逃走中……
次の週、私は徹底的に彼を避けた。
私の心が耐えられないと思ったから。私のワガママだ。
とはいっても、彼は意外と食い下がることはせず、下手に関わってくることもなかった。1日に1言も会話しない日もあった。
桃桜には相談したものの、自分で考えるべきだと諭され今に至る。
こんな心情で、彼にこの心がバレるわけにはいかない。
彼が仕事に行っていて、立水家にいない時を見計らって桃桜と奏璃に会いに行く。
奏璃も物わかりがいい子で、私がうたを避けているのには気がついていた様子。
こんな思いをさせる事には罪悪感があったけれど、今の私にそんな余裕はなかった。
土曜日、私は1日仕事でうたはいないらしいと聞いたので桃桜に会いに来た。
奏璃は部活だそうだ。あの可愛い人形のような見た目で意外にも、ソフトボール部。ピッチャーとの駆け引きに惹かれたそうで、いい先輩にも恵まれたと、楽しそうに話していた。
「みぞれ?もう2週間ですよ?詩尋、私に原因聞いてくるんですけど、そろそろ限界よ?」
「う、うん。ごめんなさい」
桃桜の敬語がとれるのは、相当キテる証拠だ。
…そろそろ、かぁ。
「今のところ、どうなの?気持ちを受け入れるくらいには整理できたのでしょう?」
「ああ、まあ戸惑いはあるがな。ほんと、赤面しにくくてよかった。」
と、桃桜のスマホが震える。そして、悪女の見本のような微笑みを浮かべて…
「でも、みぞれ?…本当に観念する時がきたようですよ?」
「なっ、なんのこと…?」
(お、悪寒が…⁉)
コンコン、と桃桜の部屋のドアが叩かれる。
「はい、どうぞ」
使用人が、お菓子でも持ってきたのだろうか。
ガチャ
「っ、な、なんで…?」
これが悪寒の正体…?
ドアを開けたのは、うただった。
「みぞれ、ちょっと来て」
来ないと思っていた為に、ショックが大きい。
「っ‼…み、桃桜!なんで!」
パニックになりかけて、桃桜にやつ当たってしまう。
でも、そんな私に、桃桜は冷静に言った。
「だから、限界だって言ったじゃない?まあ、そんな悪い方向に行くことはないと、私が確約するわ。詩尋ときちんと話し合いなさい?」
「みぞれ」
「あ…」
桃桜の言葉を理解する間もなく、うたが私の名前を呼ぶ。
私のアタマは既に考えることを放棄していて、足が勝手に後ずさる。そんな裏で、これが本能なのか、と冷静に考えている私もいた。現実逃避だ。
「桃桜、みぞれ、借りていいよね?」
(やめて)
「はい、どうぞ?詩尋も本音、言わないとダメですよ?…もうほら!みぞれ!悪いことにはならないから!」
桃桜が、未だドアの前にいるうたから一番離れたところに逃げてた私の頭を優しく撫でながら言う。
心の波が少し落ち着いた。
「ほ、ほんとに?」
「ええ、だから早く行きなっ…さい!」
桃桜が普段姿からは似ても似つかない力で私の腕をつかみ、いつの間にか近くにいたうたへと引っ張った。
「ひゃっ…」
「みぞれ、もーらい」
突然のことで、力に逆らえなかった私はうたの胸に飛び込んてしまう。
(ふぅっっ、う、うたの匂い…ていうか、抱きしめられてる⁉)
いきなり飛んできたにも関わらず、うたはしっかりと受け止めてくれた。
それはともかくとして、何故かうたの手が背中にまわされる。
離れようとしても、ビクともしないどころか、もっと締め付けられる。
「みぞれ、俺の部屋行こっか」
(うぇぇ!!!???へ、部屋っ⁉)
と心で叫ぶ私の耳に、桃桜のため息が聞こえたした。
また、更新が開くかもしれません…
テスト、追試でした…(泣)