進学パーティ Sideうた
今日は、俺とみぞれといとこの桃桜の進学祝パーティの日だ。
今週は、入学式の日以来、放課後は仕事で全くみぞれに会えなかった。
とても楽しみだ。
執事達も張り切っているのか、新品のオーダーメイドの黒いスーツを着せられた。
支度が終わり、あとは車を待つのみとなり、玄関近くの部屋でみぞれのことを考える。
そして、そう時間が経たぬ間に、俺の住んでいる家である立水本家に桃桜が来た。
「お待たせしました。ひろ」
「ん、行こうか」
その大きな胸が目立ちすぎないようなデザインの膝下までのドレスにみを包んだ桃桜が俺に声を掛け、俺は彼女が乗っていた車、いわゆるリムジンに乗り込む。
パーティ会場に着くと、裏口から入り、小部屋に通されたががみぞれ達の気配はない。
先に到着したようだった。
しばらく二人でお互いの学校について話す。
すると、足音が聞こえてきたから、
「みぞれか?」
と桃桜に声を掛ける。
「いえ、まだ着きそうにないと伺っておりましたが…」
そう言われてみれば、足音の間隔が広く、音も大きい。
足音は俺たちがいる部屋のドアの前で止まる。
警戒する俺たちに、
「失礼する」
少し掠れた男の声が投げかけられた。
「誰だ?」
「相賀の者だが、霙澪殿はいるか。いないのなら来るまで部屋で待たせてくれ」
相賀が…?
思わず、桃桜と顔を見合わせる。
「みぞれは、まだ来ていませんが、貴方は…?」
「答える義務はない。だが、霙澪殿の婚約者だと言っておこうか?」
「みぞれに、婚約者…?そんな話聞いたことない!」
「なぜ立水の者が柊と相賀の話を聞いていなければならない?知らなくて当然だ。」
今までの縁談はそう大したことない奴らだったから、柊家も簡単に蹴っていた。だが、相賀ともなると、話はかなりの大きさだ。
いくら俺がみぞれのことが大好きで、それを柊の親父さんもよく知っていても、今回は簡単にはいかないだろう。
…男が本当に相賀の者なら、だが。
そして俺は、つい、ドアを開いて男と顔を合わせてしまう。
桃桜も外に出て男と向き合う。
イケメンだった。
俺はモデルをやるほどの顔だが、甘めだ。しかしコイツはおれと正反対、みぞれに引けを取らない黒を持つ、シュッとした顔だった。
「ですが、今この場で貴方の身の上を証明できません。今は引き払ってくださいませんか?」
「なぜ?相賀を騙る者などいないだろうに。それを抜きにしても俺は霙澪殿の婚約者だから入れてくれと言っている」
「信用できない」
「詩尋、みぞれの到着を待ちましょう。あなたも、きちんと身の上が証明されるまではお待ちくださいませ」
「まあいいだろう」
男が一応納得したところへ、天使の声が聞こえた。
「うた、桃桜、何があった?」
そのひと声で、固く尖っていた俺の心が溶かされる。
不思議だな。
桃桜が、みぞれに駆け寄り、事の流れをを簡単に説明する。
「みぞれ、この方が…あなたの婚約者だって言うんですけど…相賀の者だとも」
「えっ…?」
「立水の二人が俺を疑っている。霙澪殿、中原右景の名を聞いたことはないだろうか」
そこでようやく男の名を知る。
だが、中原か…相賀財閥でもかなりの上辺の血統だ。
ふと、みぞれの反応が気になって伺い見てみる。が、なにやら微妙な顔をしていた。長年の付き合いと状況から察するに、名前を聞いたことはあるけれどけど、婚約者の話とうまく繋がらない、そんなとこだろうか。
「一週間くらい前に、うちと相賀のお祖父様たちが酒の席で約束をしたらしいな?でも、正式な約束ではなかった気がするぞ」
「ああ、だが、貴女に男の影がないことを心配した貴女のお祖父様があの後正式に約束を交わした。今は正真正銘、貴女の婚約者だ」
みぞれの祖父…心の中を全く読ませない貫禄ある人だ。
俺の気持ちを知っても、今まで大してアクションを起こしていなかったくせに、なぜ今なのか?
否、みぞれがもう16歳になるからだろう。
(ああ、くそっ!俺がもたもたしてたからなのか⁉)
「えっ…?お祖父様が…」
みぞれも、驚いているようだった。
その様子に俺は、この婚約はみぞれの本心ではないのだ、あとで断ると、安易に想定してしまったいた。
だから、後押ししようと、
「みぞれ!そんな話、認めるなよ。だいたい、中原なんて相賀の者ではないじゃないか」
そうなのだ、中原は今のトップの弟の名字だが、正式に相賀の事業に参加してるわけではない。男の父親が、自分には向かないから、と相賀と関係のない家に婿に行ったのだった気がするが…
「俺は養子だから血縁関係こそないないが、今のトップの甥にあたる。相応の教育も受けている」
この男が教育を受けてるのは、みぞれや桃桜あたりと結婚によって財閥同士の縁を深めるためってとこだろうな。
…準備万端なのか。
みぞれはさっきから考え込んでるようで、あまり嫌な顔をしていないから不安になる。
(みぞれ、頼むから…)
「えー、でもいいんじゃないか?もともと立水と仲が良かった柊が相賀とも懇意になれる。子供だって一人か二人できれば満足だろう」
考える前に叫んでいた。
「っみぞれ⁉お前、良いのか⁉」
だが、みぞれはこちらを振り向くと誰もが見惚れる儚げな笑みで、
「うた、心配してくれてるのか?嬉しいが、友達すら二人しかいない私が結婚する事は難しいと思う。少し前からこういうこともあるだろうと覚悟もしていたし、柊のためにもなるなら文句はあるまい」
驚いた。
いや、みぞれらしい潔い覚悟にも驚くには驚いたが、俺を本気で友達認定している事にだ。みぞれの事だから、アレは本音なのだろう。…ショックだ。
みぞれの祖父に心配されてることに納得がいった。そりゃあ、心配にもなるだろう。
「殊勝だな、では後ほど。っと、進学おめでとう」
満足した様子の男が祝の言葉を残して去っていく。
「みぞれ、貴女、そんなこと思っていたんですの?」
「みぞれ…」
思わず、縋るように名前を読んでしまった。
「だって…」
だが、そこで声がかかってしまい、その先を聞くことはできなかった。
(本気ださなきゃ、だめだよな…みぞれがとられる前に)
アクセス数が増えていて、とても嬉しいです。
こんな拙作ですがよろしくお願いします。
友達に小説を書いていることを話したところ、読ませて、と言われましたが恥ずかしいものですね。拒否しました(笑)