詩尋の仕掛け
明日入学式です〜。(2017/04/05)
いまだ入学前課題が終わらないっていう(笑)
今週ももう金曜日になった。
今朝も、うたと共に登校する。が、私はおかしなままだった。
うたも少しおかしかったけど、どんどん反応が変になっていく私を見かねてか、月曜日ほど変なうたは、もういなかった。
滞りなく授業も終わり、ざわつく教室内で帰る準備を進める。
明日は、立水家に遊びに行く予定だ。受験生になった時から遠ざかっていたのでかなり久しぶりになる。
桃桜も来るみたいだし、うたの妹の奏璃に会えるのも楽しみだ、と明日に思いを馳せていると
「柊霙澪さん?少しいいかしら」
凛とした声が聞こえた。
私を呼んでいる。
なんだろう、と声のした方角を見ると、驚くことにB組にいるはずの各務原美璃がいた。
私を、値踏みするような目で見ている。
この学校は特に厳しいわけではないので、お互いのクラスの行き来は自由だ。
(だが、なぜ私の所に…?)
否、うたのことだろう。
クラス内は彼女の出現に湧いていた。
「きゃー!ついに⁉修羅場だわ!」
「私、柊さんに1票‼」
「私もですわ!」
教室の至るところで女子の声が聞こえる。男子同士も顔を寄せ合っている。
そして、彼女達は抑えてるつもりであろうその高い声は、地獄耳な私の耳に次々と入ってくる。
(…修羅場、なんだろうか)
だが、私には婚約者がいるし、うたにも好きな人がいる。
皆の勘違いだと、全てを説明したい衝動に駆られるが、 そんなことでは彼女は止まらないだろう。
以前に似たようなことを何度か経験しているので分かる。
私は正面からぶつかる覚悟を決めて、既にまとめ終わった荷物を持って立ち上がった。
※
私が今いるのは、ちょっと高めのカフェ(?)だ。しかも個室。
そして向かいには、例の各務原美璃がいる。
テーブルの上には、私のアイスティーと彼女の抹茶ラテがおいてある。
ここに来てから、もう10分ほどが経った気がするが、まだほとんど話していない。
注文が決まったかの確認された時だけだ。
気まずさから俯きがちの私には、彼女の表情は見えない。
更に30秒ほどたって、私は沈黙に耐えきれずにアイスティーを手に取った。
「…柊さん。そんなに緊張なさらないで?私が悪いことしている気分になってしまいます」
「えっ、あっ…いや、す、すまない!こういう場所に来ることも初めてだし、一人ではないのも初めてで…」
友達が皆無の私には、カフェは縁遠い場所なのだ。
遊ぶのは立水の二人だけだし、こういうところよりも家の方がよっぽど設備が整っているため、本当に来たことがないのだ。
…悲しきかな。
「そうですか、では、本題ですが」
「あ、ああ。……うたのことだろう?」
「やはり、知っておられたのですね。…はい、既にご存知のようですが、私は、立水詩尋君を好いております」
彼女は、私の目を見て言った。
「……」
「それでお話というのが、詩尋君の彼女である貴女に、彼に告白する許可を得ようと…思ったのですが。」
ちょっと待て。…彼女?告白?
「あの、」
「もちろん、これは横恋慕をしてしまった私の不始末です。貴女は、断ることもできます」
「いや、ちが」
「?」
「あの、貴女は勘違いしている。私とうたは、付き合ったりなどしていない。だから私に許可を取る必要も…」
「まあ、そうでしたの?ごめんなさい。私ったら、毎朝ご一緒に登校したり、彼の仕事のない日は家の前まで送ってらしてると聞いて、つい、勘違いを…」
「いや、気にしないでくれ…」
「ありがとうございます。…そうと決まれば、明日にでも告白してみようかしら。彼の休日を削ってしまうけれど…」
彼女は、とても楽しそうに思案する。
(恋とはこんなものなのか。…ん?明日⁉明日って…
はあ、うたはああいうけれど、呼び出されたら出て行くのだろうな。どうせ、私だし。あ、また…)
胸がチリッとなる。
今回は、一回じゃなく断続的になる。
「ああ、頑張ってくれ。微力ながら応援している」
心が重く、違和感がある。
頭と心の間に壁があるような。私が私じゃないような。
自分が何を話しているのかが分からない。世界に置き去りにされたような感覚。
私の知らないとこで、私が各務原さんと会話を交わしていく。
「___では、そろそろ帰らしていただきます。お会計はしておくので…」
正気にかえる。
「えっ、いや、私が…」
「勘違いをした私が悪いんですもの。私が払います」
「私だって貴女に勘違いさせたんだ。私が払おう」
「そうですか?では、自分の分だけでも払わしていただきますわね」
「ああ、了解した」
私は彼女と共に立ち上がらなかった。
否、私は立ち上がることができなかった。
先ほどの違和感に呆然としていたのもあるが、信じられないことに、私は彼女の姿を見たくないと、ふと思ってしまった。
愕然とした。
頭が混乱して、グルグルしている。
「なんなんだ?一体…」
私は、その後も五分ほどカフェで混乱してから、明日にでも桃桜に相談しようと決め、やっと腰をあげた。
※
その日から、各務原さんと似たような事を聞かれることがだいぶ増えた。
一人で聞かれることも、複数人で聞かれることも、好奇心で聞かれることも、敵意まるだしで聞かれることもある。
また、チリッを感じることも増えた。
桃桜に相談しても、自分で考えるものです、と教えてくれなかった。