた冷たいものはポカリだ。

 「悪いな加那。……もう学校行く時間だろ。ポカリありがとな。気を付けて行けよ。」

 弱弱しく微笑む俺に、加那は鼻の穴を膨らませて涙を堪える。

 …普段は無表情で無視を貫く、不愛想な妹とは思えない顔だな。

 加那は鈴と同じくらい可愛らしい容姿をしている。兄としては誇らしくもあり、複雑でもある。

 「でも……。」と動こうとしない加那。俺は優しく頭を撫でた。

 「俺は大丈夫だ。ポカリがあるからな。ほら、早く行かないと遅刻するぞ?」

 「…うぅ…わかった。」

 リビングを出る間際まで何度も振り返って俺を見る加那を、精一杯の笑顔で見送った。

 家に一人になった俺は重い体を起こして自室へと上がる。

 「部長……怒るかなぁ…。」

 それだけが心配だ。こんなんじゃ寝れない。……寝れ…ない。ね……い。

 ベッドに横になるなり俺の意識は途絶えてしまった。

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