詩尋、頑張る
パーティから二日経ち、今週も学校が始まった。
結局、私の婚約者騒ぎで、うたと各務原さんの話はできなかった。
うたは機嫌が悪いというか、落ち込んでる様子だったし、桃桜も何か考えているようだった。
今週は、今日と水曜日がうたの仕事が休みだ。
うたは、初めて私と同じ学校に通えることがよほど嬉しいのか、仕事のない日は一緒に帰ろうと誘ってくる。お互い部活動には入っていないから、うたが飽きるまで続くのだろう。
まあ、私も初めて同じ学校に通うことができてうれしいけれど。
婚約者の件は、家に帰ってから真剣に家族と話し合った。けれど、わたしの覚悟を話したら、微妙な顔をされたけど特に否定的な声はなかった。
また、立水家でもなにやら動きがある。
柊家のトップの私の父親と、父の手伝いを既に始めてる兄は、この話があったことを私に話してくれたとき、「やっとか…」と、遠い目でしきりに呟いていた。
話の内容については、今の私には見当もつかないけれどいつか分かるときが来るらしい。
学校に行く前、準備が待ち合わせの時間より早くに終わったので、のんびりとそんなことを考えていた。
すると、
「霙澪様、詩尋様がご到着になりました。どうぞ玄関へ」
玄関付近が持ち場の執事が声をかけてきた。
そう、うただ。立水さんとこの詩尋君だ。
この前の婚約者の騒ぎから昨日の夜まで、ショックを受けていた様子のわりには連絡アプリでの会話もメールも無かったと思っていたら、夜寝る前に電話が来た。
内容は簡潔に、『明日から学校に一緒に登校しよう』というものだった。そして、特に異議もなかった私は何も考えずに了承した。
今思えば、全て計画の内だったのだろう。
「うた、時間通りだな。おはよう」
広い玄関に制服姿のうたは居た。
「おはよう。流石に初日だからね。でもみぞれだって、すぐ家から出てきた」
「だって、迎えに来てもらう身で遅刻なんて論外だろう」
「みぞれらしいな。でも、そういうみぞれもたまには見てみたいな」
「またどうして…」
「えー?だって滅多に見れないし、可愛いだろうから」
「またそんな…どこで覚えたんだ?」
「いっとくけどお世辞じゃないよ?みぞれ。事実」
「……うた?頭打った?」
うたが変だ。今までこんなお世辞を言うことは何回かあったけど、こんな引かないうたは初めてだ。
いくら幼馴染みだっていっても、そんな事言って許される時期はそろそろ過ぎるのに。
「…みぞれは謙虚だね。でも、事実だよ。」
「まあ人が見れる顔だとは自覚しているが、うたが言うほどじゃないぞ?」
なんたってうたは、今をときめくモデルのヒロでもあるんだし。
「今日はそういう事にしとく」
「…そういえば、うた。あのウワサは聞いたか?」
パーティで聞けなかった、あのウワサについて聞いてみる。
…というのは言い訳で、話を逸らさないとそろそろ赤面しそうだったのだ。
「各務原美璃?」
「なんか、クラスの女子たちに誤解されてたからな。各務原家の人だ。誠実に扱え。私も巻き込まれてるし」
「みぞれの方が地位高いのに?」
確かに、家柄は私の方が断然上だが。
「私とはただの友達なんだから。女性の恋心を無碍にするな」
「じゃあきちんと振ればいいの?」
「え、振るのか?」
「うん。だって俺、ずっと好きな人いるし」
____衝撃の事実。こんな長く一緒に居たのに…し、知らなかった。
__そして、なぜか、胸にチリッとした痛みが走った。
「えっ…?」
「みぞれ、知らなかった?」
イタズラが成功した男の子のような笑みを浮かべたうたが、私の顔を覗き込んでくる。だが、思ったよりショックを受けたらしい私は、
「し、知らなかった…
わ、悪かったな、好きな人が居るのに私に構わせて…嫌だったろう?」
こんな、噛み噛みのぎこちない返しをすることしかできなかった。
「んー?全然いいよ。俺にとって、みぞれは特別な女の子だから」
なぜか、みぞおちの奥の辺がキュッとなった。
最近のうたは変な感じだ。それにつられて、私も変になっている気がする。チリッとかキュッとか。
「誤解されるぞ…」
「うん、そうだね」
なぜ、こんなにも平然としてられるのだろうか。嬉しそうにすら見える。
あれ、もしかして脈なしだったり…いや、ないな。
こんないい男を振る女子がいるとは思えない。
私の自慢の幼馴染みだし!
「みぞれ、学校着いたよ。…ん、思ったよりいい反応してくれて嬉しいな。じゃあ、みぞれ。帰りに、また」
「あっ、うた…」
学校についた途端、うたはよく分からない言葉を残してさっさと行ってしまった。
教室に入って、授業が始まってもボーッとしていた私は、いつもより教室の皆(主に女子)がコソコソと私を見て話していたことに気付かなかった。
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