詩尋の心情 Sideうた
逃走中のSide詩尋です。
Side詩尋
最近、みぞれに避けられている。桃桜にも聞いてみたが、はぐらかされた。
桃桜も協力している様子だ。
納得するどころか理由も知らない俺は少しモヤモヤするが、みぞれも女子だ。男には分からない何かがあるのだろう。
とは言っても寂しい。
たった数ヶ月前はお互い中学生で、会うことなんてほとんどなかったのに、今はもう、数日離れるだけで辛い。
(あとちょっとしか待ってやれないんだろうな…)
自分の心の狭さに驚く。
※
避けられ始めてから約2週間。
桃桜は依然、何も教えてくれないし、今までは2日以上開いたことがなかった連絡用アプリも、もうだいぶ前の日付で止まっている。
時間が合うときは登校も一緒だったけれど、みぞれは車で送迎してもらってるみたいで時間は合わない。
ちなみに避けているのは俺だけのようで、俺の仕事が入っていない時を見計らって家に来ているらしい。
(俺、なんかやった?)
まさか、自分でも気が付かないうちに、みぞれが気を悪くするような事をしていたのだろうか…
(みぞれ…)
俺は、最終手段に出ることにした。
※
そう思い立った日にすぐさま行動を始め、今に至る。
非協力的だった桃桜も、若干うんざりしているみたいで(俺のしつこさに)俺の提案に迷うことなく頷いてくれた。…それどころか、桃桜が中心になって作戦を立てた。
そして、今日。
仕事は今日はなかったが、みぞれには1日掛かる仕事が入っていると周りにウソをついてもらい、立水本家と同じ敷地にある桃桜の家に招く。
それから、合図を待って俺が桃桜の部屋に行く。
その後は、みぞれに、避けた理由について少し聞いてみようと思う。
(ああ、どんな顔で驚くかな?)
それでみぞれの泣き顔を想像してしまった俺は、やはりドSなのだろう。
あいつは突然のことに対応しにくい性格だし、パニックくらいはしてくれるかな?
※
『そろそろ入る』という連絡に『いつでもどうぞ』と返ってきたから、桃桜の部屋の前に行った。
部屋からは声が漏れるということは無かったために、入るタイミングを躊躇ったけど、深呼吸をしてからノックをしてみた。
桃桜が入室を許すと同時にドアを開けると、
「っ、な、なんで…?」
……驚愕、という顔をしたみぞれがいた。
あまりに可愛くて、イジワルをしたくなった。俺を避けていた罰だ。
__少し怒っている風に言ってみよう。
「みぞれ、ちょっと来て」
「っ‼…み、桃桜!なんで!」
「だから、限界だって言ったじゃない?まあ、そんな悪い方向に行くことはないと、私が確約するわ。詩尋ときちんと話し合いなさい?」
みぞれは大分驚いているようで、珍しく取り乱している。
桃桜は桃桜で敬語が取れるほど心の中で面倒に思っていたらしい。
早くしろ、という目線を絶え間なく送ってくる桃桜に苦笑いをしてからみぞれに向き直った。
「みぞれ」
「あ…」
(あれ、なんか恐れも入ってる。イジメ過ぎちゃったか?)
しょうがないから桃桜に聞いてみよう。
「桃桜、みぞれ、借りていいよね?」
「はい、どうぞ?詩尋も本音、言わないとダメですよ?…もうほら!みぞれ!悪いことにはならないから!」
(え、告れってことかな。いや、うん。ぜ、善処する…)
「ほ、ほんとに?」
桃桜に潤んだ目で上目遣いをしかけていたみぞれに、反応する。
(世の男達が騒ぐのも分かるなぁ。うん、ちょーぜつ可愛い)
血の繋がりもあってか、なんとなく桃桜のしようとしている事が分かった。
桃桜の意を汲んでちょうど良いであろう位置にスタンバる。
「ええ、だから早く行きなっ…さい!」
予想通りの事をした桃桜に苦笑しつつも飛んでくるみぞれから目を離さない。
「ひゃっ…」
そんな声がして腕の中を見ると、何がなんだか分からない、という顔をしたみぞれがいた。
少々暴れるのでしっかりと抱き締めると、みぞれが赤面していた。
ニヤリとした笑みが漏れる。
「みぞれ、もーらい」
桃桜に呆れた顔をされたが、手に入ったものは入ったのだ。
この時だけだとしても。
「みぞれ、俺の部屋行こっか」
胸の痛みを隠して言う。
けれど、それでもうんともすんとも言わないみぞれに、
(あーあ、もう出てっちゃうのかな。みぞれは)
と、そんな事を思った。